梅雨どき特有の蒸し暑い昼下がり、電車に乗った。

冷房が心地よいけど、席は空いてない。

 

始発駅なのにな 

でも、ま、いいか、乗るのはふた駅だけだし

 

と思い、比較的余裕のある場所を見つけて立つことにする。

 

そしたら、ドアが閉まる直前におばあさんが乗ってきた。

席を譲ったほうがよさそうな、かなりのお年寄りだ。

 

とはいえ、気づかない人もいれば、

気づかないふりの人もいる、ありがちな光景。

 

あの女子高生はどっちだろ 

参考書を一心に見てるから、気づいてないのかな 

 

えっ、待って、あの子、異常に細くない?

 

このあたりでは知られた名門女子校の制服姿で、

膝から下と、肘から先しか露出していないけど、

脂肪が全然ついてない感じ。

横から見えるアゴのラインとかもシャープすぎるし、

顔も白いというか生気がない。

 

もしかして、拒食症かな

 

そんなことを思った瞬間、その子が顔を上げ、

おばあさんに気づいたように見えた。

そして、立ち上がり、

1、2歩、おばあさんのほうに近づいて、

どうぞ、みたいなしぐさ。

おばあさんは軽く会釈して、お礼を言ったようだ。

でも、空いたばかりの席に行こうとして、

その子の全身に視線をやり、すごく不安そうな表情をした。

 

なんていうか、心配に恐怖が混じったような表情。

 

でも、女の子はそのままドアのそばまで移動して、

普通の女子高生の半分くらいしかなさそうな薄っぺらい体を

ドアに預けながら参考書をまた読み始めた。

時々、電車が揺れると、バランスを崩して、

ドアのそばの手すりを骨張った手でつかんだりしながら。

そういえば、席を譲るために立ち上がったときも、

全然スムーズじゃなくて、体をひねり、

自分自身を手で支えながらという感じだったし、

筋力が衰えてるみたいだった。

 

ドアにもたれながらとはいえ、

立ち続けているのはつらいんじゃないかな

 

次の駅でも席は空かず、その次の私が降りる駅に到着。

降りるとき、席が空くかどうか確認したけど、

空く気配はなかった。

 

あの子、大丈夫かな

若者は席を譲るべき、なんて言われるけど、

あの子はむしろ譲られるべき存在

 

家に着いてからも、あの子のことがまだ気になってる。