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労働基準法では、従業員に対し、1日8時間、1週40時間を超えて働かせてはならないとしています(法定労働時間)。また、休日については、毎週少なくとも1日与えなければならないとしています(法定休日)。この法定労働時間を超え、または法定休日に働かせる場合には、事前に「時間外労働・休日労働に関する協定」(以下、「36協定」という)を締結し、労働基準監督署に届出する必要があります。以下では、この36協定で定める時間外労働・休日労働の時間数についてとり上げます。
※本記事では、法定休日の労働のことを「休日労働」と呼びます。

[1]36協定で定める時間
 36協定には、以下の通り一般条項と特別条項があります。

[一般条項]
 36協定では時間外労働や休日労働の時間数を定めます。時間外労働については、以下の通り、上限の時間数が決まっています。

 1ヶ月:45時間(42時間)
 1年:360時間(年320時間)
※()内は1年単位の変形労働時間制の場合

[特別条項]
 一般条項の上限を超えて、一時的または突発的に時間外労働や休日労働等を命じなければならないことがあります。このようなときを想定し、一般条項を超える時間数を、特別条項として定めることができます。なお、特別条項にも以下の通り、上限の時間数が設けられています。

 1ヶ月:100時間未満(2~6ヶ月平均で80時間以内)
 1年:720時間以内

 さらに特別条項には、この上限の時間数のほか、1年について6ヶ月(6回)以内という回数の上限も設けられています。

[2]一般条項と特別条項の違い
 一般条項の1ヶ月の時間数は、時間外労働の時間数のみをカウントすることになっています。これに対し、特別条項の1ヶ月の時間数は、時間外労働に加え、休日労働の時間数もカウントすることになっています(以下の例参照)。

[36協定における1ヶ月の時間数の考え方]

●一般条項
 時間外労働:30時間
 →この時間数のみで判断し、30時間となる
 休日労働:24時間
 →カウントの対象にならない

●特別条項
 時間外労働:50時間
 休日労働:24時間
 →両方の時間数をカウントし、74時間となる

 このため、時間外労働と同時に休日労働も命じているときは、特別条項を適用する段階になって、想定した時間数を超える1ヶ月の時間数となっていることがあります。そのため、一般条項を適用しているときも休日労働の時間数を意識する必要があります。

 各種情報から1ヶ月当たり80時間を超えていると考えられる事業場に対して、労働基準監督署が指導を実施する方向となっています。特別条項の1ヶ月の時間数の上限は100時間未満となっていますが、特別条項を設けるときには、これを上限と考えるのではなく、特別条項の位置づけも念頭におき、実効性のある時間外労働等の時間数の削減も考える必要があります。

■参考リンク
厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2024/05/09

企業に求められる退職者の情報漏えい対策

先日、同業者が集まる会合で、商品開発に従事していた従業員がライバルの会社に転職したことで、機密情報の漏えいを心配しているという話を聞いた。当社も商品開発に従事する従業員がいることから、どのような情報漏えいの対策をしておくべきか、社労士に相談することにした。

 先日、同業者が集まる会合で、商品開発に従事していた従業員が競合他社に転職したことで、自社の情報を漏えいしている可能性があるという話を聞きました。当社でも商品開発に関わる情報は、当然、競合他社に知られたくない内容です。

 そうですね。会社にとっては極めて重要な情報ですね。

 この話を聞いて、当社も、今後、同じようなことが起きる可能性があります。会社は、どのように退職者の情報漏えいの対策をしていけばよいのでしょうか?

 一般的な対策としては、情報管理について規程を整備したり、誓約書の提出を求めたりして、会社の技術上・営業上の秘密(以下、「秘密情報」という)の漏えい防止対策を行うことが多いと思います。ただ、まずは、秘密情報を漏えいしないことを従業員に改めて伝えることが重要なのでしょうね。

 確かにそうですね。

 そのほかの対策として、情報を把握できる従業員の数を絞ることが考えられます。例えば、製造ラインを新設する場面で、設備の工夫や配置の仕方の工夫によって他社よりも優れているような場合、秘密情報の全体を把握できる人数を制限するとともに、秘密情報に接する従業員が秘密情報を持ち出しにくい対策を行ったりすることが挙げられます。

 確かに製造にかかわる従業員が、新設する製造ラインに関するすべての情報を、初めから知っておく必要はないですよね。

 そうですね。秘密情報を持ち出しにくくする対策としては、工場内にスマートフォンも含めたカメラ等の撮影ができる機器を持ち込むことを禁止したり、私物を持ち込む際は、透明バックに入れることを求めたりするといった方法が考えられます。

 できる対策はいろいろありますね。

 開発の中核者が退職するケースも考えられますが、このような場合は退職に伴う漏えいリスクを下げる対策が必要です。1つ目が、入社時・退職時だけでなく、開発プロジェクトが始まる場合は、開始時にも秘密保持の契約書を締結していくことが挙げられます。これに加え、秘密保持を徹底するため、競業避止義務契約を締結することも考えられます。

 競業避止義務契約ですか。

 開発の中核者が知っている情報が会社の生命線に関わるものであれば、競業避止義務契約を締結することも考えた方がよさそうですね。

 2つ目が、退職の申し出があった際の社内情報へのアクセス権の制限、退職時の入出カードの回収、アカウント削除などが考えられます。この点をルーズにしていると、情報漏えいがあったときの会社の責任にもなりかねません。

 なるほど、開発の情報などをできるだけ早く見られないようにすれば、情報漏えいリスクを下げることができますね。

 3つ目としては、働きやすい職場環境をつくって会社との信頼関係を保ち、秘密情報を持ち出して会社を困らせるという気持ちを起こさせないようにすることも重要ですね。

 そうですね。従業員が故意に情報を持ち出すことは絶対に避けたいところです。対策としてどこまで実施すべきか、社内で検討したいと思います。

>>次回に続く

 



 今回は退職者の情報漏えいについてとり上げましたが、転職者を受け入れる際も注意が必要です。特に競合他社の中核人材を受け入れる場合は、転職者が転職元との間で負っている秘密保持義務や競業避止義務といった義務の有無を確認すること、転職者の採用時には転職元の秘密情報を持ち込ませないようにすること、転職者の採用後もその業務内容等を定期的に管理することが、対策として考えられます。

■参考リンク
経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~

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障害者雇用に関しては、2024年4月より法定雇用率が2.5%に引き上げられ、更に2026年7月には2.7%に引き上げられます。法定雇用率の引き上げに対応すべく、新規雇用を進めている企業も多いかと思われます。重要性を増す障害者雇用ですが、これに関連して、先日、厚生労働省から「令和5年度障害者雇用実態調査」の結果(以下、「調査結果」という)が公表されました。以下では、この調査結果から、障害者雇用の現状と障害者雇用に当たっての課題・配慮事項について確認します。

[1]障害者雇用の現状
 この調査は、2023年6日1日現在(賃金および労働時間については2023年5月中)で実施されたもので、常用労働者5人以上を雇用している民営事業所(以下、「従業員規模5人以上の事業所」という)から無作為に抽出した約9,400事務所を対象に行われたものです。
 調査結果によれば、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は110万7,000人で、前回調査が行われた2018年度と比べて25万6,000人増加しました(2018年度は85万1,000人)。この内訳をみてみると、身体障害者が52万6,000人(同42万3,000人)、知的障害者が27万5,000人(同18万9,000人)、精神障害者が21万5,000人(同20万人)、発達障害者が9万1,000人(同3万9,000人)でした。
 一方、職業別に雇用者数の割合をみてみると、身体障害者と精神障害者では事務的職業、知的障害者と発達障害者ではサービスの職業がもっとも多くなっています。

[2]障害者雇用に当たっての課題・配慮事項
 障害者を雇用する際の課題について、すべての障害の種別において、「会社内に適当な仕事があるか」がもっとも多くなっています。また、身体障害者では、「職場の安全面の配慮が適切にできるか」という項目が続いています。
 次に、雇用している障害者への配慮事項について、割合の多いものをみてみると、以下のようになっています。障害の種別に応じて、様々な配慮が行われていることが分かります。

※()は割合

[身体障害者]
休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮(40.2%)
通院・服薬管理等雇用管理上の配慮(38.3%)
短時間勤務等勤務時間の配慮(37.9%)

[知的障害者]
能力が発揮できる仕事への配置(51.1%)
短時間勤務等勤務時間の配慮(50.9%)
業務実施方法についてのわかりやすい指示(50.3%)

[精神障害者]
短時間勤務等勤務時間の配慮(54.3%)
休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮(50.9%)
通院・服薬管理等雇用管理上の配慮(49.2%)

[発達障害者]
休暇を取得しやすくする、勤務中の休憩を認める等休養への配慮(61.2%)
短時間勤務等勤務時間の配慮(50.9%)

 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障害者の雇い入れや雇用の継続などに取り組む事業主に対する助成金制度を設けています。下記の参考リンクから、取り組み内容や目的別に利用可能な助成金を探すことが可能です。このような助成金も活用しながら、障害者の雇用・定着を進めていきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金関係助成金 取り組み事例で探す

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従業員が不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりに取り組む動きが広がりつつあります。不妊治療と仕事の両立については、2021年2月に次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定指針が改正され、一般事業主行動計画に盛り込むことが望ましい事項として追加され、2021年4月より適用されています。以下では、先月、厚生労働省から公表された「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」(以下、「調査」という)の結果から、企業の不妊治療への支援制度の導入状況を見ると同時に、関連する助成金制度についてとり上げます。

[1]不妊治療への支援制度
 この調査は、「女性の活躍推進企業データベース」においてデータ公表を行っている企業を対象として、2023年7月から8月にかけて実施されたもので、回答があった従業員規模10人以上の企業1,859社(労働者アンケート調査については男女労働者2,000人)に行い、その調査結果を集計したものが公表されています。
 調査結果によると、不妊治療のための制度がある企業は26.5%で、もっとも多く導入されている制度は、不妊治療に利用可能な休暇制度が47.8%、不妊治療に利用可能な勤務時間や場所等の柔軟性を高める制度(テレワークを含む)が19.4%、不妊治療に利用可能な通院や休息時間を認める制度が14.3%となりました。この不妊治療に利用可能な勤務時間や場所等の柔軟性を高める制度については、半日単位・時間単位の休暇制度がもっとも多く、テレワーク(在宅勤務)、短時間勤務、フレックスタイム制度と続いています。

[2]両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
 このような企業の取組を支援する助成金として、両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)が設けられています。これは、不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を従業員に利用させた中小企業が対象となる助成金です。対象となる事業主の要件と支給額は以下の通りです。

[対象となる事業主]
次の1から6のいずれかまたは複数の制度を導入し、従業員に利用させた事業主です。
1.不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)
2.所定外労働制限制度
3.時差出勤制度
4.短時間勤務制度
5.フレックスタイム制度
6.テレワーク

[支給額]
A「環境整備、休暇の取得等」
 最初の従業員が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用 30万円
B「長期休暇の加算」
 Aを受給し、従業員が不妊治療休暇を20日以上連続して取得 30万円
※A・Bとも1事業主あたり1回限りの支給

 申請にあたっては、企業トップが制度の利用促進についての方針を全従業員に周知し、社内ニーズの調査を行い、制度の利用の手続き等を就業規則等に定めて周知することが必要です。このほか、両立支援担当者の選任、不妊治療両立支援プランの策定も必要です。

 厚生労働省のサイトには、事業主向けに「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」、本人、職場の上司、同僚向けに「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」が公開されています。今後、企業の支援制度を検討する際には、このようなマニュアル等も活用するとよいでしょう。

■参考リンク
厚生労働省「「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」結果について
厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために

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異次元の少子化対策として、仕事と育児の両立に注目が寄せられていますが、一方で高齢化や高齢者雇用の増加に伴う仕事と介護の両立も、企業が取り組むべき重要課題となっています。そんな中、経済産業省は、仕事をしながら家族の介護に従事する従業員(ビジネスケアラー)を取り巻く課題への対応として、企業経営における仕事と介護の両立支援が必要となる背景・意義や両立支援の進め方などをまとめた「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表しました。以下では、この背景とポイントをとり上げます。

[1]ガイドライン策定の背景
 ビジネスケアラーの数は現在増加傾向であり、2030年時点では約318万人に上り、経済損失額は約9兆円という試算が出されています。このような労働損失の影響を抑えることが必要になっています。
 企業にとっても、従業員が抱える介護の問題は、従業員本人のパフォーマンスの低下や介護離職などに繋がり、結果として、事業活動の継続にも大きなリスクを生じさせることになります。そのため、企業としての取り組みを進めるべき重要な時期に来ています。

[2]ガイドラインのポイント
 ガイドラインでは、経営者層を対象に、企業が取り組むべき事項を以下の3つのステップで、具体的に示しています。
 
[STEP1]経営層のコミットメント
仕事と介護の両立支援において全社的に取り組む意向を示す
□経営者自身が知る
 「介護」を知り、企業活動への影響の可能性を認識しているか?
□経営者からのメッセージ発信
 仕事と介護の両立施策推進に向けて、ポリシーを発信しているか?
□推進体制の整備
 担当役員設置/担当者の指名、管理職層の巻き込みができているか?

[STEP2]実態の把握と対応
組織内での仕事と介護の両立における影響・リスクを把握
□アンケート・聴取
 社内の介護に関する状況をしっかりと把握できているか?
□人材戦略の具体化
 介護を行う従業員が活躍できるよう人材戦略を設計できているか?
□適切な指標の設定
 仕事と介護の両立支援に関して適切な指標を設定できているか?

[STEP3]情報発信
企業がプッシュ型の情報発信を行うことで、従業員個人の将来的なリスクを低減
□基礎情報の提供
 介護保険制度などの基礎情報をプッシュ型で提供できているか?
□研修の実施
 全社員向けにリテラシー向上の研修や管理職向けの両立支援推進に関する研修の機会を提供できているか?
□相談先の明示
 社内での相談先・プロセスを社員向けに明示的に伝えられているか?

 このステップに加え、企業の実情やリソースに応じて、人事労務制度の充実、個別相談の充実やコミュニティ形成等、企業独自の取組の充実も求められます。

 今国会には、育児・介護休業法の改正法案も提出され、成立すれば、介護離職を防止するための仕事と介護の両立支援制度の強化が企業に求められることになります。従業員の仕事と介護の両立への具体的対応が今後必要となります。

■参考リンク
経済産業省「「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表します

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労働災害が発生し、労働者が休業したり、死亡したりした際には、労働基準監督署に労働者死傷病報告(以下、「死傷病報告」という)を提出することが義務付けられています。この提出を怠ると、「労災かくし」として問題になります。以下では、労災かくしとはどのようなものか、死傷病報告の提出に関して誤解しやすい点を確認します。

[1]労災かくしとは
 労災かくしとは、故意に死傷病報告を提出しないこと、虚偽の内容を記載した死傷病報告を提出することを言います。
 そもそも、この死傷病報告は労働安全衛生法において、同様の労働災害の再発防止のための対策を検討することを目的として提出義務が課せられています。死傷病報告には、労働災害の程度により2種類の様式があり、死亡および休業4日以上の場合(様式第23号)と休業4日未満の場合(様式第24号)とに分かれます。提出期限は、死亡および休業4日以上の場合は遅滞なく、休業4日未満の場合は四半期ごとの翌月末日までとなっています。なお、提出先はいずれも管轄する労働基準監督署です。

[2]死傷病報告の提出に際して誤解しやすい点
 死傷病報告は、労働災害が発生した際に提出すべきものであるため、休業4日未満で労災保険の休業補償給付を受けない場合であっても、提出する必要があります。労災保険の休業補償給付を受けたときに提出するものだと誤解しているケースがありますが、労災保険の給付の有無に関わらず、死亡または休業した場合に提出が必要です。なお、通勤途上の災害による休業や死亡の場合には、提出は不要です。
 また、派遣労働者が労働災害にあった場合は、派遣元事業主、派遣先事業主ともに管轄する労働基準監督署へ死傷病報告を提出する義務があります。流れとしては、まず派遣先事業主が、管轄する労働基準監督署に死傷病報告を提出し、その写しを派遣元事業主に送付します。そして、派遣元事業主は、その写しの内容を踏まえて死傷病報告を作成し、派遣元を管轄する労働基準監督署に提出を行います。

 死傷病報告をはじめとした労働安全衛生関係の一部の手続きについて、2025年1月1日より電子申請での提出が義務となります。詳細は今後公表されると思いますが、今のうちから電子申請に対応できるよう準備を進める必要があります。

■参考リンク
厚生労働省「労災かくしとは何ですか。
厚生労働省「「労災かくし」は犯罪です。
厚生労働省「労働者死傷病報告の提出の仕方を教えて下さい。
厚生労働省「労働安全衛生関係の一部の手続の電子申請が義務化されます

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文書作成日:2024/04/11

労働基準監督署の役割と労働局との連携

厚生労働省は毎年、地方労働行政運営方針を策定し、公表している。そこで、この内容も踏まえ、あらためて労働基準監督署の役割などについて、説明することにした。

 新年度が始まりました。行政機関も多くは年度単位で業務が進められているので、厚生労働省が策定した地方労働行政運営方針を踏まえて、都道府県労働局が事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、各労働基準監督署では、それをもとに計画的な行政運営を行うこととしています。

 運営方針に従って運営されているのですね。

 はい、そうなのです。そこで今日は、そもそも労働基準監督署がどのような役割を持っているのか、確認したいと思います。

 労働基準監督署の役割ですか。

 まずイメージするのは、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付を行ったり、これに関する相談対応に当たったり、また、監督指導を行う役所ということではないでしょうか。

 確かに36協定届や就業規則の提出先だったり、労働基準監督官が会社にきて労働時間や賃金に関していろいろ指導を受けたりする、といったイメージがあります。実は少し怖い印象があります。一方では、労災保険の窓口というイメージもあります。

 そうですね。先ほど、私がお伝えした内容は「監督課」の説明でしたが、業務上においてケガをした場合に労災保険給付などを行う「労災課」もあります。これに加えて、機械や設備の設置に係る届出の審査や、職場の安全や健康の確保に関する技術的な指導を行う「安全衛生課」もあります。労災事故が起こった事業場へ立ち入りを行い、事故が発生した危険な場所に関する指導も担当しています。

 幅広い業務をしているのですね。

 そういえば、先日、同業者が集まる会合で、同一労働同一賃金に関する調査があったという話を聞きました。これも労働基準監督官が行っているのでしょうか。また、今年度も同様の動きがあるのですか。

 同一労働同一賃金は、パートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法が根拠であるため、これらの法律を担当する役所は都道府県労働局になります。ただし、労働局と労働基準監督署が連携し、2023年11月からは、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の格差の是正に向けて、同一労働・同一賃金制について、労働基準監督署による調査結果を踏まえ、基本給・賞与の差の根拠の説明が不十分な企業等について、文書で指導を行い、経営者に対応を求めるなど、その施行を徹底する」取扱いとしています。

 なるほど、そのような動きがあるのですね。

 労働局は都道府県ごとに置かれているので47ヶ所ですが、労働基準監督署は全国に321ヶ所あるため、様々な身近な相談が寄せられることになります。そのため、今後は労働基準監督署で同一労働同一賃金に関する課題に係る事実確認が行われ、労働局と連携していくという流れになるようです。

 なるほど、労働基準監督署と労働局との連携は強化されているのですね。労働基準監督署の調査があった際には、事前に相談しますね。


※労働基準監督署の組織は、一般的な労働基準監督署の組織を前提に解説しています。

>>次回に続く

 



 2024年4月から、建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師について、時間外労働の上限規制が適用となりましたが、この中で、建設業とトラック・バス・タクシードライバーについては、厚生労働省と国土交通省が連携をとることになっています。例えば、建設業の人材確保・育成において、厚生労働省と国土交通省とが連携して関係施策を実施することとしています。

■参考リンク
厚生労働省「労働基準について

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労働災害における事故の型別では「転倒」が最多であり、2022年の発生状況では、死傷災害全体に占める割合で4分の1を超えています。そこで、転倒災害の実態と防止対策をとり上げます。

[1]転倒災害の実態
 2022年の発生状況における転倒の性別・年齢別の割合をみると、以下のようになっています。50歳以上の女性の割合が約47%を占めており、高齢者雇用が進む中、確実な対策が求められる事項となっています。

[男性]
 40歳~49歳 7.3%
 50歳~59歳 10.8%
 60歳以上  14.6%
[女性]
 40歳~49歳 6.6%
 50歳~59歳 18.5%
 60歳以上  29.1%

 転倒によるケガの内容としては「骨折」が約70%を占め、転倒災害による平均休業日数(※)47日です。また、転倒時の類型では「つまずき」が37.8%、「滑り」が31.8%となっています。
※労働者死傷病報告による休業見込日数

[2]必要となる防止対策
 厚生労働省発行のリーフレット「労働者の転倒災害(業務中の転倒による重傷)を防止しましょう」では、この「つまずき」や「滑り」について、次のように原因ごとに対策を挙げています。

[つまずき]

  • 何もないところでつまずいて転倒、足がもつれて転倒
    ⇒対策:転倒や怪我をしにくい身体づくりのための運動プログラム等の導入
  • 作業場・通路に放置された物につまずいて転倒
    ⇒対策:バックヤード等も含めた整理、整頓(物を置く場所の指定)の徹底

[滑り]

  • 凍結した通路等で滑って転倒
    ⇒対策:従業員用通路の除雪・融雪/凍結しやすい箇所への融雪マット等の設置
  • 作業場や通路にこぼれていた水、洗剤、油等により滑って転倒
    ⇒対策:水、洗剤、油等がこぼれていることのない状態の維持(清掃中エリアの立入禁止、清掃後乾いた状態を確認してからの開放の徹底)
  • 水場(食品加工場等)で滑って転倒
    ⇒対策:滑りにくい履き物の使用
        防滑床材・防滑グレーチング等の導入、摩耗している場合は再施工
        隣接エリアまで濡れないよう処置

[3]職場のチェックリスト
 転倒事故の防止のためには、以下のような項目についてチェックを行い、できていない項目については対策を行う必要があります。

  • 通路、階段、出口に物を放置していないか
  • 安全に移動できるように十分な明るさが確保されているか
  • 転倒を予防するための教育を行っているか
  • 作業靴は、作業に適したものを選んでいるか
  • ヒヤリハット情報を活用して、転倒しやすい場所の危険マップを作成・従業員に周知しているか

 従業員の転倒災害防止の取組を支援するものとして、エイジフレンドリー補助金があります。以前は60歳以上の労働者を雇用する中小事業者が対象でしたが、2024年度からは全ての中小事業者に拡充されています。このような補助金も活用しながら、転倒災害の防止対策を行っていきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「令和4年の労働災害発生状況を公表
厚生労働省「労働者の転倒災害(業務中の転倒による重傷)を防止しましょう
厚生労働省「エイジフレンドリー補助金について

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新年度になり、新しくアルバイトを始める学生も多いことから、厚生労働省では例年実施している「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンを今年も実施しています。今回はこのキャンペーンの内容について確認をしましょう。

[1]主な取組内容
 今回のキャンペーンでは、4月1日から7月31日にかけて都道府県労働局による大学等への出張相談や大学等でのリーフレットの配布等による周知・啓発等が実施されることになっています。具体的にはアルバイトを始める前に労働条件の確認を促すことなどが呼びかけられます。特に重点的に呼びかけが行われる項目として、以下の5点が挙げられています。

  1. 労働条件の明示
  2. シフト制労働者の適切な雇用管理
  3. 労働時間の適正な把握
  4. 商品の強制的な購入の抑止とその代金の賃金からの控除の禁止
  5. 労働契約の不履行に対してあらかじめ罰金額を定めることや労働基準法に違反する減給制裁の禁止

[2]特に注意したいシフト制での勤務
 学生アルバイトについては、学業との両立があることからシフト制で働くことで時間の調整が可能となり、企業側にとっても業務の状況により勤務を柔軟に調整できるというメリットがあります。ただし、企業が半ば一方的にシフトを変更するようなケースも見られ、学生アルバイトが予定していた勤務がなくなることで思うように収入が得られなくなったり、急なシフト変更により学業との両立が難しくなったりするなどのトラブルに発展することがあります。
 このシフト制に関しては、2022年1月に厚生労働省より「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」が公表されています。この中で、特に留意する事項として「始業・終業時刻」、「休日」が挙げられ、例えば「休日」については、具体的な曜日等が確定していない場合でも、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明記することが求められています。

 2024年4月より労働条件の明示ルールが変わり、書面明示事項が追加となりました。これに対応した労働条件通知書を用いて、労働条件の明示を行い、合わせて口頭で説明するなどして、学生アルバイトが安心して働くことができるようにしていきましょう。

■参考リンク
厚生労働省「令和6年度「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンを全国で実施します
厚生労働省「いわゆる「シフト制」について

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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文書作成日:2024/3/28

2024年10月からの社会保険の適用拡大

2024年10月に、従業員数(厚生年金保険の被保険者数)51人以上の企業で、週20時間以上働くパートタイマーやアルバイト等(以下、「パートタイマー」という)も社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することになります。以下では、今回の社会保険の適用拡大について押さえるべき点についてとり上げます。

[ 1 ]

対象となる企業

 社会保険の適用拡大は、2020年に成立した年金制度改正法により、2022年10月に従業員数101人以上、2024年10月に従業員数51人以上の企業について、週の所定労働時間が20時間以上等の加入要件を満たしたパートタイマーが、新たに社会保険の被保険者になることが決定されました。
 ここにおける従業員数とは、「厚生年金保険の被保険者数」であり、社会保険の適用事業所で厚生年金保険の被保険者の総数が過去12ヶ月のうち、6ヶ月以上50人を超えることが見込まれることを「常時 50人を超える」として、特定適用事業所として扱うことになっています。
 そのため、2024年10月からの特定適用事業所は、2023年10月から2024年9月までに、厚生年金保険の被保険者数が6ヶ月以上50人を超えた適用事業所が該当することになります。2024年10月時点の厚生年金保険の被保険者数で確認するわけではありません。
 なお、法人事業所の場合は、法人番号が同じ適用事業所の厚生年金保険の被保険者数で判断し、個人事業所の場合は、適用事業所ごとの厚生年金保険の被保険者の総数で判断することになっています。

[ 2 ]

対象となる従業員

 社会保険の適用拡大に伴い、新たに被保険者となるパートタイマーとは、1週間の所定労働時間または1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である人のうち、以下の1~3のすべてに該当する人について、短時間労働者として社会保険の加入対象となります。

1.週の所定労働時間が20時間以上であること
 週の所定労働時間とは、就業規則、雇用契約書等により、そのパートタイマーが通常の週に勤務すべき時間のことです。必ずしも週単位で所定労働時間が決まっている場合ばかりではないため、例えば、1ヶ月単位で決められているときは、1ヶ月の所定労働時間を12分の52で除して算定するといった方法があります。

2.所定内賃金が月額88,000円以上であること
 基本給や各諸手当等を含めた所定内賃金の額が、88,000円以上であることが賃金の基準になります。月給ではなく、時間給等で賃金が決まるときには、月額に換算して判断します。なお、以下の賃金は所定内賃金に含めないことになります。

  • 結婚手当、賞与等の臨時に支払われる賃金および1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
  • 時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金
  • 精皆勤手当、通勤手当、家族手当等の最低賃金に算入しない賃金

3.学生でないこと
 大学、高等学校、専修学校、各種学校(修業年限が1年以上の課程に限る)等に在学する生徒または学生は加入の対象外です。ただし、以下の学生は加入の対象となります。

  • 卒業見込証明書を有する方で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の人
  • 休学中の人
  • 大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の人等

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企業が今からやるべきこと

 新たに特定適用事業所に該当する可能性のある企業は、特定適用事業所になることで新たに社会保険に加入することとなるパートタイマーを確認しておくとよいでしょう。社会保険料の負担は少なくないため、社会保険の加入に前向きなパートタイマーばかりではなく、労働時間を減らすといった就業調整を行うことで、社会保険に加入しない労働条件に変更を希望するパートタイマーも発生することが予想されます。
 また、社会保険に加入はするものの、新たに発生する社会保険料の負担を踏まえた上で、社会保険の加入前の手取り額となるように希望するパートタイマーもいます。
 個々のパートタイマーにどこまで対応できるかは企業によって異なりますが、就業調整をすることで、人手不足となり業務に影響が出るようなことは避ける必要があります。

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キャリアアップ助成金

 厚生労働省は、「年収の壁・支援強化パッケージ」の一つとして、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」を創設しました。2023年10月1日以降、企業が新たにパートタイマーを社会保険に加入させた場合、加入させたパートタイマー1人あたり最大50万円の助成金が支給されるものです。
 助成金を受給するためには、各種要件を満たす必要がある他、事前に「キャリアアップ計画書」を提出する必要があります。助成金の活用を考えるときには、より早めに計画をする必要があります。
 

 厚生労働省は社会保険の適用拡大特設サイトを充実させており、企業や新たに社会保険に加入するパートタイマーが活用できるパンフレットや動画等を公開しています。参考リンクからアクセスして、活用をしたいものです。

■参考リンク
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内
厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

 

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