「で、先生はどんな資格をお持ちなんですか?」
こんな会話から挨拶が始まった。
「いやぁ~、別に資格なんてありません。高校生くらいからパソコンをいじっていたと言うくらいで…」
メガネを軽く持ち上げて、その女性は明らかに落胆したように言った。
「そうですか…」
彼女は日本女子大を出ていたが、就学中に発症したのだそうだ。
英語が堪能だと聞いていた。
僕は明らかに英語もできない…。
30代から50代までの女性9人の電算課は、こうしてスタートした。
電子編集は今ではごくごく当たり前だが、20年前は大手の新聞社が導入したばかりの頃だった。
それをいち早くとあるシステム会社が、ワープロでも編集可能なソフトを開発して、売れ筋となった。
これまで、和文タイプを導入していた彼女たちの仕事は一変したわけである。
触ったことのないキーボードに戸惑う人も多かった。
「先生! 大変です。私の入力した文字がどんどん消えていってしまいます~!」
「あのですね。これは画面から見えなくなるだけで、こうしてスクロールすると、ほら出てくるでしょ~」
と、こういった感じで日々が流れていったのである。
私のこころと身体はへとへとになっていった。
そんな時に事件は起きた。