とても楽しみにしていたコンサートに行ってきました。2月の新日フィルのポーランド・プロは組み合わせの妙、という感じで楽しみでしたが、こちらはドストライクな内容、チェコのオケによるスメタナ/わが祖国です!

 

 

プラハ交響楽団(東京芸術劇場コンサートホール)

指揮:ペトル・アルトリヒテル

 

スメタナ/連作交響詩「わが祖国」

 

 

プラハ交響楽団による「わが祖国」は2008年にも、おなじみイルジー・コウトさんの指揮で聴いています。「わが祖国」自体が極めて完成度の高い、名曲6曲による交響詩群ですが、やはりチェコのオケで聴くのは格別なものがあり、その時もめっちゃ感動した記憶があります。今回もただただ期待しかありません。

 

ホールに入ると、高校生たちが集団で聴きに来ていました。クラシック・ファンの中には中学生や高校生が集団で聴きに来ることを敬遠する向きもありますが(チケットが取りにくくなるので)、未来の大切なファンの卵なので、私は全くウェルカムです。それにしても、N響の土曜日の公演ではたまに見かけますが、海外のオケの来日公演では珍しい。チケットも高いだろうに、若い頃から本場の音楽に触れるのは本当に貴重な機会だと思います。

 

 

第1曲 ヴィシェフラト(高い城)

冒頭の印象的なハープ。ハープが活躍する曲と言えば、マーラー5番第4楽章、ブルックナー8番第3楽章などが思い浮かびますが、このヴィシェフラトは吟遊詩人の語り出し、より心に響きます。プラハ交響楽団は繊細な弦とマイルドでメロウな響きの木管群が印象的。アルトリヒテルさんの指揮は自然体、どちらかと言えば、大らかな指揮です。ただ、最後の盛り上がりの前の弦はたっぷりとやってくれて感動的でした。私は曲として完成されていつつ、この後への期待感を盛り上げるこのヴィシェフラトが大好きです。

 

第2曲 ヴルタヴァ

冒頭の弦の響き!何と形容したらいいのでしょうか?一言で言うと真実味を持った響きです。私は「わが祖国」の中ではこのヴルタヴァをちょっぴり苦手にしていますが(もちろん名曲ですが、他が飛び切りの名曲であることと、ヴルタヴァ自体が有名過ぎるので、やや聴き過ぎ感あり)、この冒頭の響きにはぐぐっと引き込まれます。農夫たちの結婚式の場面のウキウキ感も○。主題が帰ってくる前のフルートの軽やかさと言ったら!最後のヴィシェフラトの主題は抑え目に。ブラニークを考えたペース配分を感じました。

 

第3曲 シャールカ

劇的な冒頭から、途中の夢見心地の音楽、ラストの追い込み、と非常にドラマティックな曲。そう言えば、2月の新日フィルのポーランド・プロのモニューシュコ/歌劇「パリア」序曲は似た雰囲気の曲でした。途中のクラリネットのソロが素晴らしい。夢見心地のところは弦に強弱のニュアンスをふんだんに付けたアルトリヒテルさんの歌い方が絶妙で、頂点を迎えた後、静まる前のヴァイオリンのポルタメントにも痺れます。最後の追い込みは悠然と余裕を持って進めていました。

 

第4曲 ボヘミアの森と草原から

この曲、いつも聴いても不思議に思うのは、短調の部分。深い森を表していると思われますが、何かそれだけではないような緊張感も感じます。最後の弦楽によるユニゾンのところは、強奏して迫力の演奏とするケースが多いように思いますが、やや肩の力を抜いて、フレーズも切って新鮮な印象でした。

 

第5曲 ターボル

冒頭の主題は「レレレーレー」。フス派の讃美歌「汝ら神の戦士」の引用とは言え、この単純な主題で交響詩を作ってしまうなんて、スメタナって本当に凄いなと思います。レナード・バーンスタインはベートーベン交響曲7番の解説で、単純な主題(第2楽章は「ミーミミミーミー」)にも関わらず芸術的な曲にならしめているのはフォルムが素晴らしいからだ、ということを言っていたと記憶していますが、スメタナの場合は何がこんなに凄いんでしょうか?前半の一番の盛り上がりのところなんて、「レレレーレーレーレーレレーレーミドドー」ですよ?天才としか言いようがありません。アルトリヒテルさんはこの場面でこの日一番の強奏をしていました。ターボルを聴く至福の瞬間です。

 

第6曲 ブラニーク

私はターボルに続けて、ブラニークの出だしをどのように演奏するのか、とても興味があります。クーべリック/チェコ・フィル盤ではここをドラマティックにしていますが、アルトリヒテルさんはアンチェル/チェコ・フィル盤(愛聴盤です)のように比較的アッサリ目に進めました。伝説の戦士たちの復活の場面は、最初は可愛らしい提示で、後にどんどん育ってドラマティックな音楽になる、その展開とのギャップに萌えてしまいます。最後、フス教徒の主題とヴィシェフラトの主題がかけ合うところは両主題をここぞとばかりに高らかに鳴らして、ここにクライマックスがあることを伝えます。全体のバランスを考えた指揮。その後の突き進むフィナーレでは、それまでゆっくり目に指揮していたアルトリヒテルさん、最後の最後、ここに来て走りました!これは堪らない!やられた!もうどうすることも出来ません。目には自然と涙がこぼれます。

 

 

単に「わが祖国」を聴くことだけでも既に感動は約束されていましたが、ペトル・アルトリヒテルさんの指揮、プラハ交響楽団の演奏で聴くことができ、感無量でした!世界的にオーケストラがどんどんインターナショナルになっているように思いますが…、こういうお国ものの演奏というのは本当に大切にしてほしいと願っています。

 

 

最後に聴きに来てた高校生のみなさまへ。今日の演奏はどうでしたか?いろいろな感想を持ったと思います。今日の思い出をどうか大切に。クラシック音楽はきっとみなさまの一生の宝物となることでしょう。

 

とか言って、ちょっぴり先輩風を吹かせてしまいましたが…、もしかすると高校生たち、終演後に、「スメターチェク/チェコ・フィルよりテンポがゆっくりだったな」とか「コーダの金管と弦の迫力はターリヒ/チェコ・フィルを彷彿とさせると言えよう」とか言ってたりして?(笑)

 

 

(写真)ヴィシェフラト(プラハ旧城)から見たプラハ市街。遠くにプラハ城と聖ヴィート大聖堂が見える。ヴィシェフラト墓地には、スメタナやドヴォルザークのお墓があります。