韓【A lost girl】 投稿者:lemon様
A lost girlひやりとした風が開け放った窓から入りこんでくるのを感じた。その瞬間、するりと何かの拍子で俺は目覚めてしまった。ベッドサイドに置かれた時計は午前3時。随分と中途半端な時間に目覚めてしまったと思う。明日の講義は1限からだから、早起きをしなければならないのに。そっとため息をこぼして、寝返りをうつと、ハニの小さな背中が目に入った。すっかり眠りこけているのだろう、と思って再び瞼を閉じようとした。「っや、怖い…」その瞬間、小さく零れた彼女の声に、何事かと思って再び目を開ける。見れば、彼女の背中が少し震えているのが分かった。すすり泣くみたいな声も聞こえる。うなされてでもいるのだろうか、と心配した俺は、ためらいがちに小声で声をかけた。「おい、ハニ。」彼女の表情を伺おうと上体をおこし、肩に手を置けば、ハニはぼんやりとした顔で天井を向き、それから俺に焦点を合わせた。「スン…ジョ…?」「どうした。うなされたのか?」彼女の表情はこわばっていて、頬にはうっすらと涙のあとがみえる。俺は、少し夜風で冷えたその頬にふれ、その涙のあとを親指で拭って消してやった。「よかったぁ。」触れた手の感触に安堵したのか、心底ほっとした表情をうかべ、ハニは俺の方へと腕を伸ばしてくる。そうして、俺の背にきゅっと腕を回すから、促されるように俺も彼女に腕を回した。「よかった、スンジョがいたぁ。」寝ぼけたようにわけのわからないことを言うハニに、少し笑いながら、あやすようにその背をトントンっ、と叩いてやる。「なんだよ、悪夢でも見てたのか?」そう聞けば、そうなの、とハニはきゅ、と強く俺の背のシャツを握りしめた。「あのね、スンジョとね、遊園地でデートしてたの。」「…へぇ。」「それで、遊園地で迷路に入ったら、スンジョとはぐれちゃって。焦って、焦って、どんどん歩いても見つからなくって。」なんだよ、またこいつの変な夢か。「それでね、ずっと歩いていたらね、変なネコにあったの。そのネコってばね、わたしに意地悪ばっかりいって、まるでスンジョみたいで。」「おい。」黙って聞いてれば、怖い話なのか、嫌味なのか分からない。「それから、今からテストだって言われて!」「はぁ?猫に?」「そうなの!スンジョに会えないし、テスト勉強なんてしてないし。」「そう言う問題じゃないだろ。」ネコがテストだとか言いだす時点で色々おかしいが、とにかく、彼女にとってテストに勝る怖いものはないらしい。「なに、お前明日小テストでもあるの?」それを聞いたハニは、ぱっと俺から離れると、驚いた顔をしてじっとこちらを見つめる。「どうしてわかるの?スンジョすごいっ。」「分かりやすく深層心理に表れてるだろ。」こんな真夜中にどっと疲れが襲ってくる。ったく。「ほら、いいからもう寝ろ。」「やだ、こわい!」俺の腕にすがりついて泣きそう目をしてくるハニは、可愛いには可愛いが、残念ながら俺は明日1限がある。「スンジョ、子守唄うたって!」「バカなこと言うな。」まだわぁわぁと喚くハニの頭上から、勢いよくふとんをかぶせてやった。「ふがっ!」とりあえず大人しく横になったはいいが、怯えた子犬みたいな目で上目づかいに俺を覗きこんでくる。どうしても怖いらしい。「ったく。最後まで世話がやけるな、お前は。」ため息をつくと、ふとんの下で俺はそっと彼女と手をつないでやる。「怖いんだったら、俺が起きてる10分以内に寝ろ。」「えぇっ」「お前、勉強してる時はすぐ寝るくせに。」「意地悪っ。」ぶつぶつ言いながらも、ハニはそっと瞳を閉じる。「いなくならないでね、スンジョ。」小声でそう呟く彼女に、俺は小さく笑う。「俺がお前を見つける方が早いと思うけど。」君が、どこで迷子になっても。Fin.