『日本で暮らすチャイニーズガールを専門家が物語にしちゃいました』
■第5話 雇止め
李さんが(株)サムライEXトレーディングに入社してから3ヶ月が経ちました。
入社してからというもの、毎日を慌ただしく過ごしていた仕事や生活もようやく落ち着いてきたようです。
そんなある日の仕事中、李さんが社内を見渡して何かに気が付いたようです。
同じ部署の先輩である「藤森さん」に話しかけています。
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李 「藤森さん、私が入社してから仕事を教えてくれていた女性の人、名前を思い出せないんですけど、最近姿を見ませんね?」
藤 「あー、契約社員の原田さんでしょ。
彼女は先月いっぱいで“雇止め”になったんだってさ。」
李 「“ヤトイドメ”って何アルカ?」
藤 「何でわからなくなると急に中国人っぽく喋るのよ(笑)。
李 「へえ、そうなんですか~。
でも何で雇止めになっちゃったんですか?」
藤 「うーん、ちょっと言いにくいんだけど、新入社員が予想以上に物覚えが良かったから余剰人員になったんじゃないかな…」
李 「藤森さん、それってもしかして私のこと…。」
藤 「うん…。」
李 「アイヤー!」
藤 「現実は厳しいのよ(笑)」
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【解説】 井上経営法務事務所 井上 信亨(しんりょう)
こんにちは、特定社会保険労務士(&行政書士)の井上です。
雇止めに関する説明はほぼ藤森さんの説明したとおりです。
“雇用の調整弁”と呼ばれるパートやアルバイト契約・派遣社員などの有期労働契約の労働者は、正社員を解雇するよりも比較的安易に雇止めで契約を終了させられる傾向にあります。
企業の担当者として気を付けたいのは、全ての雇止めが法的に有効であるわけではないということです。
平成25年4月1日より施行された改正労働契約法第19条には次のように記載されています。
「労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
つまり、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合、その雇止めは無効とされ、引き続きこれまでと同じ内容の有期労働契約が更新されたことになるのです。
どのような場合に雇止めが無効となるか、それには2つの場合があります。
① 有期労働契約が反復更新されて、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合には、解雇権濫用法理が類推され、合理的な理由がない雇止めは無効となる。
つまり、最初だけ雇用契約書を交わして、以降は契約書を交わすこともなく、自動更新の契約になっているような場合などが該当します。
② 期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまでは言えない場合でも、雇用関係継続への合理的な期待が認められるときには、解雇権濫用法理が類推される。
これは契約書は交わしているものの、入社時に「いつまでも働いていて下さい」と言われたり、更新時に同様のことを言われた場合、労働者は今後も契約が更新され続けていくことを期待するわけで、それにもかかわらず雇止めをすることは信義則上も許されない、というわけです。
もし、心当たりのある方がいたら、正社員への解雇だけでなく、有期契約の雇止めにも細心の注意を払って下さいね。