『アラバマ物語』 黒人差別 大人社会は澄んでいない | アラフォー世代が楽しめる音楽と映画

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ストレスを抱えるアラフォー世代が、聴いて楽しめる音楽、観て楽しめる映画を紹介します。
でも自分が好きな作品だけです!    

 『アラバマ物語』は、ハーパー・リーの小説が原作であり、原題は「To Kill a Mockingbird(ものまね鳥を殺すには)」と言う。日本では今一つ知名度がない作家であるが、彼女はこの小説で61年度のピューリッツァー賞を受賞している。
 Mockingbird はマネシツグミという鳥で、100以上の音を覚えることが出来、ものまねが得意な鳥だそうだ。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 素朴な疑問だが、原題が何故「To Kill a Mockingbird」なのか気になった。映画の中で、グレゴリー・ペック演じる弁護士アティカス・フィンチが狂犬病の犬を銃で見事に撃ち倒すシーンがある。驚く子供達に「銃を撃つ時に、美しい声で鳴き、悪さをしないマネシツグミは殺してはいけない。」と注意を与えるのだが、このマネシツグミとは、果たして何を意味しているのか?...。


 『アラバマ物語』は、白人女性の暴行容疑で逮捕された黒人トムの弁護士アティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)が裁判を通して、アメリカ南部に根強い人種差別と戦っている姿を描いている。尚、主演のグレゴリー・ペックはこの映画でアカデミー賞主演男優賞に輝いた。
 グレゴリー・ペックと言えば、『ローマの休日』の新聞記者役で有名なのだが、その他にも『白昼の決闘』『白鯨』『大いなる西部』『渚にて』『ナバロンの要塞』など多彩な配役を演じた名優である。
 03年には、アメリカ映画協会が選んだ「映画の登場人物ヒーローベスト50」の第1位に『アラバマ物語』のフィンチ弁護士が選ばれており、アメリカでは多くの人々に愛されている俳優なのだ。


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アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 物語は、弁護士アティカスの息子・ジェム(フィリップ・アルフォード)、娘・スカウト(メアリー・バタム)、それから夏休みの間だけ隣人に住む叔母の所へ遊びに来るディル(ジョン・メグナ)3人が、近所で監禁されていると噂されている“大男ブー”を一目見ようと暗闇の中、不気味な家の裏庭に行く。
 人影が近づくと3人は慌てて逃げ出す。この見知らぬものへの好奇心、でも恐怖感もあるという感覚は、ボクも小さい頃に経験していたので、モノクロの映像と相俟ってノスタルジックな気分に浸らせてくれる。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 場面が変わって、アティカスは、暴行の容疑者・トム・ロビンソン(ブロック・ピーターズ)の弁護を引き受けることになる。アメリカ南部のアラバマ州は、黒人蔑視の強い土地である。アティカスは町の人達から黒人の味方になったことを非難される。そういう土地柄なのだ。
 また学校に入学したスカウトは、父親のことで男の同級生にからかわれ、喧嘩をする。相手が男の子なのに馬乗りになって...スカウトは勝気な女の子なのだ!
 それでも、父親が黒人の弁護士をして、非難を受けていることを感じ取る大人っぽさも供わっている。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 裁判を受ける為、拘置所に移送されたトムの身に危険が及ぶのではないかと懸念したアティカスは夜、正面で見張りをすることになる。心配した子どもたちは、アティカスの様子を見に行く。
 案の定、町の白人達がトムを殺そうと押しかけて来た! アティカスは留めようとするが勢いに押される。そこへスカウトが走りこみ、農夫カニンガムに向かって、父親が裁判で世話をしてやったことを話す。
 実は映画の冒頭は、そのシーンから始まる。農夫カニンガムは相続の問題でアティカスに世話になったのだが、裁判費用を払えないので、代わりとして自分の農産物(胡桃)を届けに来ていたことを思い出し、咄嗟にそのことを繰り出したのだ。
 カニンガムは、後ろめたさを感じたのか、皆に向かって帰ろうと言い、暴走は収まる。

 そして裁判が始まる。アティカスは、尋問で黒人トムが無罪であることを明らかにしようとする。被害者メイエラへの医者の診察書がなく状況証拠しかないことや、痣がメイエラの右目側にあったことから犯人は左利きであったこと。これに対してトムが右利きで左手が不自由であった...。
 真犯人がいることを匂わせたのは、メレイラの父ボブ・ユーエル(ジェームズ・アンダーソン)に文字を書かせた時に左手で書いた時だった...。
 暴行事件はどうやら被害者の白人父娘の狂言であって、黒人容疑者トムが無実であることが、誰の目にも明らかとなる。フィンチ弁護士側の優位は動かなかった。
 しかしそれにも拘らず、陪審員たちは黒人トムに有罪の判決を下してしまうのだ。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 密かに2階から顛末を見ていた子供達も、予想と違う展開に戸惑いが生じる。人種偏見と差別の酷さ、地域の主流的風潮への同調意識の強さに愕然とする。大人社会の苦さを充分に味わっただろう。そのような社会の不条理さを子供視線で捉えているところに、この映画の意義があるのだ。子供達にとってショックは大きかった!
 
 日本でも裁判員制度が始まった。陪審員は凡庸なる市民で構成される。感情や損得勘定で動き易い心を自制して、公正な判決を下せるのか、甚だ疑問である!

 判決に絶望した黒人トムは、留置場に移送される途中で脱走を図ったが、射殺されてしまう。威嚇射撃が誤って当たって死んでしまったと言うが...。
 トムの家族にこのことを知らせに行った帰り、アティカスはボブ・ユーエルに会った。ボブは彼に「必ず裁判の仕返しをする!」と言うのだった...。

 忌まわしい出来事から暫らく経って、今度はこの兄妹が襲われる。ハロウィンのパーティが終って、ジェムとスカウトが一緒に帰る時、服をなくしたスカウトが、仕方なく「HAM」と書いてある着ぐるみを着装する。
 2人で夜道を歩いている途中で、何者かに襲われるのだが、この犯人は暴行事件の“被害者”の父ユーエルだった。アティカスが黒人を弁護したことを根に持って、子供に手を出したのだ。何て卑怯な男だ!!

 ジェムが殺されかかったところを救ったのが、近所に住む、心に傷を持つ青年ラドレー(ロバート・デュバル)であった。“大男ブー”と呼ばれていた男である。揉み合いになっているうち、ユーエルは胸にナイフを刺されて死んでしまう。
 ラドレーはジェムを抱きかかえ走って行く。後を追うスカウト。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 フィンチの家のベッドにジェムが寝ていた。右目に出来た痣で、ユーエルが犯人だと憶測出来た。一緒にいた保安官(フランク・オバートン)が、「ユーエルは、包丁の上に倒れて死んだ。無実の黒人を殺した男が死んだのだ。・・・そっとしておこう。」と言った。
 その時、スカウトはドアの陰に突っ立っていた“ブー”を見る。男は陰から顔を出し、スカウトに微笑みかけた。

 それでも真相を解明しようとするアティカスに向かい、スカウトは、「保安官が正しい。だって、マネシツグミを撃つのはいけないんでしょ?」と問いかけた。
 無実の罪を着せられて非業の死を遂げた黒人トム。裁判で解決出来なかったことを、意外な人物が解決してくれたのである。
 「悪は滅びる」...大人の論理では、本当にこれで良いのか分からないが、子供のスカウトは納得していたようだ。

アラフォー世代が楽しめる音楽と映画 ポーチのブランコに佇んでいたスカウトと“ブー”に近づいたアティカスは、“ブー”にお礼の手を差し伸ばす。スカウトは“ブー”に寄り添って歩き、ラドレーの家まで送っていった...。

 世の中には理不尽なことを知り、正義が必ずしも勝つわけではないという不当な裁判結果を見て、スカウトの心の中で曇っていたモヤが晴れた瞬間であった。
 そして町の人々の人権偏見に屈せず、誠実さと理性を振りかざして立ち向った父親に尊敬の念を抱くのであった。
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 ちなみに精神障害者“ブー”役のロバート・デュバルは10年後、『ゴッド・ファーザー』の顧問弁護士トム役を担うことになる。案外ハンサムな顔立ちなのだが、広い額を眺めるみると、その後の風貌が予想された...。