予防注射と必要最小限に付き合うために ~犬コアワクチンの抗体価チェックの話~ | Useless Monologue

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小動物獣医師(フリッパー動物病院@神奈川県逗子市)による日々の雑感覚書。

既にホムペの方でもお知らせしてありますが、院内で犬の伝染病(ジステンパーウイルス、アデノウイルス、パルボウイルスの3種類/疾病としては4種類)の抗体価が十分か否かを判定する事が出来るようになりました。

 

このように、血液を試薬に反応させ、それに検査用ストリップを漬ける。
これを何回か繰り返すと…

ストリップの先端に丸いグレーのしるしが現れる。

それを判定スケールの色と比較し、

基準の色よりも濃く出ていればOK!
この子の場合、3つとも防御抗体が十分に維持出来ていました!

 

 

おそらく、最近の傾向から、混合ワクチンの接種を毎年行うべきか、2~3年に一度に減らすべきか迷っていらっしゃる方も多いのではないかと思います。

実は獣医側にもその傾向があり、どれくらいの頻度で接種をすすめるかは、獣医師の今の考え方によって様々です。

統計的には今現在、約87%の動物病院(当院も含めて)で毎年の接種をすすめているようです。

 

集団レベルで考えると、ワクチンというのは正義です。

歴史的に見ても、天然痘のように伝染病を根絶したり、日本の狂犬病のように国内から駆逐したり。

人類が伝染病と闘ってきた長い歴史を振り返ると、ワクチンの功績は絶大なものが有ります。

しかし、その背景には必ず副作用の問題がつきまといます。

 

現在のように、社会の安全と同様に個体の安全も大切に考える必要がある時代においては、社会と個のバランスについて敏感でいなければならないでしょう。

 

そこで、どのような間隔で接種するかを考えるとき、その国や地域における感染症の発生状況に加え、集団免疫の状態や個体レベルでの免疫状態をバランス良く考慮していく必要があります。

 

集団免疫を考えると、一部の特殊な伝染病を除けば約70%が防衛ラインと言われています。

つまり、ある伝染病に対して、集団全体の約7割が有効な抗体価を維持していれば、その集団内での拡散は起らないということになります。

これは人のインフルエンザでも、犬の狂犬病でも同じ割合。

 

しかし、日本における犬の混合ワクチンの接種率はそんな割合に達しておらず、(データによって異なりますが)大体3~4割と言われています。

つまり日本の犬のワクチン接種率を考えると、犬社会の集団防御は破綻していると考えなければなりません。

(ただし、接種率と、抗体価維持率はイコールではないので、本当はそんな単純ではありませんが、便宜上このように解釈してます。)

 

少し前に東京に接する某県の一都市で犬のパルボウイルスのパンデミックな発生がありましたが、これなどはその例と言えるでしょう。

 

 

次に個体免疫に関して。

某研究機関のデータによると、所謂犬のコアワクチンに含まれるジステンパーウイルス、パルボウイルス、アデノウイルス1型、2型の4種についてみてみると、接種1年後に4種ともで防御抗体価が維持できていた割合は約90%。

それが、2年経過すると75%になり、3年経つと6割に下がります。

つまり、犬混合ワクチンを注射をして1年経過して2年を迎えるまでに、約25%の個体において、何れかの防御抗体価が維持できていない事になります。

 

飼育頭数の全体の7割がワクチン抗体価が維持できていれば、2年経って75%でも、3年経って60%でも構わないです。

しかし、上記の通り、国内の集団免疫レベルは高くはありませんので、数字的にみると、例え数年のうちにワクチンを接種している子でも、その一部危険性は無くなりません。

 

いくら世界小動物獣医師会がそのガイドラインで「コアワクチンは3年に一回でいいよ」と言っても、日本の獣医師たちがなかなか素直には肯首できずにいるのにはこのような理由も大きいのではないでしょうか。

 

しばしばワクチンによる収益が減る云々が理由のように言われたりしますが、自分たちの行為で動物に危害が及べば、それが全て自分たちに帰ってきてしまい、ワクチンによる売り上げなど簡単に飛んでしまう事くらいはどんなにアホな獣医師でも分かっています(多分…)。

 

実際は、どのような接種プログラムが動物にとってより安全なのかを、理論と現場の状況をすり合わせながら真剣に考えている(迷っている?悩んでいる?)時期というのが正しいように思えます。

趨勢が大きく変化するには、時間はもちろん、それに加えてもう少し大きなブレイクスルー要因が必要でしょう。

 

 

ここで、抗体価検査の話に戻ります。ようやく(笑

病院で簡単に、かつ手が届きやすい費用で抗体検査が出来るということは、こうした現場(飼主様も獣医師も含めて)の迷いに対する一筋の光明となるように思います。

ワクチネーションが必要か否かを個体レベルではっきりと知る事が出来るので、その結果を踏まえて選択すれば誤らずに済みますので。
 

もちろん、抗体検査をした結果、抗体価が低くなっていればワクチンの接種もする必要がありますので、多少割高にはなります。

しかし、より少ないリスクでワンちゃんの健康管理をしてあげられる事を考えれば、気にならない程度なのではないでしょうか。
(ここに料金を書いてしまうと、何故か一部からクレームが来るので書けません。お手数ですが、料金は直接当院にお問い合わせ下さい。)


伝染病予防の重要性は理解しているものの、毎年の接種には疑問を感じているという方は、是非ご相談下さい。