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１８世紀末、産業革命期のロンドンに現れた、猟奇的殺人鬼「スウィーニー・トッド」。
実在したとも、想像上の人物ともいわれていますが、１６０件余りの殺人事件に関与したという説もあります。
その「スウィーニー・トッド」をミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」「ジプシー」などを手がけた、ミュージカル界の巨匠スティーヴン・ソンドハイムが、オペラを念頭にミュージカル化したのが「ブロードウェイミュージカル スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」です。
２５年振りに日本で上演された２００７年、その翌年にはティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演で映画「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」が公開され、話題になりました。
そして、今回の再演です。
猟奇的殺人鬼、スウィーニー・トッドを市川正親さん、トッドに恋心を寄せ、その殺人の片棒を担ぐパイ屋の女主人ミセスラヴェットを大竹しのぶさん、そしてラヴェットを慕っている純真な少年トバイアスを武田真治さんが演じています。
そして、スティーヴン・ソンドハイム作品をやらせたら右に出る者はいないといわれる宮本亜門さんが演出しています。
市川正親さん、さすが劇団四季育ちの歌声と表現力、文句なしです。
どこか、映画「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」のときのジョニー・デップが年老いたらこうなるんだろうなというイメージが被りました。
大竹しのぶさんの演技力、ずば抜けています。
そして、今回ビックリしたのが、武田真治さんです。
純真な少し知的障害を持った少年の役立ったのですが、一幕目では武田真治さんと気がつかないほどでした。
いい役者さんに育ちましたね。
見事です。
そして、トッドの娘ジョアンナを演じるソニンさん、すっかりミュージカル女優になったんですね。
いい歌声、そしてしっかりした演技、今後が楽しみです。
舞台演出もさすがに凝っています。
１８世紀のロンドンですから、少し暗く、そして、どこか不気味な雰囲気を全体に醸し出しながら、舞台となるフリート街のパイ屋とその２階にある床屋など、建物が前後左右に回り、裏と表から上手に見せてくれるあたり、テレビドラマのセットが動いているようで、どんどんストーリーに吸い込まれていきます。
舞台の隅々までセットが巧みに施され、まるで劇場全体がフリート街のような気がします。
この物語のテーマは「復讐」です
この作品を観て思ったことは、法治国家に暮らす以上、悪を裁くのは法のもとで人間が行うわけです。
そこで浮かんできたのが「復讐するは我にあり」という言葉です。
佐木隆三さんの小説ではなく、新約聖書のローマ人への手紙に出てくる言葉のほうです。
「悪に対して悪で報いてはならない」
「悪を行ったもに対する復讐は神が行う」
というものです。
トッドが復讐の鬼と化すには、当然原因があったわけで、そういった意味ではトッドも被害者であり、本来殺人鬼となる必要がなかったわけです。
映画「告白」や「悪人」のときにも書きましたが、被害者と加害者の間（はざま）で振れた振り子がどっちに転ぶかで極悪人となるか被害者となるか、運命が分かれます。
もし「復讐するは我にあり」の意のとおり、「復讐は神が行う」のであれば、誰かが殺人鬼になる前に、その原因となる悪に神が天罰を与えてくれれば、こんなことにはならずにすむのだろうと考えてしまいます。
恐らく、このどうしてこんなことになってしまうのかという、やり場のない切迫感、逃げ道のない追い込まれ方をしていく情景をうまく描けたか演出できたかが、このての作品の、見せ所だと思います。
そういった点から観れば、市川正親さんのトッドは極上の切迫感と舞台上での支配感を発揮し、観る者を追い込んでくれます。
猟奇的殺人事件フィーチャーするというよりも、トッドの心中に触れられる、すばらしい演出に拍手を送ります。
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「ブロードウェイミュージカル スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」のストーリーに簡単に触れておきます。
舞台は18世紀末のロンドン。
フリート街で理髪店を営むベンジャミン・バーカーは、悪徳判事ターピンに妻を横恋慕されてしまいます。
そして、バーカーの存在が邪魔な判事のタービンによって無実の罪で１５年、流刑にされてしまいます。
15年後、“スウィーニー・トッド”と名を変えて街に戻った彼は、元の大家ミセス・ラヴェットから、妻が判事のタービンによって辱めを受け狂気の果てに自殺したこと、娘ジョアンナがターピンに養われていることを聞かされます。
ミセス・ラヴェットが残しておいてくれた商売道具の剃刀（かみそり）を受け取り、ラヴェットとともに街に出ます。
そこで、髪の毛が生えてくるという薬を売るインチキな理髪師ピレッリと勝負をして圧勝します。
そこで、トッドはミセス・ラヴェットのロンドンで一番まずいパイ屋の2階に再び理髪店を構えます。
あっという間に、フリート街に腕のいい床屋があると評判になりますが、トッドがベンジャミン・パーカーだと見破ったインチキ理髪師のピレッリに売り上げをよこせと脅迫されます。
やむなく、トッドはピレッリを殺害します。
死体の処理とピレッリの子分のトバイアスをどうするか悩みます。
ここで、ミセス・ラヴェットが名案を思いつき、殺した人の肉をミートパイの材料にしようと言い出します。
そして、知的障害のあるトバイアスは。よくしてくれるミセス・ラヴェットになつき、いつしか慕うようになります。
店はものすごい勢いで繁盛していきます。
しかし、妙な噂も立ちはじめます。
パイ屋の煙が異常にくさいこと、そして、トッドの床屋に入ったお客様が出てこないこと。
そんな摩訶不思議なことにトバイアスも気づきはじめてしまいます。
それを察知したミセス・ラヴェットはトバイアスを地下のパイ工場に閉じ込めてしまいます。
そしてパイ工場から異臭がすると騒ぐ物乞いをする女をトッドは殺害してしまいます。
やがて、判事がお店を訪れ、トッドは判事の首をかききります。
すべてはうまく行ったかのようでしたが、すべての歯車が狂っていて
トッドの殺人現場に娘のジョアンナが居合わせてしまいます。
が、それが、娘だとは知る由もなく、また父だとは知るも由はない訳です。
そして、殺害した物乞いをする女が、妻であることを知ります。
その事実を隠して嘘をついていたミセス・ラヴェットに怒り狂ったトッドは、ミセス・ラヴェットを炉に放り込んで殺害してしまいます。
最後トッドはトバイアスに殺されます。
娘のことも知らぬまま死んでいきます。
この物語、殺人に殺人を繰り返していかなくてはいけない歯車に乗ってしまったのか、それとも自ら仕組んだ歯車だったのか、その両方であるところが人生のつらさと、何を持ってして悪なのかということ、そして、復讐という感情の恐ろしさが伝わります。
願わくば、復讐心を持つのではなく、ポジティブに生きていくものだと教えてくれます。
「スウィーニー・トッド」といえば、ジョニーデップです。
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