人は幼年期に食べた懐かしい味を今も忘れない。

脳裏のどこかに残っているのである。

それは、遠い昔の記憶の糸を辿っていくと、ぼんやりと残っている味なのだ。

練馬区北町の商店街にあった小さなパン屋で、お袋に買ってもらったコッペパンに、中を割ってもらって、甘いピーナッツクリームを付けてもらい、食べたあの味を覚えている。

それから練馬区田柄にあった中華料理屋で食べていた「もやしソバ」も自分の中で潜在的に残っている懐かしい味のひとつだ。

故にどこに行っても今だに普通の中華ソバより「もやしソバ」の方をオーダーしてしまう。

中学校時代に友達と帰宅の道すがら、肉屋でアツアツのコロッケを買い、食パンにはさんでソースをかけて食べながら帰った。

あの味も青春の懐かしい思い出だ。

高校時代のクラブ活動の後に、あまりに腹が減って駆け込んだ正門近くの大衆食堂で食べた「カツ丼」も忘れられない。

上等な豚肉ではなかったが、とにかく腹が減っていた青春時代だったので、口の中をヤケドしながらも夢中で食べていた。

あの「カツ丼」の味も忘れられない。

昔の聴いた音楽と同じように、たまたま食べた食事から昔の記憶を思い起こさせてくれることがある。

東京に住んでいると、レストランや食事の情報は溢れんばかりであるが、我々の潜在的意識の中にある味を再現してくれる店があってもいい。

懐かしい味と出会うと嬉しくなるのは私だけではないだろう。

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あの味を忘れない