「血液型と性格」の始祖、原來復 | ほたるいかの書きつけ

「血液型と性格」の始祖、原來復

※ちょっとマニアックな血液型性格判断の歴史の話です。

 日本で最初に「血液型と性格」を論じた論文は、原來復・小林榮の「血液ノ類屬的構造ニ就テ」(『醫事新聞』第954号、pp.937-941、1916年7月25日)であるとされる。そのコピーを某筋よりいただいたので、簡単に紹介してみよう。1ページ目のみ下に画像を出しておく。こんな感じで4ページ半の論文である(最後のページの下半分は別の論文になっている)。

 この論文、血液型についての話がメインである。性格ではなくて、血液型とはどういうもので、調査した結果どういう血液型分布になったか、どのように遺伝するか、というものである。
 もう少し詳しく言うと、血球と血清の型に違いがあって、凝集する/しない場合があること、デュンゲルンが348名の調査を行ったこと、親と子の血液型の関係(遺伝)、原らによる353名に対する血液型の調査の結果(A143名40.5%、B55名16.0%、O86名24.4%、AB69名20.0%)、どのように血液型を調査するか(何%のクエン酸ナトリウム(枸櫞酸ってクエン酸ですよね?)を用意して、とか)、の話が続く。

 で、最後の方に、少しだけ性格との関係が議論されている。分量にして半ページちょい。引用してみよう。
類屬ノ差異ニ依リ人ノ性質又其他ニ何カ特長ノ存在スルヤ否ヤニ就テハ未ダ全ク不明ナルモ、予等ガ實驗上聊カ奇異ニ感ジタル點ノミヲ左ニ擧グレバ、實驗中此人ハBニ非ズヤト思ハル丶人ハ多クハBナリキ、何如ナル人カト云ヘバ、身體ノ細ク優シサウナル人々ナリキ。曩キニ述ベタル兄弟六人アリテ内五人共ニA、一人ダケ零(引用者注:O型のこと)ナル家庭ニ於テAノ人々ハ同ジ様ナル性質ヲ有スルモ、零ナル一人ハ全ク異ナル性質ヲ有セリ。又或ル小學校ニテ兄弟一人ガAニテ一人ガBノモノアリテ、此二人ガ又甚シキ性質ノ相違ヲ有セリ、Aノ方ハ従順ニテ成績優等級ノ首席ヲ占ムルニ、Bノ方ハ粗暴ニシテ級ノ最下等ノ成績ヲ有セリ、以上ノ如キハ恐ク偶然ノ事柄ナランモ、然レドモ特ニ斯ノ如キ點ニ就テ調査セバ興味多キコトト信ズ。
フォンヂュンゲルン氏ハ此人間ノ有スルABヲ直ニ動物ニ於テ實驗セルニ、Aナル構造ハ猿類ノ最高等ナル「シンパンゼン」(引用者注:チンパンジー)ニ發見セル外、他動物ニハ見ルコト能ハザリキ、然ルニBハ多クノ脊椎動物ニ於テ存在スルコトヲ發見セリ、尚同氏ハ人類ノ血球中多クノ猿ノ血淸ニ由リ凝集セラル丶モノアルコトヲ發見シ、之ニCナル名稱ヲ附セリ。勿論人類血液ノ生物學的構造ハ数種ニ止マラザルハ明ニシテ、若他ノ種々ナル動物ノ血淸ノ力ニ由リ檢セバ、尚多クノ類屬ニ分ツヲ得可ク、進化學上興味アル可キハフォンヂュンゲルン氏ノ既ニ唱フル所ナリトス。(完)
なお途中で改行を入れたが、直前「信ズ。」が丁度最下段に到達し、フォン~からが次の行になっていること、また段落が変更された場合に一文字下げが全体を通してなされていないことから、本来改行がない可能性もあるのだが、内容が若干変わるので、読みやすくするためもあり改行を入れた。なるべく原文ママに記載したが、一部旧字体になっていないところがあるかもしれない。そこはご容赦されたい。さらに、「フォンヂュンゲルン」については、フォンは左側に傍線、ヂュンゲルンは右側に傍線が引いてある(原文は縦書き)。ここではヂュンゲルンについて下線を引いた。
 文語体でわかりづらいと思うので、超意訳をしてみよう。
 血液型が違うと性格とかなんか違うかどうかってまだ全然わからんのやけど、みんなの血液型調べてたらさ、なんか妙なんだよね。「コイツBじゃね?」って思ったヤツって、たいがいB型なんだわ。で、なんか体が細くって優しそうなんだよね。さっき6人兄弟の話したじゃん?5人がAで1人だけOの。家ではAの5人はみんな似た感じなんだけど、Oのヤツだけ全然違うんだよね。それと某小学校にAとBの兄弟がいるんだけど、この二人がまた全然違うんだ。Aのほうは従順で成績優秀なんだけど、Bは粗暴でビリッケツ。まーだぶん偶然なんだろうけど、ちょっと調べてみたら面白そうじゃね?
 フォン・デュンゲルンてのが、動物の血液型を調べたんだけど、そしたら最も高等な猿であるチンパンジーだけがA型で、他はBだったんだって。あ、人の血の多くを凝集させちゃう猿の血清もあって、そいつをC型って名付けもしたんだ。ま、人の血液も数種類だけじゃないことは明らかだから、他の動物の血清使えばもっと色々分類できそうやし、進化を理解する上で重要そうだね、ってデュンゲルンは言ってるんだ。
…失礼しました。
 ま、雰囲気は伝わったと思う。で、「血液型と性格」(「性質」と言ってるけど)の関係について論じた部分はこれだけなのだ。
 ちなみに「兄弟6人」ってのは、家族でどういう血液型になっているかを調べた例に出てくるもので、単に列挙してあるもののうちの一つである。具体的には、「父母共ニAニシテ子六人アリ、内五人Aニシテ一人零ナルモノアリ。」と言っているだけだ。

 で、これをどう評価するか、が問題なわけだが…。
 たしかに血液型と性格の関係について触れてはいる。触れてはいるが、「なんか関係ありそうだし、やってみたら面白いんじゃ?」と言ってるだけでもある。もちろん、B型はどうもこんな感じらしい、ということも言ってはいる。その意味では「最初」と言ってもいいのかもしれないが、調査してそう言ったわけではなく、血液型そのものを調べる過程のなかで、どうもそういう感じがする、ということを、ほとんど感想のような形で述べたにすぎないのだ。
 だとすると、古川竹二が自分の論文で、この原・小林論文を引用していなくても、特に咎めたてられなければならないようなことではないのではないか、という気がする。古川の最初の論文は、血液型と性格(気質)の関係を調べる目的をもって行った実験の報告なのだから。

 ついでに、日本人の血液型分布については、Bが多いということは既にデュンゲルンは知っていたらしい(アジア人というだけじゃなくて)。「我長野ニ於テハ他ノ處ニ比シ零ニ屬スルモノ少ナクシテ、Bニ屬スルモノ甚ダ多キコトナリ、日本人ニBヲ有スルモノ多キハ既ニ恩師フォンヂュンゲルン氏ノ唱ヘタル所ニシテ、氏ガ其教室ヲ訪問セル本邦人ニ就テ驗セル結果ニヨルモノナリ」と書いている。

 さらについでに、今回のコピーで気になったことのもう一つなんですが。
 下の画像を拡大してもらうとわかるのですが、左上に、後ろのほうのページのはしっこがハミ出て写ってます。この論文とは別のものなんだけど、その内容が…。「家庭ニ於テ日常番茶ヲ入レル操作」って。何が書いてあるのか、とっても気になる…。

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