チーズとプロシュット、野菜のピクルスとカポナータ
スッキーニと小たまねぎの炭火焼が綺麗に並んだ大皿を前にして
つまみ食いしたくて仕方のないあたし。
野菜のキッシュに手を伸ばした途端。
「ストップ!!!!」
って、気が付かなかったよ、今出てきたの?
濡れた髪は水分取りきれてないどころか
しずくが滴ってるし。
慌てて羽織ったんだよね?
バスローブの合わせが甘くて
なんかいっぱい見えちゃってますけどいいんでしょうか?

キッシュに集中してた気持ちが
一気にタプに向かい始めてます。
大きな口開けたまま、彼を見つめてたんだと思う。
彼はバスローブの合わせを詰めながら
「カオリもお風呂入ってたんだ」
って笑うのね。
それは隠したくても見たら分る事実だし
なぁんか、それが嫌で
「シャンパン届いたから飲もうよ!開けて」
って偉そうに椅子に腰掛けて
テーブルに肘付いて余裕~~~を出してみる。

彼はシャンパンをワインクーラーから取り出して
楽しそうに開け始めたから。
ホテルマンに開けてもらわなくて本当によかった。
あたしの選択は間違ってなかったんだって
思ったのでした。

フルートグラスに琥珀の液体をゆっくりと注ぎ込んでる
彼の手もををじーっと見つめて。
その手の動きにトキメイてた事は内緒です。
パチパチと微かにはじける音にワクワクしてる。
「はい」
と手渡されたグラス越しに彼を覗き見したら
笑顔だった…よね?
気を張ってるつもりはなかったんだけど
緊張してたみたい。
…けど彼の計算の無い笑顔に
駆け引きとか、勝ち負けとかプライドとかが
ちっぽけな物に思えてきて。
急に自分が恥ずかしくなった。
覗き込んでくる彼の視線を逸らしたくて
慌ててシャンパン一気に流し込んだら
彼も空のグラス手に持ってて。
「はい、お代わりw」
って、なんでそんなに楽しそうなんだよ!
断れないし飲んじゃうって。

でも危険なのです。
そう、そうなのだよ、あたしシャンパンに…弱いの~ね。
ヤダヤダこの前も酔って記憶無くしてて
朝起きたら彼の部屋でって
その状況が恥ずかしかったとかではなく
せっかく一緒に居て、きっと色んな話もしてたんだよね?
なのにそれを覚えてなかったのが悔しかったのです。

断れなかったお代わりのシャンパンをチーズと一緒に
飲み込もうとしたら
部屋の呼び鈴が鳴って。

「なんだよ~」
って不貞腐れた顔して彼がドアを開けると
第2段のお料理が届けられてて
「適当に置いてって」
と言った後、赤ワインが届いてるかチェックしてたの見逃さなかったよw
でもヤバイなぁ…今日も眠っちゃいそうなの。
上まぶたと下まぶたがくっ付きたがってますね~。
えっと…なんか食べたら目覚めるかな?
フォカッチャをオリーブオイルに浸して
口いっぱいにほお張ってみたけど
飲み込む前に逝ってしまいそうです。

ちょっと塩味強めのプロシュットとイチゴを齧ってみても
ダメ…だ。
「寝ちゃうよ~」
って思わず彼の袖掴んで引っ張ってたし

全部分ってたんだよね?
タプは何も言わなかった。
ただあたしの頭をポフポフと撫でて
自分の肩にあたしの頭が乗るように優しく引き寄せて
残りのシャンパンを飲み下してた。

「眠たいのだ~」
って気付かれてるんだから、言う必要もないのに
言いたくなったのは
思ってた以上にあなたが優しかったからなのです。
「寝たかったら寝て、飲みたかったら飲んだら良いよ」
って最後のシャンパンを飲み干して。
「カオリ、赤ワイン好きだったよね?俺ひとりで飲んじゃうけど…」
って一言事、耳元で囁かれて
なんですと~~~!
と起き上がったのは言うまでもないですね。
そんなあたしを見て、予想どうり!な顔するのはやめて下さい。
ムカつくから…。

あたしをやり込めて満たされたからといって
そんなに特上な笑顔しないで。
捕まえたくなっちゃうでしょ?

彼は赤ワイン開けようとしてた。
作業の途中、だから何?

思い出した、あたし彼の横顔じゃなく真ん前から
見つめたかったんだった。
そうです酔ってるから出来ること。

ワインと彼の間に潜り込んで。
彼の首に手を回して
安定しないから右ひざはソファに乗かっかって
前傾姿勢で彼を見つめてたら。

先に仕掛けてくるなんてほんとムカつく!
彼はあたしをそっと抱きしめただけ…。
それだけで、あたしは彼の腕にすっぽりはまり込んで
その上、声を出す機会も与えられなかった…。
彼のくちびるはあたしの呼吸を止めてもっと深くを探ってくる。

悔しすぎて声も出せなくて
涙が出ても悲しいんじゃない
ただ自分の無力さに泣きたくなるだけ。

拒否できないくらいあなたの事が好きだって
思い知らされて、泣きたくなっただけなのです。

触れてた所からあたしの気持ち流れ込んじゃってたのかな?
彼の体が急に強張って、心配しちゃう。
見上げてもすぐには笑ってなかったのに。
あたしの視線を感じると笑顔作ってる。

自由を愛する人…だよね?
なんか無理させてんじゃないかって
考えちゃう。
だから彼の自由奪いたくなくて
あたしからはキスしてないの気付いてない…?
あたしの気持ちを知りたくて入り込んでくる舌も
反応を知りたくて力の入る両手も
嬉しい…の。

…けど、あたしと居ると彼の良いところが
発揮できなくなる気がして

応えられない。

「ほんと眠いの」
って誤魔化して。
「赤ワインはまた明日~」
って言うだけ言って。
慌ててベットに潜り込んだ
涙こらえてる顔がきっと一番ブサイクなんだもん。
絶対見られたくないんだもん…。

彼の息遣いや、匂い、体温や触れた感覚のすべてが
あたしを攻撃してくる。
でもそれは今だけの事。
そう、時間が経てば、きっと平気になる…そういうことだよね。

下唇をキツくかみ締めながら
朝を待ってる。

好きだからといって

気持ちだけではどうにも出来ない。
好きなの。この気持ちは本当。
だけどどうにも出来そうにない。

暴走してしまって迷惑かけるのが嫌なんじゃない
暴走して傷つく自分を考えてしまって
臆病になってるのかもしれなくて。

彼には沢山のチャンスがあるw
こんなあたしにかまってる時間なんて本当は無いはずだから。
このままさよならしようとしてる。
ズルいあたし。

あああなんかいつもの自分とは違ってて混乱してるけど
朝が来たら、ありがとうって飛び切りの笑顔で伝えよう。

今日はもうおやすみなさい。
ごめんね、そしてありがと