あれから連絡はしていない。
彼女について知っているのは携帯番号だけで
メールアドレスさえわからない。
ゆきが部屋を出て行った時、どうして追いかけなかったんだろう。
逃げる女を追いかけるなんて
プライドが許さなかったから?
格好悪い自分を見せたくなかったからなのか?
その両方?

連絡を入れたところで出ないに決まってる。
それどころか着信拒否されてる可能性だって・・・。
タプは彼女の携帯で彼女の番号を呼び出し
その液晶画面を見つめながら考え込んでる
こんな風にいつまでも考えてる自分が面白くて情けなくて
思わず笑いが込み上げてきた。

俺らしくも無い

架けたかったら架ければ良い簡単なこと・・・。

あれから1週間、なにも考えないようにしてた。
なのに気付けば待ってる。
携帯が鳴ったところで出るの?出ないの?
出たところで変わらないのもわかってる。
あたしは、その他大勢の内の1人で。
この先も、望むようにはならないって。

CALL音は2回、すぐに出るとは思って無かったけれど。
「もしもし」
と落ち着いた声の彼女。

「俺だけど」
「うん」
「話しが・・・」
「あたしも話したいの、今日そっち行っていい?」
とはっきりした口調の彼女に彼は笑いながら
「夕方には戻れるから待ってる?」
と面白そうに言う。

マンションに着くと彼はもうそこに居て
当たり前のように手を差し出して待っている。
その手を無視しても当たり前のように
彼女の腰に手が伸びてきて・・・。
素直に手を取れば良かった?
距離が近すぎて、もう彼のペースに飲まれてる。
部屋に入って彼の腕が解かれた後も。

触れられた所だけが変に熱くて
「何か飲む?」
って聞かれてもすぐに返事ができなかった。

「いらない・・・。それより話って?」
彼はゆきをじーっと見つめている。
「謝りたくて」
と彼女の頬に手を添えて視線が合うように
軽く上を向かせた。
話したいことは沢山あったのに。

彼のサラサラした前髪が気になって。
そっと触れると彼が楽しそうに微笑む。
思わずそのくちびるに触れていた。
「何に~?」
と彼は彼女のからだをすっぽりと抱きしめて。
「これだろ?」
と瞳を閉じもせずにキスをする。
初めてのキスは突然すぎて
何も考えられないまま

感じることもままならなくて
ただ息苦しかった。

今、触れているくちびるはやっぱり甘く優しくて
彼の舌がくちびるを割って入ってきても
その柔らかさと絡まる感覚をそのまま味わっている。
彼の肩にしがみ付いてるのに。
気持ち良すぎて立っていられなくなって。

「いい?」
って