2009年H1N1と2013年H7N9インフルエンザウィルス | 科学は面白い

2009年H1N1と2013年H7N9インフルエンザウィルス

 H9N7の感染例がアジア数カ国で拡大しています。ちょっと前まで、H1N1だH5N1だと騒いでいたのが、「一挙に何で9と7何だ?」と思われるかもしれませんが、もともと、Hは16まで、Nは9まであり、種々の組み合わせがありますので、どんな組み合わせがやってきても不思議ではありません。

 インフルエンザウィルスには、A,B,C三つの型に大別でき、H1N1等という名前が付いているのは。中でも変異の著しいA型ですので、正確には、A/Shandong/1/2009(H1N1)~A型/中国山東省分離/1番目に分離/2009年分離(H1N1)~等と書く必要があるものと思いますが、面倒なので、H1N1等と書けば、A型を意味していると思ってください。

 現在では、インフルエンザの自然宿主(正確にはリザーバー)は水鳥ではないかと考えられていますが、他にも存在する可能性もあり、少なくともトリ、豚、馬、イヌなどの食肉目、クジラへの明確な感染例が知られています。

ヒトへの流行で、歴史的に明らかなのは、

1918-1919 スペインカゼ H1N1
1957年  アジアカゼ  H2N2
1968年  香港カゼ   H3N2
1977年  ソ連カゼ   H1N1
2009年  新型インフルエンザ H1N1

などですが、この他、ヒトに対する感染例があるものとして、H5N1と、今回のH9N7があります。また、19世紀末の流行は、H2N2、H3N8、H2N8と言う説もありますが、古い時代のことで詳細はわかっていません。

 ところで、インフルエンザウィルスは、下図のような、10種類の遺伝子(8本だが、2本は、2種類のタンパク質につながっている)を持っています。上から、HA(ヘマグルチニン)、NA(ノイラミニダーゼ)、PA(RNAポリメラーゼα)、PB1(RNAポリメラーゼβ1)、PB2(RNAポリメラーゼβ2)、NP(核タンパク質)、M(マトリクスタンパク質)、NS(非構造タンパク質)を合成する遺伝子です。

 このうち、ウィルス表面にあるHAとNAの抗原型を使って、H1N1等と表しています(下図)。従って、他の遺伝子が変わっていても、H1N1であれば、同じ表現をしますから、例えば、スペイン風邪のH1N1と2009年の新型インフルエンザのH1N1では、他の遺伝子/タンパク質が異なります。A/Shandong/1/2009(H1N1)の遺伝子の類似性解析(よく似た遺伝子を探してくる)を行いますと、最も、或いは2番目に類似しているタンパク質は、

HA A/Swine/Indiana/1726/1988 H1N1
NA A/Duck/Hong Kong/2986.1/2000 H5N1 ; A/Parrot/Ulster/1973 H7N1
NP A/Swine/Iowa/17672/1988 H1N1
PA A/Chicken/Victoria/1/1985 H7N7 ; A/Chicken/Scotland/1959 H5N1
PB1 A/Human/Kitakyushu/159/1993 H3N2 ; A/Human/Hong Kong/5/1983 H3N2
PB2 A/Duck/England/1/1956 H11N6
M1 A/Chicken/Hong Kong/YU22/2002 H5N1 genotype Z
M2 A/Turkey/Ireland/1378/1983 H5N8
NS1 A/Turkey/Ireland/1378/1983 H5N8
NS2 A/Herring gull/DE/677/1988 H2N8

となります。このうち、HA, NP が豚から、NA, PA, PB2, M, NSの7本が鳥から、PB1がヒトからのもので、これらの遺伝子がおそらくは豚の体内で再集合して、新しいH1N1ができたものと思われます。

科学は面白い-A型インフルエンザウィルスの遺伝子


科学は面白い-A型インフルエンザウィルスの表面


 今回のH7N9に関しては、国立感染症研究所の影山努博士、田代眞人博士、ウィスコンシン-マジソン大学の G. Neumann 博士、東京大学医科学研究所の河岡義裕博士ら多くの第一線の研究者の方々によりゲノムレベルの研究が行われ[1]、NS, M, NP, PA, PB1, PB2の6タンパク質はH9N2鳥インフルエンザから、HAも鳥のH7型から、NAも鳥のN9型から(おそらく鳥の中で)再集合した新型インフルエンザで、感染に重要な働きをする、HAの部分が、ヒトに感染しやすい型に変異した形跡があるとのことです(177番目のグリシン→バリン、同じく128アラニン→セリン、217グルタミン→ロイシン)。病原性の鍵を握っているPB2の627番目のアミノ酸は、リシンのものとグルタミン酸のものがありますが、ヒトから分離されたものはリシンがほとんどで、リシンのものは、ヒトにとっては病原性が高いと考えられていますので、これも不安材料の一つというよりは、現実に多数の犠牲者を出している原因と思われます。

 なお、既に抗インフルエンザ薬、オセルタミビルやザナミニルに対して、耐性とは言えないまでも、感受性を低下させるような変異も見られるとのことです。

科学は面白い-2009年H1N1と2013年H7N9の再集合


 まだ研究が始まったばかりですので、パンデミックが起こるかどうかの判断は、恐らく専門家の方でも(もちろん私は専門家ではありません)判断が分かれる、或いは不明だと思われますが、今回のウィルスに限らず、パンデミックは常に起こりうるものとして心構えをしておくことが必要なのではないかと思っています。

 なお、私は医師ではありませんので、上記の情報に不正確な部分もあるかも知れません。情報は必ずしも正確でない可能性があります。ご自身や身の回りの方の健康問題に関しては、必ず専門医の方に相談されますよう、お願い致します。

[1]T. Kageyama, S. Fujisaki, E. Takashita, H. Xu, S. Yamada, Y. Uchida, G. Neumann, T. Saito, Y. Kawaoka, M. Tashiro, Euro Surveill. 2013;18(15):p.20453.


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