原子力発電所の事故で放出される可能性の高い核種
ようやく福島第1原子力発電所も落ち着く兆しを見せてきたようです。
以前に触れましたように、現在の原子力発電所では、235Uと言う核種が用いられています。238Uも、原子炉の種類によって濃度は異なっても、存在しているはずです。原子炉の中では基本的には、この235Uが核分裂を起こし、中性子を放出し、次の核分裂を引き起こし・・・と、連鎖的に反応が続いていきます。このままですと原子爆弾になってしまいますので、制御棒を入れて、連鎖反応をゆっくりさせているのが原子炉と言うことになります。
235Uが分裂すると、マジックナンバーと呼ばれる、比較的安定な質量数前後(140前後と90前後)の核種を生成する傾向にあります。生成する核種も放射性であることが多いですが、こうした核種が、もし外界に出たとすると、一定の確率で崩壊していき、安定な核種になろうとします。一定の確率で崩壊しますから、残存している核種が半分になるのに要する時間は常に一定で、これが半減期と呼ばれるものです。下図のように、核種の量が半分になるのに要する時間は常に一定です。比較的安定なものは長いですし、不安定きわまりないものは、あっという間になくなってしまいます。下図は、半減期が2.77年とした場合、放射性核種がどのように減少していくか(最初を1とする)をグラフにしたものです。
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半減期の長い、比較的安定なものは、時間あたりに放出する放射線(α線、β線、γ線、中性子、より軽い核種など)の量は少ないので、「ちょっと近くにあった」としてもそれほど人体への影響は少ないのですが、なかなか少なくなりませんので、体内、特に呼吸器系に入り込むとやっかいです。逆に、あっという間になくなってしまうようなものは、時間あたりに放出する放射線量が多いので、量が多いとちょっと近寄っても影響がありますが、すぐになくなりますので、すぐに安全化します。
で、原子炉、使用済み核燃料プールからどんな核種が放出される危険性があるのかは、なかなか難しいのですが、90前後の核種として、比較的半減期の長い主なものは、クリプトン(Kr)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、テクネチウム(Tc)の同位体で、
85Kr(β-;γ) 10.8年
90Sr(β-;γ) 28.8年
91Y(β-;γ) 58日
90Y(β-;γ) 64時間
99Tc(β-;γ) 21万年
で、140前後の主要核種は、ヨウ素(I)、キセノン(Xe)、セシウム(Cs)の同位体で、
129I(β-;γ) 1570万年
131I(β-;γ) 8.1日
135Xe(β-;γ) 9.1時間
137Cs(β-;γ) 30.1年
と言うところでしょうか。この他に、238Uが存在する結果として、プルトニウム(Pu)が存在してもおかしくありません。
238Pu(α;γ;核分裂) 87.7年
239Pu(α;γ;核分裂) 24110年
240Pu(α;γ;核分裂;β-) 6564年
242Pu(α;γ;核分裂) 376000年
ここで()内は、放出する可能性のある放射線の種類で、αはヘリウム原子核、β-は電子、γは光子(電磁波)です。核分裂では、中性子線も放出される可能性があります。β壊変ではニュートリノも放出されますが、これは、検出する方が困難な素粒子ですので、人体への影響はありません。
KrとXe、Iを除けば全て重金属ですので、原子炉から漏出しても、重いため、よほど上空へ飛散しなければ、比較的近辺に落ちてくるはずですが、今回の事故でどうであったかについては、私は情報を持ち合わせておりません。
さて、生体に「当たった」場合の影響力は「α>β>γ」の順ですが、到達距離は逆の順で、「α<β<γ」になります。
上記の核種のうち、生体への影響力として気にかかるのは、Sr、Y、I、Cs、Puと言った元素でしょう。Srは、体内に長く留まり(カルシウム;Caと同じ第2族元素なので、骨に沈着する)、90Yになって、この90Yがβ-線を放出するのでやっかいです。Csは、Na(ナトリウム)、K(カリウム)と同じ第1族元素なので、Kの代わりに体内に数百日のオーダーで留まって、β-線やγ線を放出するのでこれまた注意が必要です。131I、129Iは、甲状腺に集まる性質があるため、半減期は両極端の核種ですが、やっかいな核種です。あらかじめヨウ化カリウムを服用し、甲状腺にこれ以上ヨウ素がこないようにしておけば有効とも考えられているため、安定化ヨウ素剤(KI)が用いられることがあります。Puも、α線を放出するのでいやな元素です。
今回事故を起こした原発の周辺住民の皆様は、さぞかし不安に思っておられることと思います。残念ながら、私は、今回の事故に関して、どの辺まで安全でどの辺が危険なのかに関する情報を持ち合わせておりませんので、できるだけ、科学的にわかりやすい解説をして、拙い解説ではありますが、報道等で用いられている用語の中身を多少とも理解して頂くことで、わずかでも情報を提供させて頂ければと考えております。
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以前に触れましたように、現在の原子力発電所では、235Uと言う核種が用いられています。238Uも、原子炉の種類によって濃度は異なっても、存在しているはずです。原子炉の中では基本的には、この235Uが核分裂を起こし、中性子を放出し、次の核分裂を引き起こし・・・と、連鎖的に反応が続いていきます。このままですと原子爆弾になってしまいますので、制御棒を入れて、連鎖反応をゆっくりさせているのが原子炉と言うことになります。
235Uが分裂すると、マジックナンバーと呼ばれる、比較的安定な質量数前後(140前後と90前後)の核種を生成する傾向にあります。生成する核種も放射性であることが多いですが、こうした核種が、もし外界に出たとすると、一定の確率で崩壊していき、安定な核種になろうとします。一定の確率で崩壊しますから、残存している核種が半分になるのに要する時間は常に一定で、これが半減期と呼ばれるものです。下図のように、核種の量が半分になるのに要する時間は常に一定です。比較的安定なものは長いですし、不安定きわまりないものは、あっという間になくなってしまいます。下図は、半減期が2.77年とした場合、放射性核種がどのように減少していくか(最初を1とする)をグラフにしたものです。
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半減期の長い、比較的安定なものは、時間あたりに放出する放射線(α線、β線、γ線、中性子、より軽い核種など)の量は少ないので、「ちょっと近くにあった」としてもそれほど人体への影響は少ないのですが、なかなか少なくなりませんので、体内、特に呼吸器系に入り込むとやっかいです。逆に、あっという間になくなってしまうようなものは、時間あたりに放出する放射線量が多いので、量が多いとちょっと近寄っても影響がありますが、すぐになくなりますので、すぐに安全化します。
で、原子炉、使用済み核燃料プールからどんな核種が放出される危険性があるのかは、なかなか難しいのですが、90前後の核種として、比較的半減期の長い主なものは、クリプトン(Kr)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、テクネチウム(Tc)の同位体で、
85Kr(β-;γ) 10.8年
90Sr(β-;γ) 28.8年
91Y(β-;γ) 58日
90Y(β-;γ) 64時間
99Tc(β-;γ) 21万年
で、140前後の主要核種は、ヨウ素(I)、キセノン(Xe)、セシウム(Cs)の同位体で、
129I(β-;γ) 1570万年
131I(β-;γ) 8.1日
135Xe(β-;γ) 9.1時間
137Cs(β-;γ) 30.1年
と言うところでしょうか。この他に、238Uが存在する結果として、プルトニウム(Pu)が存在してもおかしくありません。
238Pu(α;γ;核分裂) 87.7年
239Pu(α;γ;核分裂) 24110年
240Pu(α;γ;核分裂;β-) 6564年
242Pu(α;γ;核分裂) 376000年
ここで()内は、放出する可能性のある放射線の種類で、αはヘリウム原子核、β-は電子、γは光子(電磁波)です。核分裂では、中性子線も放出される可能性があります。β壊変ではニュートリノも放出されますが、これは、検出する方が困難な素粒子ですので、人体への影響はありません。
KrとXe、Iを除けば全て重金属ですので、原子炉から漏出しても、重いため、よほど上空へ飛散しなければ、比較的近辺に落ちてくるはずですが、今回の事故でどうであったかについては、私は情報を持ち合わせておりません。
さて、生体に「当たった」場合の影響力は「α>β>γ」の順ですが、到達距離は逆の順で、「α<β<γ」になります。
上記の核種のうち、生体への影響力として気にかかるのは、Sr、Y、I、Cs、Puと言った元素でしょう。Srは、体内に長く留まり(カルシウム;Caと同じ第2族元素なので、骨に沈着する)、90Yになって、この90Yがβ-線を放出するのでやっかいです。Csは、Na(ナトリウム)、K(カリウム)と同じ第1族元素なので、Kの代わりに体内に数百日のオーダーで留まって、β-線やγ線を放出するのでこれまた注意が必要です。131I、129Iは、甲状腺に集まる性質があるため、半減期は両極端の核種ですが、やっかいな核種です。あらかじめヨウ化カリウムを服用し、甲状腺にこれ以上ヨウ素がこないようにしておけば有効とも考えられているため、安定化ヨウ素剤(KI)が用いられることがあります。Puも、α線を放出するのでいやな元素です。
今回事故を起こした原発の周辺住民の皆様は、さぞかし不安に思っておられることと思います。残念ながら、私は、今回の事故に関して、どの辺まで安全でどの辺が危険なのかに関する情報を持ち合わせておりませんので、できるだけ、科学的にわかりやすい解説をして、拙い解説ではありますが、報道等で用いられている用語の中身を多少とも理解して頂くことで、わずかでも情報を提供させて頂ければと考えております。
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