超共役って何だ | 科学は面白い

超共役って何だ

 大学の一般教養科目として有機化学を選択された方は、トルエンが、ベンゼンより化学反応性(ここでは親電子置換反応を取り上げる)が高く、メタ位よりオルト、パラ位の反応性が高いことを習われたと思います。その理由に出てくるのは、「超共役」という概念ですが、語感的には、なにか、メチル基が特別な能力を持っているような響きがありますし、実際、以下のような有機化合物ではやや特殊な極限構造式で説明されることがあります。



超共役1


 もちろん、これを間違いと言うつもりはありませんが、何かわかったようなわからないような気にさせられませんでしたでしょうか? 実際、このメチル基がt-Bu基だったりしたら、ほとんどこの効果はありませんので、このような極限構造式も書かれません。どうも、後からつけた説明のように思えるので、少なくとも極めて物わかりの悪い私は納得がいかなかったのを覚えています。


 実際、より実態に近い(量子力学的)理解としては、分子軌道の概念を用いて、下図のような説明の延長線上で解釈されています。



超共役2


 上図は、[H3C-CH2]+の、2つの分子軌道を描いたもので、左が、電子の入っているσ軌道、右が空のπ軌道です。電子の入っている軌道と電子の入っていない軌道が重なり合えますので、軌道間相互作用により、σ軌道から空のπ軌道へ電子が移動する(あまりいい表現ではないが他に思いつかない)ことができ、-CH2カチオンの部分を安定化することができます。トルエンでも同様で、メチル基のσ軌道と芳香環の空軌道の相互作用が起こっていると解釈できます。


 この解釈だと、後付ではなく、実感がよりこもっているのではないでしょうか。