黒田マジックという名の「晴れた日の傘」 | 元ヘッジファンドE氏の「着実に2割稼ぐ株式投資術」

元ヘッジファンドE氏の「着実に2割稼ぐ株式投資術」

日本株のファンドマネージャーを20年以上、うち8年はヘッジファンドのファンドマネージャーをしてきた私「E」が、相場に振らされず安定して着実に2割稼ぐコツを解説していきます。

こんにちは。元ヘッジファンドマネージャーで、今は資産運用アドバイザーをしている株のプロ「E氏」です。

先週火曜日に日銀が発表した「資金供給枠2倍」が実際には効果がないという報道がなかなか出てきません。経済記者がわからなくても仕方ないですが、国内の株式評論家やエコノミスト、マーケット関係者からも否定的な見方が出ていないのが不思議です。

この政策は実はニーズも実効性もほとんどないのです。

そこで、今日は、日銀の資金供給増が実際影響ないということをもう少し踏み込んでみてみたいと思います。

黒田マジック再び発動される 低利融資「2倍」に市場素直に反応

日銀が金融機関から国債を買い取ることなどで供給する資金供給量(マネタリーベース)は13年4月の異次元緩和導入以降、1.5倍に増えているのに対し、銀行から企業などへの貸出は前年同月比2%台で増えてはいるが、伸びの鈍さも指摘される。
(中略)
延長・拡充される低利融資制度には2種類あり、いずれも金利は年0.1%で融資期間は4年。一つは環境、エネルギー、医療など成長分野に融資した 金融機関に対するもので、通常融資枠3.5兆円を7兆円に倍増。1金融機関あたりの限度は1500億円だったが、既に使い切った銀行もあるため、これを1 兆円に増やす。
もう一方は、分野を問わず貸出残高が増えた分が対象。従来は増えた分が限度だったが、増えた分の2倍に拡大する。衆院経済産業委員会に2月 21日に呼ばれた日銀の雨宮正佳理事(金融政策などを担当)は「2倍」への拡充について、「国内総生産(GDP)を押し上げ期待する」と述べた。
(中略)
日経平均の午前終値は前日終値比130円ほど上昇していたが、午後の取引再開からものの10分ほどで前日終値からの上昇幅を約150円も拡大し証券関係者を慌てさせた。顧客から「何が起きた」と問い合わせがあってもうまく答えられないケースもあったようだ。
この日の上げ相場をまず引っ張ったのは一部の外国人投資家だった。関係者によると「発表内容を読み込む間もなく『2倍』に反応して買いまくっ た」ようだ。 これに慌てた他の市場参加者も買いに走り、あれよあれよという間に500円超上昇し、終値は前日比450円13銭高の1万4843円24銭。 終値の上げ幅は6か月半ぶりの大きさだった。日銀内にも「こんなに株高を呼ぶとは思わなかった」との声が多く、「黒田マジック」再来に驚きが広がる。

やっぱり、発表内容をろくに読まずに「2倍に反応した」ようです。クイズ問題を言い終わる前に「フライングで答えた」ら、質問が全く違っていたような恥ずかしさなのになぜ気付かないのでしょう。

黒田マジックと言っても、当の日銀は騙すつもりはなかったようで、日銀内部でもマーケットの反応ぶりに驚いているようです。下手をしたら、「そんな子供騙しの政策に引っかかる訳無いだろ」と失望売りを浴びせられても良い程度の内容なのです。

こんな具合に株式マーケット参加者は依然として否定的ではないものの、当事者である銀行サイドは決して好意的ではありません
再送-〔焦点〕日銀の貸出支援拡充、利ザヤ縮小圧力の懸念 見えない資金需要の高まり

 <銀行の本音は「ありがた迷惑」>
「大きな声ではとても言えないが、ありがた迷惑」――。 ある大手銀行の幹部は、今回の日銀の貸出支援制度の拡充策をこう評する。   邦銀の悩みの1つは、利ザヤの縮小に歯止めが掛からない点だ。貸出金残高と利ザヤを掛け合わせて生じる預貸金収益は、利ザヤの縮小を貸出の伸びで吸収 できず、減り続けている。この幹部は「貸出支援制度の拡充は、利ザヤの縮小に拍車を掛ける」と懸念する。
銀行アナリストによると、銀行の調達金利は預金保険料などコストを加味すると0.15%程度。日銀の貸出支援策は貸付金利を4年固定の年0.1%としており、低コストであることは間違いない。その分、貸出金利を引き下げることができる。
企業側も低利調達が可能になるため、一部では借り入れを起こそうする動きにもつながる。
しかし、企業の資金需要は決して盛り上がっているわけではない。「過剰設備や過剰人員はリストラなどで対処可能だが、過剰債務に対する恐れが企業に染み込んでいる」(銀行幹部)中で、対外借り入れで設備投資資金を賄う動きはなかなか潮流になっていないという。
こうした中で、貸出増を図ろうとすれば金利ダンピング競争は不可避。日銀による低金利マネーの供給は、さらに金利競争に拍車を掛ける懸念がある。

銀行も「ありがた迷惑」と思っているようです。

昔から、日本の銀行は「晴れているときに傘を貸してくれるが、雨が降ると取り上げる」と揶揄されてきましたが、銀行の親分である日銀は「晴れた日に傘を二本も貸してくれる」ようです。

上の記事のポイントは
●低利で調達しても、そもそも資金需要が無い
●対外借り入れを増やしてまで設備投資資金をまかなう動きは見られない

●この状況化で貸出増を図ろうとすれば、金利ダンピング競争は不可避で、更に金利競争に拍車をかける懸念がある
と言うところです。

今日はこれが本当かどうかをデータなどを見ながら検証していきます。

まず昨年4月からスタートした日銀の異次元緩和前後のマネタリーベースです。
(マネタリーベース)
1マネタリーベース

この表を見ると判るように、マネタリーベースは昨年4月の149兆円から今年1月の200兆円まで34%も増えています。しかし、このブレイクダウンを見てみると、ほとんどが日銀当座預金の中の超過準備なのです。
つまり、日銀が民間銀行から国債買いオペをして民間銀行にマネーを増やした50兆円(149兆と200兆の差額)の実に43兆円が再び日銀の金庫に帰ってきて眠っているのです。

結局、銀行経由で市中に流れているのはたったの7兆円と言うことです。

そうはいっても7兆円市中に流れたので、銀行貸し出しの伸びは高まってきています。
(銀行貸し出しの伸び率)
2貸出伸び
異次元緩和前は、貸出残高400兆円で1%ほど貸し出しが伸びていたので、そこに7兆円加わったので伸び率が3%近くになった、こういう事です。

なので、効果が全くないわけではありませんが、マネタリーベースが前年比較で3割以上伸びているのに、銀行貸出はたった3%増という「大山鳴動してネズミ一匹・・・」のような有様です。

これを貸出側(銀行)と借り入れ側(民間企業や個人など)のニーズを次は見てみます。

まず、貸出側の運営スタンスですが、日銀統計によると
(貸出運営スタンス)
3貸出運営スタンス

異次元緩和がどこからスタートしたのかわからないくらいに緩慢な動きです。この数ヶ月ほどで中小企業向けの融資はやや積極化させてきていますが、銀行が積極的に貸したい感じは受けません。

業種別の貸出で見ると、
(業種別貸出伸び率)
6業種別貸出

電気ガスは燃料費アップで大赤字なので、後ろ向きの借り入れ増でしょう。貸し出しが増えているといっても、あまり前向きな業種で増えている感じではありません。

一方、借り入れ主体別の資金需要ですが、
(資金需要)
4資金需要

需要がずっと強いのは個人(主に住宅ローン)で、日銀の異次元緩和以降、企業の借り入れニーズもちょっと高まっています。これはおそらく、低利での借り換えニーズと思われます。

企業向けの中身をもう少し見るために、業種別の資金需要を見てみると
(資金需要判断)
5業種別資金需要

建設不動産や金融保険などのバブル系セクターのニーズが高まっていますが、一般製造業やサービス業のニーズは高くないです。なので、もしかしたら、建設不動産や金融の資金需要は被災地関係の特需の可能性も高いです。

という具合に、貸出側も借り入れ側もイマイチ盛り上がりにかける銀行融資利用ですが、その原因を次は見てみます。
(資金過不足)
7資金過不足

こ のグラフを見ると、民間企業はリーマンショック以降、借り入れを減らし、現預金を増やしてきています。これは、リーマンショックで潰れそうになったので、 自分の身は自分で守ろうと現預金を潤沢に溜め込み始めたのです。企業経営としては健全ですが、そのお陰で銀行が相対的に用無しになってきているのです。

これはもっと長い期間で見ても顕著で、
(外部資金依存度)
8外部資金依存度

この20年で、民間企業は外部資金の依存度を急速に下げて、設備投資はキャッシュフローの範囲で行うようになっています。リーマンショックの前から、現預金を溜める動きが続いていたのです。
これは、バブル崩壊後の銀行貸し出し姿勢の急変で、資金繰りが厳しくなったため、企業が銀行に頼らずに自己防衛に走っているためです。

こういう状況下で、資金供給枠を二倍にしたところで貸出が増える訳が無いのです。

銀行からしたら、無理して変なところに貸して焦げ付くくらいなら0.6%で回る国債を持っているほうが良いのです。そして、もし、日銀買いオペで保有国債を売ることになったら、代わりに入ってきたマネーは貸し出さずに日銀に超過準備に預けておいたほうが良いのです。

従って、先週日銀が発表した「新たな量的緩和もどき」は所詮「晴れた日の傘」にか過ぎないわけです。

黒田マジックに過度な期待をしないようにしましょう。

(終わり)


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