地獄の唄 ~ワルプルギス・ハレルヤ~ | Free Way

地獄の唄 ~ワルプルギス・ハレルヤ~

【地獄の唄 ~ワルプルギス・ハレルヤ~】  神薙 炎


臨・兵・闘・者・皆・陳・裂・在・前
江月照らし、松風吹く、永夜清宵、何の所為ぞ?
江月照らし、松風吹く、永夜清宵、何の所為ぞ?
バン ウン タラク キリク アク


地獄がある
大通りにたたずんでいる
少年の中に地獄がある
アグラ・アラリタ・マルクトゥ!
ヘカス・エスタ・ベベロイ!
インフェルノ!
インフェルノ!
エヘイエ・ケオス!
エヘイエ・ツェレマ・ケオス!
少年の中に地獄がある

逆巻いている
うねりを上げている
地獄がある
大通りにたたずんでいる
少年の中に地獄がある

少年を取り巻く世界には
仮面をつけた人間しかいない
仮面と
仮面を
仮面も
仮面が
そして口々に呟いている
陀羅尼を
意味もわからぬ
押しつけがましい偽善の呪文を
アニ・マニ・マネ・ママネ・シレ・シャリテ
アニ・マニ・マネ・ママネ・シレ・シャリテ
アニ・マニ・マネ・ママネ・シレ・シャリテ
アニ・マニ・マネ・ママネ・シレ・シャリテ
仮面の口から漏れる言葉が
絡みつく
苦しめる
地獄をはらんだ少年を
痛めつけている
打ちのめしている
騙している
裏切っている
殺している
何度でも殺している
繰り返し殺している
毎日殺し続けている
仮面が
陀羅尼が
偽善に満ちた
すべての世界が


そして今
ついに地獄が解き放たれる!
コキュートス!
少年の目が殺意に凍てつく!
第一の地獄、カイーナ!
父よ!母よ!
第二の地獄、アンテノーラ!
国よ!社会よ!
第三の地獄、トロメーア!
友よ!恋人よ!
最終地獄、ジュデッカ!
おお!永遠の地獄、ジュデッカ!
裏切りを覆い隠すすべての偽善者よ!
裏切りをひた隠し取り澄ましたこの世界よ!
コキュートス!
今こそ地獄の扉が開く!
コキュートス!
地獄が世界に解き放たれる!


地獄が広がる
地獄が広がる
少年から
地獄が広がる
広がる
呑み込んで行く
世界を
仮面をつけた人々を
パペ・サタン!パペ・サタン!
仮面の人々が地獄に飲まれ
パペ・サタン!パペ・サタン!
引き裂かれる
食い千切られる
少年の地獄に
解き放たれた少年の殺意に


死体が転がる
死体が転がる
引き裂かれた
食い千切られた
死体が転がる
仮面を剥がれて
その正体をムキ出しにして
死体が転がる
死体が転がる
そして地獄の風が吹く
積み上げられた死体の上を
地獄の風が吹きぬけて行く
すると死体の咽喉(のど)が鳴る
吹きぬける風に
死体の咽喉が喘息患者の吐息を漏らす
ひゅうひゅうと
ひゅうひゅうと
無数の死体の咽喉が鳴る
やがて連なる地獄の音色
ザーザース ザーザース ナースタナーダー ザーザース
ザーザース ザーザース ナースタナーダー ザーザース
ザーザース ザーザース ナースタナーダー ザーザース
ザーザース ザーザース ナースタナーダー ザーザース
死体の咽喉が鳴る
吹きぬける風に
地獄の風に
咽喉が鳴る
声にも似て


やがて少年も
滅んでいく
朽ち果てていく
地獄の真ん中で
少年は叫ぶ
イア・イア・ハスター!
ハスター・クフアヤク・ブルグトム・ブグトラグルン
ブルグトム・アイ・アイ・ハスター!
朽ちて行く
崩れ落ちて行く
爆心地の少年が
呪いながら
世界を呪いながら
それでも撒き散らす
いつまでもやりきれない怨嗟と
なにに向けたのかも定かではない憎悪と
そして
殺意
殺意
地獄が広がる
少年が朽ち果てる
地獄の核(コア)として
永遠の殺意として
その魂が叫んでいる
イア・イア・ハスター!
ハスター・クフアヤク・ブルグトム・ブグトラグルン
ブルグトム・アイ・アイ・ハスター!
呪われよ!
呪われよ!
地獄の真ん中で
少年の魂が叫んでいる
朽ち果てながら
崩れ落ちながら


ふるべ
ゆらゆらとふるべ
ふるべ
ふるべゆらゆらと
かくゆらかしまつれば
まられるたまもいきかえりなんと
おしえたまいしみおやのおしえのまにまに
いつはやきみしるしあらしめたまえ


すべてを見ていた
見届けていた
ただ一人
引き篭もりの青年が
地獄の中でただ一人
自室に引き篭もり
それゆえ仮面を必要としない
無力でひ弱な青年が
彼は聞いた
広がる地獄の外
それでも陀羅尼を唱え続ける人々の声を
彼は見た
広がる地獄の外
それでも偽善を崇める仮面の世界を
彼は聞いた
死体の声を
偽善を剥がれたその正体を
彼は見た
死体の姿を
醜く爛れた偽善の末路を
彼は聞いた
呪いの声を
滅び行く魂の叫んだ声を
彼は見た
呪いそのものの姿を
朽ち果てて行く少年を


やがて彼は祈り始める
両手で顔を覆い隠して
哀しみに肩を震わせて
引き篭もりのその青年が呟く祈りは
かつて髑髏(ドクロ)の丘の上
人々の罪を一身に背負い
十字架に血を流して死んだ男が
最期に叫んだ嘆きの言葉と
まったく同じ呟きだった
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ


仮面の世界に
地獄が広がる
朽ち果てた少年を核(コア)として
罪の世界に
裁きが広がる
青年は呟いている
いつまでも呟いている
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ
エリ・エリ・レマ・サバ・クタニ……


江月照らし、松風吹く、永夜清宵、何の所為ぞ?
江月照らし、松風吹く、永夜清宵、何の所為ぞ?
……そもさん、何の所為ぞ!


アーメェン……


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