『父子(おやこ)鷹』 | 元広島ではたらく社長のblog

元広島ではたらく社長のblog

六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

子母澤寛の『父子鷹』 講談社文庫を読みました。

oyako

主人公は、勝海舟の父、勝小吉(こきち)。

旗本(徳川将軍直属の家臣で一万石に満たない武士)、男谷家から、貧乏旗本勝家に養子になった小吉。剣の腕は比類なし(学問はからっきし)、曲がったことが大嫌いで、武士だろうが町人だろうが分け隔てなく接する。人に頼まれたら嫌と嫌といえない性格で、トラブルばっかり、24歳離れた、兄、男谷彦四郎からは、いつもがみがみ言われている。そんな小吉の青年期から子ども麟太郎(りんたろう、勝海舟のこと)が18になる壮年期までの話。


小説の中では、歴史上の有名な人事件は全くと言っていいいほど出てこない。

今インターネットでいろいろ調べてみると・・・・・・・・、時代は、家斉、家慶の時代で、教科書では水野忠邦の天保の改革の時代。文化文政、江戸町文化の熟成期。賄賂政治が横行した時期でもある。小吉は黒船来航以前に没しているので、幕末の動乱は小説にはでてこない。同じ時期、北町奉行は、遠山の金さんで、南町奉行は、鳥居耀蔵。鳥居耀蔵は、おとり捜査を多用したり、遠山の金さんを、閑職に追いやったりと、陰謀好きであったみたいで、小説の中でも、嫌な役人として描かれている。


そんな時代の中、兄に従って、任地で、暴れたり、せっかく、就職口が見つかったのに、親を馬鹿にされたと、同僚を投げ飛ばし死なせてしまい、押し込め(家の中に独居坊)で、一生を棒に振る。その処罰をとかれても、相変わらず、江戸の町の下々のものと何やかやと騒動を起こしている日々が、描かれている。

実際に、小説の中に出て来る話が実話かどうかわからないけど、エリート一族の中にあって、かなり破天荒な人生を送ったのはホントのようだ。せがれ、勝海舟も同じような性格が遺伝したのか、何代にも渡って恩恵を受けてきた徳川将軍への忠誠は確かにあったが、権力を笠に、または賄賂政治が横行していた徳川体制の幕を下ろすことにためらいはなかったようだ。こういう大変革を起こす人間は、体制の中にどっぷり使っているより、勝海舟のような立場の人が適任だったはず。


息子勝海舟は、明治維新後の戊辰戦争で、西郷隆盛に江戸城無血開城を提案し、江戸が焼け野原になるのを回避させた。将軍や、老中たちといった権力者でなく、無辜の江戸町民が戦闘の惨禍に巻き込まれないようにしたのも、町民と武士である自分を分け隔てなく接してきた父、小吉の人生があったからこそであろう。


剣以外に取り立てて才能はなかったが、その『曲がったことが、大っきれえな』性格が、後の江戸100万の町民を救うことになった。いま、『曲がったことが、大っきれえな』お父さん!日本にいますか?