『星宿海への道』 | 元広島ではたらく社長のblog

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六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

050904

久しぶりに、宮本輝さんの作品を読みました。文庫で出た『星宿海への道』です。

かれこれ、宮本輝さんの本と出合って20年近く時が過ぎました。宮本さんの作品には、たくさんの登場人物が出てきて、その一人一人が、いろんな過去を持ち、いろんな影を持ち、それでもどうしようもなく明るかったり、どうしようもなく嫌な奴だったり、説明しきれない人だったりします。その数は1000人くらいでしょうか?そして、その人物たちが織り成す物語を、人間という不可思議な生き物を、あるいは人生という不可解な時間を、読んでる私たちは、わかったようで、あるいは宮本さんにはぐらかされたようで、答えが出ないまま、また次の作品を買ってしまうのです。

『星宿海への道』も、中国のタクラマカン砂漠で旅行中に突然失踪した義理の兄の過去を、その弟や妻が少しづつ、調べていくうちに、その出生、死に別れた母親、出生地が明らかになり、それは兄の過去をたどると同時に、生まれたばかりの兄の子せつの未来につながっていく物語と、私は感じました。

星宿海は、中国の黄河の源流にある、大小さまざまな湖、池が見渡す限り広がり、それが光の加減で星の海のようになっているという実在の場所。失踪した兄は、亡き母が話してくれた、一度も見たことのない故郷の海を尋ね当て、その大小さまざまな島が散らばる瀬戸内の海を星宿海と重ね合わせて何度も眺めていたという描写がある。

その場所は、愛媛県の今は今治市になる大島というところ。実は、私ごとではあるけれど、ここ数年、仕事で、しまなみ海道をよく通ることがあり、一瞬、垣間見えるある場所を、この海辺でのんびりしたらさぞ気持ちいいかもと、常々思っているところがある。それが、小説に出てくる大島。私の場合は、しまの北側で、小説の場所とは違うのだけれど、そして、小説に出てくる場所も本当に実在するのかわからないけれど、その場所は私に、語りかけてくるものがある。

宮本さんの作品には、相変わらず、自殺する人物がいるし、戦争後のどたばた時代に、深い心の傷を負った人が出てくる。読んでも読んでも、一向に答えは出てこないで、さらに次から次に、いろんな人間の人生を読者にぶつけてくる。私たちは、涙を拭きつつ、こぶしを固めつつ、ただ、ただ読むしかできない。宮本さんとのこのやり取りは、当分終わりそうにない。