太陽付近に彗星群、大彗星接近の前兆か


音史のブログ-池谷・関彗星
太陽に接近する池谷・関彗星(1965年撮影)。
(Photograph by Victor R. Boswell Jr. National Geographic)


 最近、太陽に突進する彗星群がNASAの太陽観測衛星SOHO(太陽・太陽圏観測衛星:Solar and Heliospheric Observatory)によって頻繁に観測されている。一部の天文学者は、巨大な彗星が太陽に接近する前兆ではないかと推測している。

 SOHOは1995年の打ち上げ以降、太陽周辺で約2000個に上る彗星を撮影してきた。太陽をかすめるように通過する彗星は「サングレーザー」の名で呼ばれ、その大半は比較的小型で、発見から数時間以内に蒸発して消滅する場合が多い。

 SOHOがサングレーザーの姿をとらえる頻度は通常、数日に1個程度である。ところが2010年12月13日~22日には、わずか10日間で25個が観測された。ワシントンD.C.にある米国海軍研究所(NRL)のカール・バッタムズ(Karl Battams)氏は、「これほどの頻度でサングレーザーを観測した例は過去にない」と話す。

 バッタムズ氏らの研究チームによると、後方にある巨大な親彗星から分裂して彗星群となったのではないかという。氷に覆われた巨大な親彗星が太陽のすぐ近くを通過すれば、見ごたえのある天体ショーが展開するかもしれない。

 彗星を数多くとらえているSOHOだが、太陽観測が本来の任務だ。SOHOには、コロナグラフを備えたカメラが1台搭載されている。コロナグラフは、太陽の上層大気に現れる微細な変化を観測できるように光球を覆い隠す装置だが、太陽に突進する小さな彗星の姿をとらえる上でも大いに役立っている。

 SOHOが観測したサングレーザーの数は、1997年の69個に対し2010年は200個と、ここ十数年で増加傾向にある。もちろん彗星観測に対する関心の高まりや、画像最適化技術の進歩なども寄与しているだろう。しかし、それを差し引いたとしても、右肩上がりのカーブはサングレーザーの出現数自体が増えていることを示唆している。

 バッタムズ氏らの研究チームによると、このところ相次いで確認された太陽に突進する小さな彗星の群れは、1965年に発見された池谷・関彗星と同クラスの巨大彗星から分裂した破片ではないかという。

 池谷・関彗星はサングレーザーの“親の親”にあたると見られている。1965年当時、核の直径が5キロもあるこの巨大な彗星は、太陽表面からわずか45万キロの地点を通過したが、蒸発することなく輝きを放ちながら太陽を旋回した。その光は地球にも届き、一時は日中でも観測できたという。

 ただ当時は太陽観測の衛星もまだなく、池谷・関彗星が太陽へ接近する前に彗星群が出現したかどうかは確認されていない。

 1994年に木星へ衝突したシューメーカー・レビー第9彗星の発見者の1人である彗星探索家デイビッド・レビー氏によると、巨大なサングレーザーが出現する明確な根拠は今のところ存在しないという。一般に彗星は非常にもろく分裂しやすい。現在観測されている彗星群は、既に消滅した巨大な彗星の最後の名残にすぎないかもしれないとレビー氏は話す。

 カリフォルニア州パサデナにあるNASAジェット推進研究所(JPL)のドン・イェオマンズ(Don Yeomans)氏も、レビー氏と同じ見解だ。イェオマンズ氏は、「サングレーザーの急増は確かに目を見張るものがある」と語る。「しかし、真相を見極めるためには今後もこうした傾向が続くかどうか観察が必要だ」。

 また、池谷・関彗星のような巨大彗星が太陽に向かって急速に接近しているのだとすれば、世界中の天文家たちが黙っているはずはないと同氏は指摘する。もちろん、SOHOが観測した彗星群の軌道を太陽系の果てまでさかのぼれば、太陽へ向かって接近している巨大な彗星にたどり着けるかもしれない。だがそれはまた別の話だ。

 イェオマンズ氏は、「そのような彗星を発見できたとしても、太陽に到達するまでに数千年から数百万年はかかるだろう」と述べている。

<ナショナルジオグラフィック記事より>




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