日本の古代建築の代表ともいえる五重塔には、耐震構造がなされている。

下の図のように、法隆寺五重塔には通し柱がない。いや、法隆寺五重塔だけではなく、日本の木塔には、

ほとんど通し柱やいわゆる筋交いがないというのである。したがって、現在の建築基準法では、
こうした五重塔のような木造建築は許可されない。


音史のブログ-心柱1


法隆寺の宮大工西岡常一棟梁は、法輪寺再建の時に補強のた め鉄骨を使おうという建築学者を前に、

次のようなことを言ったという。
「大工の言うとおりにすれば、それでいいんや。飛鳥建築でも、白鳳建築でも、天平の建築でも学者が

したのと違う。みんな大工が、達人がしたんや。我々は達人ではないけれども、達人の伝統をふまえてや
っているのだから間違いないんや。いらん知恵出して、ヘンなことをしたら、かえって ヒノキの命を弱める

のだから、やめてくれなはれ。」
            「木に学べ」 西岡常一著より




音史のブログ-心柱2

○心柱閂(かんぬき)説
  石田修三教授は、模型振動実験の結果を次のようにまとめている。
 1 どの外乱周期帯域においても早期に最上層の首振り現象がみられ、下層の振動を抑制する傾向

   が観察された。  
 2 外乱速度を上げると、最上層が倒壊に向かうが、心柱があれば主として4層目の剛床との衝突に

   より復元する。
 3 その際、高さ方向に外乱周期応じたパターンの横波の伝播が見られるが、その振幅の成長は心柱

   の衝突によって抑制される。・・・
 4 衝突時における心柱の傾斜は微小であり、塔自体の転倒は生じにくい。
 5 短周期外乱の場合わずかながら下層で免震作用がみられる。
 6 梁上型および懸垂型も上記の性格をもつが、最下層の横揺れに心柱が効かないため、貫通型

   ほどの抵抗力はない。

   倒壊に要する地動速度は、貫通型に比して条件の悪い懸垂型や梁上型でも、心柱なしのモデルの

   2倍以上あり、心柱が耐震性能の向上にいかに役立ち得るかをこの図は示している。・・・
   五重塔の心柱はちょうど観音開きの扉を固定する「閂」の働きをするので、これを「心柱の閂作用」

   あるいは「心柱の閂効果」と呼ぶことにした。
   そして、「心柱の閂作用」が層塔の終局的な耐震性能を決定づけるとする考え方を「心柱閂説」と

   呼ぶことにした。そのからくりを最も簡潔に表現したものが上図である。

       「心柱を科学する」石田修三 著より:
      「五重塔はなぜ倒れないか」 上田篤編 新潮選書 より
           
   地震のときに法隆寺五重塔の下に立って上を見上げると「初重がこう右に傾けば二重が左に傾く。

   三重は右に傾く。たがいちがい、たがいちがいに波をうつようになった」と西岡はいう。これは全く

   スネークダンスである。・・・しかしそれは、五重塔が基本的にキャップ構造だから可能なことである。

   塔の上重と下重とでは、構造的に関係がないから、そういう別々の動きもできるのである。

   そして、そのばあい、傾きによってできる接合部の変形や隙間を吸収できるのは、たいてい上下の

   部材の接合が枘穴(ほぞあな)という溝に枘(ほぞ)という突起物がはまっているだけだからだ。

   たとえば、柱と柱盤のあいだのこのようなゆるやかな接合が、建物全体を柳のようにしなやかにする

   ことを可能にしているのである。
       「謎の建築・五重塔」上田篤著 より
       「五重塔はなぜ倒れないか」上田篤編 新潮選書 より




 そして、それが今回現代建築の耐震構造として使われる事になる。

それが、「東京スカイツリー」である。



音史のブログ-東京スカイツリー

新タワーは,東京都墨田区の押上地区と業平地区の間にある東武鉄道の所有地に建設されることが決まっている。タワーの高さは610m。地上から350mと450mの地点にそれぞれ展望台を設ける。今回のデザインで,「心柱」と呼ぶ鉄筋コンクリート製の中心軸と,心柱を取り巻く編み籠状の鉄骨による「塔体」から成る構造を採用した。

 デザインを監修した,彫刻家で元・東京芸術大学学長の澄川喜一氏によれば,この構造は,これまで地震による倒壊を免れてきた京都の東寺や奈良・法隆寺の五重塔の構造と同じだという。心柱と塔体の相互作用が地震の揺れを低減するためで,今回は心柱と塔体との間にダンパーを設置して,耐震性をさらに高める。

 タワーの形状にも日本の古代建築の様式美を盛り込んだ。具体的には,次のような形状である。すなわち,まずタワーは心柱と塔体の3本の足で支えるため,地上付近のタワーの断面は塔体の足を頂点とする正三角形となる。ところが,展望台のある350m以上の高さでは断面が円形である。0~350mの間は,三角形の辺にあたる部分がしだいに膨らんで,円形に近づく形状になっている。この結果,タワーを見る角度によって,塔体のシルエットが日本刀のようにゆるやかに反っているように見えたり,逆にふくらんでいるように見えたりする。このふくらみは,「むくり」と呼ぶ,日本や世界の古代建築にある柱のふくらみを意識したという。

              <Tech-On記事 より>



古代からの日本の高層建築である五重塔の構造に学ぶべきものは、まだまだ多いのかもしれない。


 尚、9月末から京都東寺の五重塔の一階内部が一般公開も行われます。

五重塔は、54,8mと日本一の高さである。1階には仏像が安置されており、心柱を大日如来に

見たてて、その周りを四尊の如来と、八尊の菩薩が囲んでいます。

そして、四面の側柱には八大龍王、壁には真言八租が描かれています。

勿論、弘法大師の絵も描かれています。


一度、秋の京都を訪れてみてはいかがでしょうか?