・・日本映画生誕100年・・
・マキノ雅弘生誕100年・
史上最大のカツドウヤ<その5>



【若き日の次郎長 東海の顔役】(東映 1960年)
中村錦之助の次郎長で撮られたシリーズの一編。最高に面白かった。米屋の長五郎がヤクザの次郎長になるまでの1編。東宝・小堀明男の次郎長の展開とは違っているようなんですが、こちらでは次のように話が展開していく。
冒頭庭先で子供を集めて相撲を取らせている錦之助、そこへ許嫁のお蝶(丘さとみ)が怒ってやってくる。お多福、ふぐ、などとおちょくっての痴話げんかが楽しい。で物語の方だが米飢饉の清水港では無宿者に米を売れば厳罰というお触れが出ているので長五郎らは無宿者が金を持ってきても米を売る事ができない。ボンボン長五郎は押し寄せる無宿者を陽気に追っ払っているが、やがて悲しい事件が起こったことで、自分ちの米を無宿者に売ってしまう。捕えられ鞭打たれた長五郎は、所払いと言う事で放免され、父親に船に乗って紀州へ行って来いと言われる。
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途中米がたくさんあると聞いた長五郎は尾張に立ち寄り、大暴れしながらヤクザ相手に300俵の米を手に入れるまでの冒険譚が痛快だ。途中、仙右衛門(平幹二朗)、鬼吉(加賀邦男)、法印大五郎(田中春男)、常(大前均)、豚松(中村錦司)、追分三五郎(東千代之介)、ら仲間が増え、クライマックスにはヤクザを倒すためにヤクザになって殴り込みをかけようと言うことで盃を固める。
地味な小堀明男・東宝次郎長シリーズでは、子分たちの集団劇の楽しさが魅力だが、こちらでは太陽のように若くて明るい魅力に溢れた錦之助次郎長が中心だ。モーターサイクル・ダイアリーズが若くて裕福な医学生チェ・ゲバラが旅に出て、社会の様々な矛盾にぶつかっていくように、錦之助次郎長も社会の矛盾にぶつかって、お上や、しきたりや、強力なヤクザに立ち向かっていく。まるで若き革命家の挑戦をみるようだ。陽気な男を演じてもどこかストイックさが残る高倉健さんと違って、若き錦之助は、はじけるように明るく、気っぷがいい。啖呵をきる時のハイトーンな響きに映画が躍動する。
そして米300俵を持って清水に帰ってきた次郎長は、待っていたお蝶の前で、「訳あって次郎長お蝶を女房にすることになりやした」と口上をのべる。ストレートで可愛らしい愛の告白で映画は終わる、痛快な一作である。
常連田中春男の法印大五郎の大阪弁や平幹二朗と扇町景子の夫婦の掛け合いも楽しく、笠原脚本も精緻で素晴らしい。是非ご覧あれ。
<こちらは大阪プラネットのシネマテークで見る。当分毎月回顧上映が続くようなので要注目、ご来場あれ>

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