湯布院映画祭へ3年ぶり3回目の参加をする。
最終日に若松孝二監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」を見る。
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3時間10分の長尺。若松監督は不器用だが、足立正生や大和屋竺などの才能を使うのがうまい監督だと思っている。だけど彼らのいない現在、3時間以上の映画を構成できないのではないか。また彼の政治的スタンスや思い込みだけが先走りした映画になるのではないかと不安が大きかったのだが、凄い傑作だった。190分間、映画の世界、そして連合赤軍の世界に引きずり込まれた。見終わった時、映画に打ちのめされて、全身の力を奪われ、映画祭に来ている友人たちに話しかけようとするのだが、言葉が震えてうまく声がでないほどで、こんなにまでなってしまう映画体験は初めてのことだ。
映画は3つのパートに分かれているということだが、その3つも大河のごとくおおきな流れとして連続してある。3つとは、60年安保などに始まり連合赤軍結成に至るまでの学生運動の歴史とリンチ事件とあさま山荘事件である。僕自身で言えば、小学生の頃から高校生に至る年月なので、約15年の歴史的な流れを同時代的に理解できたわけではなく、後から断片的に知った事も多く、よく理解できていなかった多くの点を時系列的に把握できたのも良かった。
パート1はニュース映像と登場人物に関するスーパーインポーズが多用され、まるでニュースかドキュメンタリーのようだが、僕の世代にとっても、僕らより若い世代にとっても背景を理解しやすい手際の良い映像になっている。ここで重信房子と遠山美枝子(坂井真紀)との関わりや、森恒夫の挫折などが描かれる。そして最も長いパート、山岳アジトの移動と軍事教練をしながら孤立を深めリンチが激化していく様が描かれる。ここでの永田洋子演じる並木愛枝さんと森恒夫演じる地曵豪さんが凄まじい。そしてリンチされていく遠山の坂井真紀もリアルだ。特に並木さんと地曵さんは本人が乗り移ったがごとき凄まじさ。
そして最後のあさま山荘へと舞台は移っていく。
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それまでも、パート2も連合赤軍内部における若松得意の密室劇ではあったが、このパート3においても、山荘に閉じこもった連合赤軍しか描かれず、外部の警察の動きは描かれていない。もちろん予算の関係もあるのだろうが、そのことが、包囲され閉じこめられ外部に対して純化していく連合赤軍の5人と人質の牟田泰子さんの密室劇となることで、さらに緊密な密室劇として映画的緊張は高まっていく。そして最後、5人のうちの一人の叫ぶ一言が、映画の中で、そして観客に突き刺さっていく。ここの言葉が観客に対する言葉であることが少し分かりにくいのと、若干長いとも感じたのだが、素晴らしいシーンであることには違いがない。(若松監督は、湯布院の観客の言葉も聞いて、少し編集を編集するかもと言っていた。)
上映後のシンポジウムで若松監督は事件を知らない若い人に見て欲しいと語っていたに対して、出席した映画評論家渡辺武信さんは、「連合赤軍同世代の人こそ見て欲しい、今でも新宿とかで飲んであの頃俺たちは戦ったなと、飲んでクダを巻ながら、自分の年金の事だけ心配している奴らに見せたい」と言っていたのも印象的だった。
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坂口弘役のARATAさんや坂東國夫役の大西信満さんも良くて、ARATAさんなんて別人のようになりきっていた。(ARATAさんは60年代、70年代はアート的にすごくリスペクトしているそうだ)シンポには並木、地曵、大西、ARATAさんらが出席していたけれど、彼らもこの映画を体験する事で何かが変わったんだろうと感じさせられた。
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ところで、音楽のジム・オルークもすごく効果的、よく若松映画では高木元輝や山下洋輔のフィリージャズがよく使われるが、バランスの悪い事もあるのだが、今回はすごくマッチしている。脚本は、若松さんと、編集者で本作のプロデューサー大友麻子さん、そして掛川正幸さんの共作でクレジットされているが、大友さんは、現場での若松監督の直しを手伝っただけと言う事なので、若松さんの立てたプロットに対して、掛川さんが書いて、それを大友さんの協力を得ながら若松さんが再度改定したのかなと想像する。掛川さんは、十三人連続暴行魔の脚本と主演をしていた言うことだが、本当に骨太な素晴らしい台本を書いたのだろうと想像する。
その夜のパーティで荒井晴彦さんと話をしたけど、荒井さんは若松さんは、警官=権力に銃を向けたのは彼らだったと言うのが視点で、森と永田の問題にしたアクション映画になってしまっている。どうして森と永田がリンチに至ったかを描いていないと言っていた。それはその通りだ。でもそこまでも1本の映画に描ききるのは難しいのでは、これはこれで一つのリアルが描かれた傑作だと、僕は思う。