恒例の去年の映画のBEST10です。

バンダイビジュアル
ゆれる
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1.ゆれる
2.闇打つ心臓
3.ディア・ピョンヤン
4.ヨコハマ・メリー
5.LOFT
6.やわらかい生活
7.エリ・エリ・レマ・サバクタニ
8.鉄コン筋クリート
9.欲望
10.フラガール


角川エンタテインメント
ミュンヘン スペシャル・エディション
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1.硫黄島からの手紙
2.ミュンヘン
3.父親たちの星条旗
4.ウォーク・ザ・ライン 君に続く道
5.太陽
6.ワールド・トレード・センター
7.ニュー・ワールド
8.ブラックダリア
9.アメリカ・家族のいる風景
10.インサイド・マン


バンダイビジュアル
闇打つ心臓 Heart, beating in the dark
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監督 西川美和 (ゆれる)
脚本 西川美和 (ゆれる)
男優 オダギリ・ジョー (ゆれる・HAZARD)
女優 蒼井優 (鉄コン筋クリート・フラガール・ハチミツと・・・)
音楽 赤犬+野弧禅 (青春金属バット)
撮影 田村正毅 (エリ・エリ・レマ・サバクタニ)


20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
ウォーク・ザ・ライン 君につづく道 特別編
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監督 クリント・イーストウッド (硫黄島からの手紙、父親たちの星条旗)
脚本 ジェームズ・マンゴールド (ウォーク・ザ・ライン)
男優 ホアキン・フェニックス (ウォーク・ザ・ライン)
女優 リース・ウィザースプーン (ウォーク・ザ・ライン)
音楽 T・B・バーネット(ウォーク⋄ザ⋄ライン、家族のいる風景)
撮影 トム・スターン (硫黄島からの手紙、父親たちの星条旗)
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ここ数年、日本映画の方が面白くて、外国映画はつまらない状況だったが、久々に外国映画が充実していた。イーストウッドの2作、①硫黄島からの手紙、③父親たちの星条旗に、スピルバーグの②ミュンヘン、いずれも甲乙つけがたい傑作力作。「民族的・宗教的・国家的対立にどっぷり巻き込まれた個」と「その個と家族」を交差する二軸を映画で描き「個と家族」に普遍的な価値を主張する「ミュンヘン」にはスピルバーグの映画表現の極限的な高等戦略に驚嘆した。余りに興行性と政治性と自身の民族的矛盾をハリウッド映画として見事に同居せしめた故に、どこまで一般的に理解され得たのかが敢えて残念。
 一方イーストウッドは冷酷なまでの天才的な芸術家であるが故に、「硫黄島」で見事に日本映画を撮り上げ、国籍を超えた普遍的な戦争の冷酷さ残忍さを描いた。些細なディテールをあげつらう事はここでは意味はないのがではないか。三宅さんのように戦後間もなき頃、戦争の記憶も鮮明な世代が撮った戦争の詳細な真実に関する映画の記憶を刻印した世代には不真実が多いとして、それは相対的なものでしかない。今も昔も100年前は想像で描かざるをえないように、1945年も想像で描かざるをえない。1960年の想像と2006年の想像が生む差異は相対的なものでそれは映画の優劣ではなく、描かれた映画世界が老若男女の日本人にもアメリカ人にもいかに心を揺すぶるかだ。イーストウッドは人間を描く事に徹したことで日本人にも描けない真実の日本人を描いた。③父親たち・・も素晴らしいが、ポール・ハギスの時制を往復させる脚本手法があざとく見えすぎる。映画世界に入ったかと思うと時制が変わるたびに脚本家のどうだうまいだろうとつぶやきが聞こえ気持ちが冷え損をした。
 ④ ウォーク・ザ・ラインは、ミュージシャンを描いた素晴らしい映画だった。「Ray」のような出来事をなぞった凡庸な映画ではなく、父親との確執、歌手として成功してもすれ違う妻と諍い、少年時代のアイドルだったジューン・カーターへのあこがれと愛、歌の世界が時代の変化とともに変わって行く事に対する苦悩(効果的にディランの歌が交叉する)、これを2時間の映画として見事に織りなし、バーネットのアメリカン・ミュージックへの深い造詣に裏打ちされた音楽監督のもと2人の主演自身の素晴らしい歌でまさに歌のスピリットに触れる映画だった。
 ⑤太陽は、ソクーロフの昭和天皇への愛に満ちた映画、ロシア人だからこんなに一人の人間として愛を感じて素直に撮れたのだろう。奇跡の映画だ。⑥ワールド・トレード・センターは、何も分からないまま出動し何もできないまま瓦礫の下にうめられた消防士たちが見た光に関する映画だった。最後のとってつけたようなテロップの言葉に単純な反テロ反アラブ映画であるかのように勘違いする人もいるようだが、映画はただひたすら巻き込まれて行く過程と瓦礫の下で見た光を描いている。光と音、根源的な映画表現だけにのみ律せられ、安易に声高く脚本の言葉が主張することのない傑作だ。⑦ニュー・ワールドも光と風でポカホンタスの物語という伝説的な物語を感じさせてくれた。⑧ブラック・ダリアはデ・パルマがヒッチコック的映画文法で撮り上げた見事な映画。映画ならではの官能が全面にみなぎり、あらゆる欠点をも許す。⑨家族のいる風景は、ヴェンダース世界とS・シェパード世界がバーネットの音楽によって見事に結合された。⑩インサイドは、脚本も演出もうま過ぎて引っかかりが少ないのが残念だが、でもよくできてる。
 ①ゆれる。脚本と演出と二人の主演(オダギリ、香川)の演技とカメラが凄まじいまでの緊張感で融合した大傑作。映画を見てここまでの画面にみなぎる緊張感を堪能させてもらったのは、「総長賭博」以来だ。荒井晴彦さんの酷評が意外だったが、脚本家中の脚本家荒井さんとしては真実を曖昧なままで演出家にも明確に伝わらない脚本として完結していない脚本は許せないのかな。僕は香川演じる兄自身自分でも殺したのか助けようとしたのか分からないと言うか、二つの気持ちが共存していて思い出すたびに違う感情にとらわれているように思った。監督自身の脚本で女性ならではの官能的な感覚が映画をスリリングにした。荒井脚本の⑥やわらかい生活も広木監督ではなく西川美和監督が撮れば、もっと凄い映画になったような気がする。それまで感覚的で脚本通りに撮らない神代映画を批判していた荒井さんが「赫い髪の女」で心酔したようになる気がする。広木演出はおしゃれに上滑りしすぎ。②闇打つ心臓は、我々ポスト団塊1955年世代の真情を総括され痺れた。他の世代には少し分かりにくいかも。③ディア・ピョンヤンと④ヨコハマ・メリーはすごくスリリングで面白いドキュメンタリー映画。原一男映画のように人間の根底をえぐる鋭さではなく、人間を愛する事のスリルに満ちた傑作だった。特に③は、深くて重くて誰にも描けない世界を分け入り、深い悲しみと諦念に囚われながらも笑いと愛に包まれる不思議で面白い映画。⑤LOFT⑥エリ・エリ・レマ・サバクタニの2本は映画表現の極限にあえて挑んだ意欲作。高き志とそれを実現する技量に脱帽。⑧鉄コン筋クリートの不思議なアニメ世界というか蒼井優の声が作り出す世界というか、何か今まで感じた事のない感覚に囚われた。⑨欲望のエロチックな小世界は篠田映画以外では最近味わうことのできない世界。⑩フラガールは、欠点だらけだが、観客を楽しませる素敵な娯楽映画という1点で選んだ。蒼井優と宮崎あおいの二人は出てるだけで (ハチミツとクローバーや初恋のように) 何でも映画として成立させてしまう、本当にすごい。日本映画の音楽「野弧禅」は青春金属バットで初めて聞いてびっくりした。唄でこんな衝撃を受けたのは15歳の時に友部正人の唄を聞いて以来だ。
 カポーティ、ヒストリー・オブ・バイオレンス、ブロークバック・マウンテン、力道山、単騎千里を走る、 博士の愛した数式、明日の記憶、青春金属バット、ストロベリー・ショートケイクス、ビター・スイート、小さき勇者たち・GAMERA、紙屋悦子の青春、これらの映画たちもBEST10に入れたい映画たちだった。
 ワーストは10杯のかけソバのごとき安直な感動話を時制を操作して並べ替えるだけのテクニックで飾り立てた「クラッシュ」、ウィークエンダーの再現フィルムのごとき安直さで何らの創造的な創作によって人間の奥深い感情を描く事を放棄した「ユナイテッド93」、安直で残忍なシーンを並べただけの「るにん」、これら3本が共通しているのは、一生懸命作っていると思うのだが、脚本とは話並べることだと勘違いしている事にある。話は並べるのではなく、そのようにあらねばならないところまで突き詰めることにある。「THE有頂天ホテル」は映画の風上にも、ドラマの風上にもおけない、こんなひどいでたらめな物は見るも語るも値しない。