モルヒネ 安達千夏/著 祥伝社文庫 ★★☆☆☆

過去に深く付き合い、突然目の前から消えたピアニストが主人公真紀の前に現れた。
人生の中でただ一人思いを共有できた彼は末期癌に冒され余命は少ない。
すでに婚約者がいる真紀だが、揺れる心は彼の死を見守っていく。

感動の恋愛小説というわけではありません。

死ぬための毒薬を手に入れやすいからという理由で医者になった主人公。
癌に冒され元恋人のところに現れ、死ぬためにモルヒネを要求するピアニスト。
2人の関係にうすうす気づきながら仕事に没頭する真紀の婚約者。

残念ながらこの中心人物の全ての行動・思いを理解できないままに終わってしまいました。

最初から最後まで明るさが無い小説です。
絶望感と孤独感に包まれています。

受け入れるだけで何もしないのではなく、何かアクティブな思いがほしかったところです。
もっと光を!
ぼくは勉強ができない 山田詠美/著 新潮文庫 ★★☆☆☆

勉強は苦手だけれど、自分の価値観をしっかり持ち、みんなの人気者である時田秀美くんの高校生活を描いた青春物語。

流されるままに勉強だけしていてはダメよ。もっと自分の価値観をもって行動しなさいネ。

というような、70年代の学園青春ドラマのテーマが流れている小説です。

僕も高校時代は勉強ができませんでした。
秀美くんのように女の子にはもてませんでしたけれど。

高校時代って人生にとってどういう時期なんだろうと考える。
中学までの義務教育とは違い、高校に通う義務は無い。
果たして勉強がしたいから高校に通う生徒はいるのでしょうか。

みんながいくから。大学に入るため。
振り返ってみると僕は何も考えていなかったような気がする。
たぶんみんなが行くから当然のごとく受験しただけ。

そして高校時代の記憶というと、それはもう恐ろしいほど無い。
よほどつまらない高校生活だったのだろう。
中学時代の記憶はたくさん頭の中に詰まっているのに。。。

だから、秀美くんのように自分の意思を持ち生活しているのはとてもうらやましかったりする。

ただ、この小説は高校生には読んでほしくないですね。
なんか勉強をすることはかっこ悪いような印象を与えてしまいそう。

勉強ができる=努力することができると僕は思っていますから。
(勉強ができない=努力することができないとは思っていませんが)

大人が、正しい教育のあり方について考えるために読む本だと僕は思います。



何故か、読みながら庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』をもう一度読みたくなってきました。
そのときは彼によろしく  市川 拓司/著 小学館文庫 ★★★★☆

アクアプラントショップを経営する智史のところに、美しくそして不思議な女性がアルバイトにやってくる。
一方、智史は結婚紹介所で紹介された美咲とデートを重ね、中学生時代の思い出を語る。
人と人とのつながり、愛情、そして生きる(同時に対極にある死も含めて)ということを考えさせられる青春・恋愛小説。

これまた、市川ワールドにどっぷり浸かれる作品です。

「恋愛写真」や「いま会いに行きます」などの作品とは異なるのは、死という別れが無いということ。
それでもやはり奇妙な病気による別れがあったり、恋愛に疎い人物が主人公であったり。。。

物語の中心は主人公の智史や幼馴染の花梨ではあるのですが、智史の父親の存在感が光り輝いています。

「この世界には、物理学の教科書にも載っていない強い力がひとつある。それは、磁力や重力なんかよりもはるかに強い力だ。……私たちは、そのとびきり強い力で引き合っているんだよ。だから、15年離れていても再開することができた。そうだよね?ならば、我々はまた再会するはずだ」

どんな別れの場面でもこの父親からこんな言葉を聞かされたら、無条件に納得してしまいそうです。

涙を流すような作品ではありません。

誰にでも優しくしてあげられそうな自分になる作品です。
冬は光に満ちれど 北方謙三/著 角川文庫 ★★★☆☆

約束の街シリーズ③

元殺し屋の山南定男の視点で語られる。
山南はかつての師である市来を探しに街にやってきた。
すでに年老いて殺し屋稼業から引退したはずの市来が仕事(ヤマ)を請け負ったらしい。
年老いたとはいっても市来が簡単に見つけ出せるとは思えない。標的を自分が先に殺してしまうことが市来を見つけ出し最短の道と山南は考える。
標的は久納義正(姫島の爺さん)。
市来は何を思い仕事を請け負ったのか?山南は市来を見つけ出せるのか?

山南定男。プロの元殺し屋。必殺技はナイフを使ったアキレス腱切り。拳銃やライフルも扱えるがほとんど使わない。コーヒーの淹れかたにこだわりを持っていたりもする。

よそ者の山南をソルティをはじめとするこの街の人間が受け入れ、見守っていく様子はやさしさで満ちています。

水村の内面が垣間見える場面があったりして、今後のシリーズ作品にいろいろな意味で期待を持たせられます。


山南のこだわりコーヒーとは…
1.フィルターにピラミッド型になるように粉を入れる。
2.ピラミッドの頂点に型を崩さないように時間をかけて湯をたらす。

香り漂うコーヒーの淹れ方でした。
たとえ朝が来ても 北方謙三/著 角川文庫 ★★★☆☆

約束の街シリーズ第二弾

パートナー山崎に裏切られ、山崎を探しにきた波崎了が一人称として展開する。
波崎とは別に山崎を探すもう一つのグループ。姿を消す須田。須田を死なせまいとするソルティ。
山崎の裏切りの真相は何なのか?須田との関係は?
全ての謎が解け、事件が終わったとき波崎はソルティに問いかける。
「友達(ダチ)ってなんなんだ?」

自分の目的のためならば他者が傷つくことも厭わないといいながら、最終的には山崎を救おうとする波崎。
なんて奴だ、と思わせながら最後にイイ男で終わってよかった。

それにしても、久納一族の影響力の大きさがなんとも不気味です。
血塗られた血族の怨念。
トラブルは外からやってくるのではなく、久納の血が呼び寄せているといった感じです。

女性を口説くときに使ってみたい言葉
「こうやって、秘密をひとつずつ作っていく。小さな秘密でも、いくつか集まると大きくなる。つまり、二人の間に誰も入れなくなる、ってわけだ」