赤いベルベットのような | Just A Little Bite

赤いベルベットのような

週末はダウンタウンで久々のデート。
相方のスプリングブレイク、宿題もテストの心配もない。

土曜の午後に仕事終わりの相方とダウンタウンで待ち合わせして、パイオニアスクエアにあるGrand Central Bakeryへランチに出かけた。古いレンガ作りの建物が残るパイオニアスクエアにはアートギャラリーやカフェ、アンティークショップが立ち並ぶ。

Grand Central Bakeryもパイオニアスクエアらしい、レンガ作りの建物にある。光がたっぷり入る大きな鉄格子とガラスで出来たドアが印象的な、広々としたカフェテリアがある、明るい空間のベーカリー。

私は Spicy meat loaf sandwichとIce tea、相方はCubano sandwich とIce teaをオーダー。古いシャンデリアの真下にあるテーブルに座る。こうして2人で話しているといつも時間を忘れてしまう。カフェテリアの隣にあるガラス張りの厨房で焼かれたパンを使ったサンドイッチはフレッシュで格別に美味しい。入れ立ての紅茶は甘くない、ダージリンティー。右斜め前のカップルの席は、隣に暖炉がある特等席。暖炉の火がやさしく2人の顔を照らしている。この場所は居るだけで、心地が良い。時間が止まったような感じがする。何か特別なものが飾られている訳ではない、ただ建物そのものから出る味わいが、この空間を作り出している。本物は飾らなくても、その存在だけで居心地のいい、魔法がかかったような空間を醸し出す力を持っている。



そんな風に、本物を感じずにはいられない場所がこのエリアにはもう1つある。



Elliott Bay Book Co.




その空間へ1歩足を入れると、時間が止まる。そんな場所だ。

シアトルで一番古いインディペンデント系の書店。パイオニアスクエアに欠かせない存在の場所。しかし、残念な事に、そんな歴史のあるこの書店が今月末でキャピタルヒルという別の所へ移転することが決定している。今の場所では経営が難しく、苦渋の選択だったと地元紙には説明されていた。

閉店する前にどうしても行っておきたくて、この日はパイオニアスクエアに来た。ミシミシと歩くたびに音がする床、壁一面に広がる本、レンガの壁、木の階段、古い建物と本の香り。全てが愛おしい。こんなに素敵な場所が無くなってしまう事は残念でしかたない。もう二度と、この空間に立つことは無いのかと思うと、胸が苦しくなった。

出来るだけ、この書店の空気を憶えておきたくて、いつもよりずっと長く書店に居た。そして、名残惜しい気持ちを落ち着ける為に、この書店の地下にある、Elliot Bay Cafeで相方とコーヒーを一杯飲む事にした。


レジの隣の小さなサインに目がいく。

「私たちはこの場所に残ります、
   これからもぜひこのカフェに足を運んで下さい」

このカフェはこの場所に残る事に決めたようだ。




別の場所を選んだ書店

     この場所に残る事を決めたカフェ




二つの空間が一緒になる事はもう無いのだろうか。
そんな事を考えると、また胸が痛んだ。


いつかまた、
そんな日が来る事を願わずにはいられない。





***



その夜、洋梨を赤ワインシロップに漬ける。



フレッシュな洋梨はもちろん大好きだけれど、この赤いベルベットのようにワイン色に染まった洋梨デザートはまたそれとは違った魅力がある。時間をかけてゆっくりとワイン色に染める。待つ事の楽しさ、これがこのデザートをより美味しくしている気がする。



$Just A Little Bite-pear in red wine1



洋梨の赤ワインシロップ漬け(2人分)

洋梨         2個

赤ワイン       ボトル1/2程
ブラウンシュガー   1/2カップ
シナモンスティック  1本
クローブ       2個
レモンの皮      1枚(7センチ程、薄く剥いたもの)
水          1/2カップ


洋梨以外の全ての材料を鍋に入れ、軽く沸騰する程度に中火にかける。

洋梨の皮をむく。

小さく沸騰している状態に維持したワイン液に皮をむいた洋梨を入れて、洋梨にナイフがすっと通るくらいの固さになるまで、時々洋梨を鍋の中で転がして全体にワイン液をなじませながら、約40分程火にかける。

洋梨が丁度良い固さになったら鍋を火から外し、ワイン液につけたままの状態で冷ます。

冷めたら、洋梨を鍋から出し、ワイン液の入った鍋をもう一度火にかけ、沸騰させる。
ワイン液が1/2の量になるぐらいに沸騰したら、火から外す。

ボールに洋梨とワイン液を入れて、ボールにラップをかける。
1日~2日程、時々洋梨を液になじませながら漬ける。


そのままで食べても美味しいし、
アイスクリームや、プレーンヨーグルトを添えてもいい。



***



時間をかけて作り上げられたものの魅力。
それは、すぐに手に入れられるものではない。

たくさんのストーリーがその空間で生まれて、
その場所の空気になって、色になって、音になって、香りになって、

ゆっくり作られる。

だからこそ、愛おしい


そう、簡単には作る事が出来ないからこそ、
一度失ってしまうと、もう一度手に入れる為にはとても時間がかかる。



****



時間をかけて作った赤いベルベットのような洋梨のデザートが、
           
                        いつもよりもっと愛しく感じた。