昨日、異質な存在をいかに活用するかが、イノベーションの鍵になることを論じました。

凝り固まった組織の論理やルーティーンとは違った考えを採り入れることで、正・反→合の進化を図ることができるのです。

一見、当たり前のように聞こえますが、日本企業が米国的経営を見習い始めた2000年代から、異質なものを排除するようになってしまいました。

日本の長期不況の原因について、私はかねて「技術革新が起きていないから」と主張してきました。実は、「失われた20年」と言われる長期低迷の原因は、前半と後半で原因が異なると考えています。

前半の10年は、雇用・債務・設備といったいわゆる「3つの過剰」を処理するために時間を要しました。その処理を終えた2000年代、いよいよ反転攻勢かと言われましたが、国内経済はいまだに上向いていません。

その原因がイノベーションが起きていないからなのです。

今回はその一例として、ソニーを挙げてみたいと思います。

ソニーにはかつて、超能力研究所がありました。いわゆる超能力を大まじめに研究する機関ですが、ソニーの「本流」にいる従業員からは「変な人たちの集団」と思われていたようです。

それが2000年代に入り、研究所を廃止。そして、議論などをより簡単に進める「ファシリテーション」を志向するようになりました。

ファシリテーションとは、結論から先に言うとか、会議は報告だけとか、なるべく物事を簡素に進めようとするやり方です。一時期、米国流を倣った日本の大企業が競うように口にし始めました。

ソニーのある幹部が、ことあるごとに言っていたのを思い出します。「時間を効率よく使うことが大事」「それはファシリテーションの観点からすると…」

ソニーがウォークマンやプレイステーションで隆盛を極めたのは、異質な考えをうまく受け入れていたからかもしれません。それを廃止した後の近年の凋落ぶりは、多くの人が知っているとおりです。どの商品も現状から「飛躍」する要素を感じることができません。

最近になってようやく、揺り戻しがあって「ある程度の『遊び』が必要」と多くの企業が気づき始めました。

しかし、「遊び」を持つには余裕が必要。10年間を浪費したことで、余裕はさらに少なくなってしまいました。

私は記者として、取材中にあまり意見はしないほうなんですが、この時ばかりはソニーのその人に一言言った気がします。

「ファシリテーションばかり追求すると、いつか行き詰まりますよ」