【不安な夜18】

   不安な夜の笑顔

~Uneasy night smile~


 光達が帰るときに色々あったが、何とかなったかなと思う。

久遠は、キッチンで片付けているキョーコを見た。

どことなくまだ不安定で、先程の出来事をひこずっているような・・・・・・。


「キョーコちゃん、どうかした?

まだ何か気になる事でもある?」


問い掛けられたキョーコは、不安そうな顔で、


「久遠さんは、いづれはハリウッドに・・・・・・先生の所に帰られるのですよね。

私が傍に居たら迷惑になりませんか?」


あーは言ったが、自分が何時まで久遠の“敦賀蓮”の傍に居られるのかを考えると、

途端に怖くなった。

久遠は、キョーコの不安に思っている事が、手に取るように解った。

母親にも不破にも背を向けられて、思いを受け止められる事も、

共に歩んでいく事すら無かったのだ。


そんな中、久遠に再会して想いを受け止めて返されるだけでも、

キョーコにしてみれば奇跡なのだろう。


「おいで、キョーコちゃん。」


両手を広げた久遠の腕の中に納まる。


「ねぇ、キョーコちゃん。

俺は君を手放す気は無いよ? 君が成人になったら、遠慮なくアメリカへ連れて帰るから。

だから今から覚悟しておいてね。」


キョーコの様子を見ながら話す。

久遠の言葉の意味が解ると、ドクンと鼓動が跳ね上がった。

そのまま言葉を続けて・・・・・・。


「俺の“愛”は重いから。

独占欲も強いし、嫉妬深い。

君に他の男が近づくだけでも、俺の中の闇が浮上してくるのに。」


「えっ?」


「ん?」


キョーコは、久遠の言葉に耳を疑った。

いつ自分に男の人が近づいたのだろうか?

全く身に覚えがない・・・・・・。

それでも久遠の言葉が、プロポーズと似たような意味だと受け止めた。


久遠の腕の中は、温かくてふわふわする。

身を委ねていると、久遠の規則正しい鼓動が聴こえて、

瞼が重くなりうとうとなりだした。


久遠はキョーコを抱き抱え、ソファーに横たえる。

張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。

キョーコの部屋から肌掛けを持ってきて、そっと掛けた。


(何だろう? 凄く温かい・・・・・・。 久遠さん?)


キョーコは自分が寝てしまった事に気が付いた。

目を覚ますと、久遠の膝枕で寝ていて、頭を撫でられている。

久遠の手が温かくて、何故だか涙が溢れた――――――。


「キョーコちゃん、目が覚めた?」


「はい。

あの・・・・・・すみません。涙が勝手に・・・・・・。」


「いいよ。泣きたい時には泣いても。昨日、言ったよね?

人は本来いろんな感情で泣けると。これからは、いろんな感情でもっと泣いたらいいと。

だから、泣いてもいいんだよ。」


優しい久遠の眼差しと声に、キョーコは泣いた。


「・・・・・・凄く怖かったんです。

いつまで久遠さんの傍に居られるんだろう、好きでいて貰えるんだろうって・・・・・・。

そしたら、久遠さんが“手放す気はない”って言ってくれたから。だから・・・・・・。」


ぽろぽろと涙を流すキョーコの頭を、泣き止むまで撫で続けた。

暫くして落ち着いたキョーコが、恥ずかしそうにはにかみながら、顔を洗いに行く。



 キョーコが慌ててリビングに駆け込んできた。


「時間が~~~!! 敦賀さ、じゃなかった・・・・・・えぇ~と、久遠さん。

軽くならお昼食べられますか?」


洗面所へ行ったキョーコが慌てて駆け込んでくるので、思わず何事かと思ったが、

昼食の事と知ると、微笑んだ。


「本当に軽くなら食べられるよ?

でも折角のオフだから、何処かに外食でも・・・・・・。」


「駄目です!! ////// スッ 好きな人に手料理を振舞いたいのは、女性のロマンです!!

だっ、だから、だから・・・・・・あの・・・・・・。」


声が段々小さくなっていき、恥ずかしさから顔を真っ赤にして俯いてしまう。

キョーコの言葉に、驚いて一瞬無表情に固まってしまったが、

ふわりと甘やかな微笑みで久遠は、


「それじゃ、これからはずっとキョーコちゃんの手料理を頂こうかな。」


と言い、手伝うために立った。

キョーコは嬉しくて、再会してから今までで一番の、

花のような笑顔を久遠に向けた。


「今日のお昼は、ミネストローネとバケットにガーリックバターを塗って焼いたのと、

まだ冷蔵庫に入れて冷やしてありますけど、

デザートにモッツァレラの冷製スープです!」


「美味しそうだね。」


「ありがとうございます。

えぇ~と、それでは、御賞味下さい。 //////」


久遠は手伝おうと立ったのだが、結局、上から鍋類を取り出す以外は、

キョーコの邪魔になりそうだったので、リビングに戻り手持無沙汰になっていた。


目は口ほどに物を言うとは良く言ったもので、

キョーコに料理に手を出さないで欲しいと、

うるうると見上げられてしまえば、何も言えず・・・・・・。

すごすごとリビングに引っ込む以外に手がなかった。

その為に、手持無沙汰だったのである。


朝はダイニングテーブルで頂いたが、お昼はリビングテーブルで頂く。

本当にキョーコの手料理だけは、特別だと感じる久遠は、目を細めてキョーコに微笑む。

キョーコも久遠に、料理を美味しく食べて貰えていると解ると、

嬉しくて自然と笑顔になっていた。


デザートのモッツァレラの冷製スープも美味しくて、

甘さも丁度良く喉越しが良かった。

シャンパングラスに淹れてあるのも、お洒落だと思う。


「お洒落だね。こういった使い方もあるんだ。」


「すみません。勝手に使わせてもらいました。

カクテルグラスに淹れようとかと思ったのですが、

こちらの方が多く入るんで//////。

それにしても、凄く綺麗なグラスですよね。」


キョーコは掲げて日の光に透かして見る。


「まぁ、バカラだからね。綺麗だと思うよ。」


パキッ。

キョーコは、グラスを日に掲げたままの恰好で、固まって・・・・・・。

頬をヒクッと引き攣らせながら、そ~とグラスをテーブルに置いた。


「敦賀さん!!」


「あっ、呼び方が元に戻ってる。」


「すみま~~~じゃなくて!!

そう言う事は、先に教えて下さい。グラスを割ってしまったら、如何するんですか!」


(バカラ!? バカラってグラス一つでいくらするのよ~~~(泣) 久遠さんの馬鹿~~~!!)


半泣き状態のキョーコを必死に宥める。

宥めながら久遠は、別の事を考えていた。


(バカラのボトルの香水。プレゼントしたら怒るかな~?

でも買った物は、受け取って貰わないとね。)


どのタイミングでプレゼントをするか、策を講ずる。

贈り物をするならやはり、彼女の笑顔を見たいから。


 先に他の物を片付けた後、慎重にシャンパングラスを洗った。

食器を片づけるのに神経が磨り減ったのは、生まれて初めてである。

リビングのソファーでぐったりしながらキョーコは、決心する。


連絡通路を通ってセレブスーパーでグラスなど、生活用品を買って来ようと・・・・・・。

手を握り締めて、背に腹は替えられないわと、涙目で久遠を思わず睨んだ。

睨んできたキョーコを見て、久遠は苦笑する。


「後で、隣のスーパーに買い物に行く?」


「当たり前です!! この際ですから、食器類も買います。

洗いながら掛けたりしたら如何しようかと、いつも思っていたのですから。」


「そうなんだ。でも食器使用しないと勿体ないよね?

形ある物は欠けたり割れたりするのは、当たり前なんじゃないかな・・・・・・。」


「そっ、それはそうですけど。でも!!」


う~とかでもとか、キョーコの頭の中は、ぐるぐるしている様で。


「キョーコちゃんの手料理に使用しなかったら、そっちの方が勿体ないよ?

買うのはグラスだけでいいと思うけどな。」


「////// 解りました。 ならグラスだけ。」


久遠に料理を褒められただけなのに、キョーコは、現金だな・・・・・・と思った。

掛け替えのない大切な人に褒められた事が嬉しくて、

後ろ髪を引かれたが食器は我慢しようと決め、

久遠とグラスの種類とかの話しをする。


キョーコの笑顔に、久遠は安堵し、行ってみたい所とかないか、聞いて・・・・・・。

最初は遠慮していたキョーコだったが、そのうち行ってみたい所を挙げていった。


                                              続く