△『週刊新潮』4月20日号の記事

平日の朝、文化放送とNRN系列の全国AMラジオ約30局で『武田鉄矢・今朝の三枚おろし』という番組が放送されている。武田が週ごとにテーマを設け、それについて持論を展開するという内容だ。放送時間はCMを含めて10分間。放送開始は1994年4月で、四半世紀近くも続く長寿番組である。
今週(7月31日~)のテーマは『「いい質問」が人を動かす』。話のベースになったのは、弁護士の谷原誠が書いた同名の本『「いい質問」が人を動かす』(文響社)だ。谷原は「人を動かすには、命令をしてはならない。質問をすることだ。人をその気にさせるのは、質問をすることだ。また、人を育てるのは質問をすることだ」と指摘している。この言葉に触発された武田は、本の内容を紹介しながら、私見を交えて、質問の重要性を語っている。

8月3日の放送では、今村雅弘(復興大臣)と西中誠一郎(ジャーナリスト)のやり取りを引き合いに出した。
「谷原誠さんが書いた『「いい質問」が人を動かす』という本を読んで、『あ、こういうことなんだな』と思ったことが現実の世の中にありました。ピタッとはまったんですよ。2017年4月のことです。大きなニュースがありました。大臣さんがカンカンになって『出て行け!出て行け!』と言ったんです。
これは、住宅支援打ち切りについての質問をした記者と復興大臣がケンカに発展したというものであります。しかも、大臣は援助を打ち切るというその人たちに対して『そこから先の人生は自己責任だろ!』とおっしゃたんです。
大きな問題になりましたが、よく聞きますと、この方、あんまり大きく間違ったことは言ってないんじゃねえか?というのが後の反省で言われたんです。ただ、言葉を間違えたんですね。『しっかりと自立を促したい』と言えばいいのに、『自己責任』だと言うから…」
武田はこの騒動を調べるため、『週刊新潮』を購入したという。何号かは明言しなかったが、「『今村復興相』を激昂させた『慰安婦像』設置ジャーナリスト」という記事が載った4月20日号だと見られる。

復興相の今村は、2度の失言をしたとされている。1回目は4月4日の「自己責任」発言、2回目は4月25日の「東北で良かった」発言だ。1回目は謝罪で済んだが、2回目は辞任に追い込まれた。
このうち、武田が取り上げたのは1回目の発言である。その背景を解説しよう。
東京電力福島第一原発の事故により、国の避難指示区域以外(福島市、郡山市、いわき市など)から福島県内外に避難した人々がいる。一般的には「自主避難者」と呼ばれている。避難先では住宅が無償提供されていたので、本人が家賃を負担する必要はなかった。そのための費用は、2015年度が約70億円だった。
国と福島県は2015年6月にこの特例措置を見直し、「2017年3月末で無償提供を打ち切る」と決定した。「避難指示区域以外は除染も進み、人体に影響を与えるような放射線量ではなくなった。また、原発事故の後も避難せず、普通に暮らしている人が多い」というのが、その理由である。これに伴い、自主避難者は2017年4月以降、どこにどうやって住むかを決めなければならなくなった。一部の自主避難者は無償提供の継続を国や福島県に訴えたが、空振りに終わった。

西中はこれを踏まえ、今村に「これから母子家庭なんかで路頭に迷うような家族が出てくると思うんですが、それに対してはどのように責任をとるおつもりでしょうか」と質問した。これに対して、今村は「いや、これは国がどうだこうだというよりも、基本的にはやはりご本人が判断をされることなんですよ」と回答。これを機に両者の言い合いがヒートアップし、今村は「出ていきなさい。もう二度と来ないでください、あなたは!」と激昂した。その映像がネット上に流れ、今村、西中双方の言動に対して賛否両論が噴出する事態になった。

△無償提供の継続を訴える避難者

武田はこの騒動を次のように振り返った。
「記者の西中さんは『路頭に迷う人がいるんですよ?』と聞いたわけであります。しかし、国の立場からすると、そのエリアに関しては除染をしてそこに戻れるということで、ずっと費用をかけてきたわけであります。(無償提供を)打ち切るということは、そこが安全になったということであります。『援助を続けます』と言うと『除染をサボってるんだろ!』と言われかねないんであります。食品の安全なども確保されているんであります。援助を続けるということは、福島への風評被害を助長することになります。打ち切るということで終了させない限り、解決に向かえないんであります。
ところが、質問の仕方が上手なんでしょうね。 西中さんは『はい』としか言えない立場にどんどん大臣を追い込んだわけであります。西中さんはただひたすら『路頭に迷う人がいる』というその事実を突きつけるわけです。『だからそれは…』と大臣が言いかけますと、西中さんは『あなた分かってるんですか!』と叩き込むわけであります。はっきり申しまして、西中さんは大臣の弁を聞く気はないんです。とにかく『路頭に迷う人がいる』ということに全部戻していくわけであります。復興大臣が何を答えようと。しかし、考えてみて下さい加奈さん(文化放送アナウンサーの水谷加奈・武田の相手役)、福島県の避難民のための援助というのがあって、それを打ち切るという話なんであります。70億円の打ち切りの話なんです。それを西中さんは『路頭に迷う人がいるんですよ!』と言うんです。ですから『はい』としか言いようがないんです。困ってる人がいるんですから現実に…。で、復興大臣はカッとなられたんでしょうね。
大臣というのは、総理大臣もそうですが、答弁の場合は応答するだけで、反論といいますか、討論はできないんですよ。答えるというポジションにある人たちなので、『はい』と『いいえ』しかないんです。ですから、西中さんにはちょっと酷な言い方かもしれませんが、とにかく怒らせる質問を繰り返していけば大臣級の人は怒るようなシステムなんです。とにかく、かくの如く『いい質問は人を動かし、人を怒らせる』という技術でございます。この続きは、また明日のまな板の上で。トントントン(まな板を叩く音)」
武田の話は以上である。

念のために言えば、今村の「自己責任」発言は、福島県内ではほとんど問題にされなかった。福島民報、福島民友は4月5日付にベタ記事を載せただけ。両紙とも社説で取り上げることはなかった。知事の内堀雅雄がコメントすることもなかった。
その理由は、武田が言った通りである。自主避難者に対して住宅の無償提供を継続すると、福島県は人が住めない危険な地域ということになる。それでは風評被害を助長することになるので、原発事故から6年たった2017年3月末で無償提供を打ち切ったのだ。

西中は今村に「帰れない人がいるんですよ!」と訴えたが、避難指示区域以外に住む県民の大半は「帰れない」どころか、避難すらしなかった。この6年間、自己責任で県内に住み続けてきた。
その立場は自主避難者も同じ。彼ら彼女たちは誰に命令されたわけでもなく、自己責任で避難した。だから、自主避難者と呼ばれているのだ。避難しなかった人は自己責任で、避難した人は自己責任ではないという理屈は通用しない。
仮に自主避難者に対する住宅の無償提供を継続するなら、避難しなかった人には「危険手当て」を払うのが筋だ。でないと、バランスがとれない。
この問題については、本ブログ「原発事故の自主避難者が住宅無償提供継続を求めてデモ~地元メディアに黙殺されて効果が半減!?」(2016年12月12日付)を参照していただきたい。