7月5日付の本ブログに安倍晋三首相の写真を掲載した。6月22日に撮影したもので、安倍一行がJR福島駅西口から2階コンコースに向かうシーンだ。ほぼ中央の、頭部が赤いポスターに重なっている人が安倍だ。ただ、写りが不鮮明なので、読者は「こんな写真をどや顔で載せるな!」とブーイングを発したはずだ。
私も忸怩(じくじ)たる思いがある。明らかな失敗写真だ。スマホのカメラで動いている被写体を撮影するのは難しい。「あのとき一眼レフカメラを持っていれば…」と後悔した。もう一度、シャッターチャンスが来ないだろうか。でも、首相がそう何度も福島を訪れるわけがないしな。…などと思っていたら、わずか半月後に敗者復活戦の機会がやって来た。安倍がまた福島県を訪れるというのだ。

私がそれを知ったのは、参院選の選挙戦が終盤に差し掛かった7月6日のことである。自民党幹部の「遊説日程」をネットで確認したところ、翌7日、安倍は喜多方、田村、二本松、福島の4市で街頭演説するという。もちろん、福島県選挙区から立候補している岩城光英法相を応援するためだ。福島市の演説会は午後4時半から。場所はAXC(旧長崎屋福島店)前。これに狙いを定め、「よーし、いい写真を撮るぞ」と意気込んだ。
最前列を確保したかったので、少し早めに現地に足を運んだ。4時05分ごろに到着。まだ見物人の姿はほとんどなく、狙い通りに最前列を確保することができた。
その場で時間を潰していると、目の前にロープが張られた。女性の私服警官が来て、「ここから前には出ないでください」と言った。
安倍は2007年4月の参院補選でも県内4市で街頭演説した。私は会津若松市で聴いたが、そのとき私服警官に職務質問と持ち物検査をされた。「今回もされるのではないか」と思ったが、声をかけてきた警官はおらず、いささか拍子抜けした。

4時15分ごろ、自民党の街宣車が到着した。参院議員の森雅子(福島選挙区)が屋根の部分に上がり、マイクを握った。森は、かん高い声で「演説会は(予定より10分遅れの)4時40分から始めます。安倍総理は今、こちらに向かっています」と言った。あとは笑顔で手を振るだけ。口数が多いタイプなのに、この日は沈黙が長かった。このため、見物人の1人(男性)が「森さん、何かしゃべれ!」とヤジを飛ばした。それでも、森は笑顔を見せるだけ。本ブログ(7月5日付)の「脅しのような発言は有権者の反感を買う。逆効果だ」という指摘を気にしたのだろうか(←読んでいるわけがない)。
続いて、日本医師会会長の横倉義武、参院議員の羽生田俊(比例区、今回は非改選)の2人が現れた。医師会は、自民党の有力な支持団体である。福岡県在住の横倉は、古賀誠(元自民党幹事長)の後援会長も務めた。医師会副会長の羽生田は、その組織票で参院議員になった。議員会館の事務室が岩城と隣同士だという(岩城が318号室、羽生田が319号室)。

2人と入れ代わる形で衆院議員の亀岡偉民(福島1区)が登場した。旧姓は小倉。亀岡高夫(元農水相、元建設相)と養子縁組して、亀岡姓を名乗るようになった。高校時代は江川卓(元巨人)とバッテリーを組んだ。亀岡は「野党は批判ばかりして、安倍政権の足を引っ張っている。お互いに切磋琢磨するのが、政治の本来の姿ではないのか」と演説した。
あたりを見回すと、いつのまにか見物人が増えていた。60~70歳ぐらいの女性の姿が目立った。男の私が最前列に立っていると視界を遮る恐れがあるので、ヤンキー座りをした。
公明党参院議員の若松謙維(比例区)が登場した。福島県石川町出身で、復興副大臣を務めている。今回は非改選組なので、応援する立場に回っている。亀岡からマイクを渡された若松は「選挙区は岩城光英、比例区は横山信一(公明党)と書いてください」と言った。その瞬間、見物人から大きな拍手がわき起こった。私の周りにいた女性は、創価学会の会員だったのだ。

若松の演説は短時間で終わった。マイクは再び亀岡の手へ。亀岡が演説している途中、トヨタ・センチュリーが到着した。車を見ただけで、誰が乗っているか想像がついた。安倍である。その背後にスバル・レガシィB4がついた。岩城の車だ。
演説は岩城、安倍の順で行った。岩城は法相だが、復興の話ばかりで、法務行政については完全スルーだった。票にならないことが分かっているからだ。また、安倍は「気をつけよう、甘い言葉と民進党」などとお馴染みのフレーズを口にした。国のトップとしてはいささか品のない演説で、かえって岩城の票が減るのではないかと心配した。

演説が終わると、安倍、岩城、亀岡が見物人の方にやって来た。ハイタッチをするという。ヤンキー座りをしていた私は、安倍らを下から撮影する形になった。この角度から安倍を撮影したカメラマンは少ないはずだ。
安倍らはそのままJR福島駅東口に向かって歩いた。駅舎の中にある餃子専門店「照井」で食事をするのだという。安倍の周りではSPが目を光らせた。岩城は通行人と握手しながら、歩いた。駅東口の横断歩道は信号が赤だった。安倍は、きちんと信号待ちをした。
演説場所のAXCから照井までの距離は約300メートル。信号待ちを含めても、数分で到着した。店内に入ったのはごく少数の関係者だけ。マスコミといえども、番記者以外は外で待機させられた。

照井の前で安倍が出てくるのを待っていると、見知らぬ男性に話しかけられた。
「餃子を食べに来たのですが、なぜ、(店の周りに)こんなに人がいるんですか」
男性は40歳前後。サラリーマン風で、隣にもう1人の男性がいた。
「安倍首相が店内にいるんですよ」と回答すると、男性は「本当ですか。タイミングが悪いですね」と苦笑いした。
男性2人組は、山形市から仕事で福島市に来たという。会議の席で「せっかく福島に来たんだから、山形に帰る前に照井で餃子を食べていけばよい」と言われ、その気になった。実際に照井に立ち寄ると、人がたくさんいたので、「事件でも起きたのか?」と驚いた。それで、店の前にいた私に理由を聞いたのである。
男性は「まさか、こんな日に当たるとは…。これでは店内に入れないですね。でも、すぐに山形に帰らなければならないわけでもないので、もう少し待ってみます」と言った。私は「首相は忙しいので、すぐに出てくるんじゃないですか」と答えた。

安倍はこの日、喜多方市のラーメン店「満古登食堂」で昼食をとった。夕方は照井で餃子を堪能。旅や出張に行けば、多くの人は「現地の名物を食べて帰りたい」と考える。その気持ちは首相もサラリーマンも同じ。話のタネにもなる。
私は山形県に行くと、玉こんにゃくをよく食べる。球状のこんにゃくをおでんのようにグツグツと煮たもので、真夏のイベントでもこれが売っている。気温30度でも、需要があるのだ。
「暑くても寒くても、山形ではとにかく玉こん。あれを食べないと、山形に行った気がしません」
そう言うと、男性は「玉こんは山形のソウルフードです。餃子に比べると、安っぽいですが…(笑)」と回答した。

参院選山形選挙区では、無所属(野党系)の舟山康江と自民党の月野薫が1つの議席を争っていた。舟山は元農水官僚、月野は元全農山形県本部副本長。争点は、安倍政権が成長戦略の柱に位置づける環太平洋経済連携協定(TPP)への対応だ。農業県の山形県ではTPPに批判的な見方が広がっており、マスコミ各社の情勢分析では「舟山が月野を大きくリード」となっていた。
「山形の選挙はもう勝負ありじゃないですか」と言うと、男性は「知名度が違いますからね…」と回答した。舟山は参院選の経験が豊富で、2004年、2007年、2013年も立候補した(2007年は当選)。今回が4回目。一方、月野は今回が初めての選挙という違いがあった。
2人でそんな話をしていると、店内にいた安倍が出てきた。その場にいた人たちと握手しながら、そのままJR福島駅東口の改札口に向かった。その前後をSPが固めた。私は夢中でシャッターを押した。今回は一眼レフカメラだったので、動いている被写体も容易にとらえることができた。

【写真の説明】
・街宣車の上から手を振る安倍首相。左側は岩城候補、左側は森参院議員
・安倍首相が乗ってきたトヨタ・センチュリー
・見物人とハイタッチする岩城候補。隣は安倍首相
・ハイタッチする安倍首相を間下から撮影
・JR福島駅の駅舎にある餃子専門店「照井」
・見物人と握手する安倍首相。このあと、東北新幹線で帰京