6月8日午前9時40分ごろ、富山県南砺市(なんとし)五箇山にある「菅沼合掌造り集落」の近くで、国道156号脇の斜面に生えていたブナの巨木が折れ、9㍍下の国道に横倒しになった。木はたまたま通りかかった乗用車のボンネットを直撃して押しつぶした。車を運転していた奈良県大和郡山市の会社員の男性(28)は、腕や脚などに軽いけがをして病院に運ばれた。同乗者はいなかった。木は根元から倒れており、南砺署が原因を調べている…。

このニュースが今、ネット上で話題になっている。巨木が折れたからではない。車が大破したのに、運転していた男性が軽傷で済んだからでもない。この車が往年の名車・トヨタ2000GTだったからだ。1967年から約3年間、337台しか生産されなかった。希少価値が高いうえ、映画「007は二度死ぬ」にボンドカーとして登場したため、世界的に知名度が高まった。俳優・唐沢寿明の愛車としても知られる。その車がこのような事故で再起不能(おそらく廃車)になったので、車好きたちが「もったいない」と嘆いているのだ。
私は、トヨタ2000GTの実物を2回しか見たことがない。
1回目は、秋田県の田沢湖に行くときだった。往路は国道4号を北上し、岩手県盛岡市から西へ向かうというルートを選んだ。その途中、一関市の中古車販売店で発見したのだが、最初は目を疑った。市場に出回ることが珍しい車だからである。すぐさま車をUターンさせて確認。どこからどう見ても、白のトヨタ2000GTだった。
2回目は、福島県猪苗代町の国道49号で見た。タレントの堺正章らが参加する公道ラリー「La Festa Mille Miglia(ラ・フェスタ・ミッレ・ミリア)」を見学していたところ、車列の中に赤いトヨタ2000GTがあった。堺は唐沢(前出)と親しい関係にあるが、この車が唐沢の愛車かどうかは分からない。

今回は倒木が原因だったが、高級スポーツカーが大破する事故はよくある。高性能なので、ドライバーはスピードを出したがる。スピードを出せば、事故が起きやすくなる。アクセルを一気に踏み込むと、車の動きが不安定になる。雨でタイヤがスリップし、制御がきかなくなるというパターンもある。
最も有名なのは、ランボルギーニ・イオタの話だろう。ランボルギーニ・ミウラをチューンナップした実験車両で、オリジナルは1969年に1台だけ製作された。自動車販売業者のエンリコ・パゾリーニがイタリア・ミラノ東部にある開通前のブレシア高速道路を高速テスト中、ノーズが浮き上がり横転して炎上。車は廃車になった。イオタの伝説については、自動車専門誌「ロッソ」が連載で取り上げた。
プロボクシングWBC世界フライ級王者・大場政夫の事故は衝撃的だった。1973年1月、大場は所属する帝拳ジムに向かうため、首都高速5号池袋線をシボレー・コルベット・スティングレーで疾走した。その途中、大曲カーブを曲がりきれず、中央分離帯を乗り越えて反対車線に出たところで大型トラックと衝突。車はトラックの下にめり込み、大場は即死した。当時、このコルベットは日本に2台しかなく、もう1台はキックボクシングの沢村忠が所有していた。沢村はその直後、コルベットを手放したという。
時期は特定できないが、プロゴルファーのジャンボ尾崎は、フェラーリ512BBを運転中に災難に遭った。車が炎上したのだ。事故にはならなかったが、フェラーリで名神高速道を走行中、大スピンした経験もある。車は制御不能になったものの、偶然、そのまま高速バスの通路に入って止まったので、ジャンボと車は何ともなかった。その間、ジャンボはハンドルにしがみついているだけだった(本人のブログより)。

トヨタのテストドライバー・成瀬弘は2010年6月、ドイツ・ニュルブルクリンクサーキット近郊の公道をレクサスLFAで走行中に事故死した。カーブで対向車線にはみ出し、走ってきたBMWと正面衝突したのだ。レクサス、BMWともテスト走行中だった。トヨタのテストドライバーの頂点に立つ成瀬がなぜ、対向車線にはみ出したのか。その理由は不明だ。
Mr.ビーンで知られるローワン・アトキンソンは2011年8月、マクラーレンF1を運転中に自損事故を起こした。イギリスのケンブリッジシャー州ハドン近くのA605線を走っていたところ、雨の路面でスピンし、雑木林に突っ込んだのだ。幸いにも本人は軽傷で、車も修理して再び公道を走れるようになった。

レーシングドライバーの伊藤大輔は2008年7月、日産GT-Rを運転中に事故を起こした。場所は群馬県水上町の群馬サイクルスポーツセンターの自動車専用コース。峠道のようなつくりで、コース幅は狭い。サーキットのようなグリーンやサンドトラップもなし。DVD「ホットバージョン・峠最強伝説」の撮影に臨んだ伊藤は、ヘルメットをしないまま車を運転した。その最中に車がコントロールを失い、木立に激突した。頭部を強打した伊藤は、頭蓋骨骨折と脳挫傷を負い、意識不明の重体に陥った。奇跡的に回復したが、同年のスーパーGTシリーズ第5戦から第8戦の4レースを欠場。最終第9戦でようやく復帰した。
複数のスーパーカーが絡んだ事故もあった。現場は山口県下関市の中国自動車道上り車線。2011年12月、福岡県の男性が運転するフェラーリF430が緩い上り坂の左カーブでスリップし、中央分離帯に激突した。後続のフェラーリ7台(F430、F430GT、360×2台、F355、512TR、テスタロッサ)、ランボルギーニ・ディアブロ1台、ベンツ2台、トヨタ2台(プリウス、ウィンダム)の計12台が次々と巻き込まれ、10人が病院に運び込まれた(死者はなし)。路面は前日の雨で濡れていた。この事故で、山口県警は6人を自動車運転過失傷害、4人を道路交通法違反(安全運転義務違反) の各容疑で書類送検した。 この10人は、スポーツカー愛好会のメンバーだった。

スーパーカーでなくても、今の車はアクセルを踏めば、簡単にスピードが出る。スピードを出すと、自分の身体能力や運転技術が向上したような錯覚に陥る。自分が偉くなったような気分にひたることもできる。そうした状態で運転を続けると、事故が起きやすくなる。
私自身はレース観戦後、スピードを出したくなる。頭の中にはT-SQUAREの「TRUTH」(フジテレビF1中継のテーマ曲)が流れてくる。そのまま運転を続けると危険なので、車を止めて深呼吸をするようにしている。