【『知事の真贋』片山善博】間違った首相要請、特措法の解釈、通知行政〜従う知事たちの違法行為 | ☆Dancing the Dream ☆

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知事の真贋 (文春新書) – 2020/11/20
片山 善博 (著)

1951年岡山市生まれ。74年東京大学法学部卒業、自治省に入省。能代税務署長、自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官、鳥取県総務部長、自治省固定資産税課長などを経て、99年鳥取県知事(2期)。07年4月慶應義塾大学教授。10年9月から11年9月まで総務大臣。同月慶應義塾大学に復職。17年4月早稲田大学公共経営大学院教授。併せて、鳥取大学客員教授、日本郵船株式会社社外取締役、「デジタル文化財創出機構」理事、「日本司法支援センター(法テラス)」顧問、「角川文化振興財団・城山三郎賞」選考委員、「活字文化推進会議」委員などを務める。


片山善博さんの新書『知事の真贋』を読了。

読んで驚いた。
日本のコロナ対策がいかに滅茶苦茶か!
違法行為を行いながら「やってる感」をアピールする政府や知事たち。
人気稼ぎのパフォーマンスばかりが目立つが、政府の間違った法解釈による方針に、唯々諾々と従う都道府県知事たちのコロナ感染症対策は違法、脱法行為だらけだったのだ。
『知事の真贋』は、知事というリーダーの真贋を見抜く目を養うために助けになる一冊だと思う。

どのようにしてコロナ対策における「違法」がまかり通ってきたのか?
官僚、島根県知事、大臣経験をもつ片山さんが、法律を読み解きながら炙り出されたコロナ感染症対策にみられる政府と都道府県の違法行為に注目してみた。

ーー

第一に、安倍総理の全国の学校への「一斉休校」要請である。
これには法的根拠がなかった。
公立学校の開校や休校の権限をもっているのは、教育委員会(学校設置者)であって、総理大臣には休校を要請する権限はないのだという。
知事や市長にも権限はない。
にも関わらず、総理大臣の要請を受けて、教育委員会ではなく、知事や市長が休校を発表した。
休校にしなかったのは島根県の県立学校と少数の市町村だけだった。
安倍総理が3/2から春休みに入るまで臨時休校を要請したのは、2/27のことだった。
19年末に火が吹いて、20年1/20からの通常国会では「桜を見る会」問題の厳しい追及が行われていたが、この一斉休校で吹っ飛んだ。


第二の違法行為。最も驚いたのはこれだ。
あろうことか、政府は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(新型コロナウイルス特措法)」の条文を誤って解釈し、それによって、都道府県知事が違法な自粛要請を行ってきたという。

特措法は、知事の自粛要請の権限は緊急事態宣言下でという制約を設けている。人権に配慮し、知事がいつでも誰にでも自粛要請はできないように、設計してあるのだ。
・感染者が発見されたら政府、都道府県は対策本部を設ける。
・政府の対策本部は「基本的対策方針」を定める。
・感染の頻度が高くなり、蔓延の兆候である感染経路が不明な人が出てきた
 段階で、政府は必要な地域に緊急事態宣言を出す。
・緊急事態宣言がでて初めて、対象地域の知事は外出や営業の自粛要請が
 できるようになる。

ところが、政府は、この特措法の解釈を誤り、「基本的対策方針」(3/28)には”(緊急事態宣言下という制約なしに)知事が自粛要請できる“と記した。
特措法は”知事は緊急事態宣言下でなければ自粛要請できない“と定めている。


いったい特措法のどこをどう間違って解釈したのか?
それは、特措法の「第24条9項」の解釈を誤ったのだと指摘されている。

24条9項
「都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するために必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる」

ここの「対策本部長」とは知事のことだ。
また「公私の団体又は個人」とは、都道府県の医師会や地元の大学の感染症専門家などを指し、対策本部の体制強化のために県庁外部の人に加わってもらうよう声をかけて要請することができる。
そういうの趣旨である。

24条は、「都道府県対策本部長(知事)の権限」とあるが、なんの制限もなく、理事が誰にでもなんでも要請できるなどと書いているのではない。



それをなぜ、政府は、緊急事態宣言下でなくても知事が誰にでも自粛要請できるなどと無茶苦茶な解釈したのか?

片山さんの疑問が解けたのは、ある日、現在は厚労大臣に復帰している田村憲久氏と話す機会があり、片山さんが「政府の特措法24条9項の解釈は間違っているよ。(24条9項は知事が休業要請できる根拠にはならないということ)」と伝えたときのことだったという。
田村現大臣の反応は「えーっ!でもコメンタール(逐条解説書)に書いてありましたよ」と。

片山さんが調べてみると、『逐条解説 新型インフルエンザ等対策特別措置法』(中央法規出版 2013年刊行)に、24条9項について…
「緊急事態宣言前においても、学校、社会福祉施設等での文化祭等のイベントを延期することや施設の使用を極力制限することなど、感染対策を実施すること等の協力を要請すること等を想定している」などと書いてあったという。

この逐条解説の執筆者は「新型インフルエンザ等対策研究会」とされていた。
これは、法が制定されて1年以上経った頃に、架空の組織の名前で、担当課の職員が分担して書くのだという。制定時の職員はすでに移動してしまっていることもある。論文のような査読もない。だから、間違った解釈がまかり通る。
あるいは、役人の下心で、そうしておいた方が便利だと考えて故意に書いたことかもしれないともいう。

元お役人ならではの片山さんの見立てだ。
しかし、なんということだろう!
これによって、どんなことが引き起こされたことか!
特措法の解釈を間違っているのだから、
日本のコロナ対策は背骨からして折れているような状態だったのだ。


第3に、都道府県知事に対し、「感染症法」に則らない違法(あるいは脱法行為)な行為を解禁した厚労省の「通知」の問題だ。

政府が新型コロナを「感染症法」に基づく「指定感染症」にしたのは、20年2/1ことだった。
1/15に第一号感染者。
1/24から1週間は春節の休み。
1/28-29に武漢から日本人を帰国させるチャーター機第一便。
チャーター機第一便の帰国者をどうするのか?
さすがの政府も慌ててやっと「指定感染症」としたのだ。

ちなみにチャーター便のオペレーションを行ったのは、感染症対策ではなく、武漢からの救出だけを任務とするテロ対策の専門家だったという。
あり得ない話だが、千葉のホテルで帰国者の一部は相部屋にさせられたという。

「感染症法」の「指定感染症」となると、陽性者は症状の有無によらず、措置入院の対象となる。
(*議論がある↓ようだ。)
*https://biz-journal.jp/2020/04/post_153919_2.html
*https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78ab7336&dataType=0&pageNo=1

「水際対策」は政府の仕事、「国内の対策」は都道府県の仕事。
都道府県知事は、患者の隔離を行わねばならない。

政府の水際対策は後手に回り、国内では、3月、陽性者が増え、4月、病院から溢れる事態となり、
ホテルや自宅での療養が場当たり的に進められた。

知事がホテルや自宅の療養を進めた根拠が、厚労省の「事務連絡」と書かれた「通知」だった。
厚労省の「指定感染症の患者を入院させなくてもよい」いう考え方に都道府県知事は従った。
しかし、
「通知」とは、単に考え方を記した文書に過ぎない。
法的な効力はない。ただの助言なのだという。

「PCR検査」の取扱いも、「帰国者・接触者相談センターに御相談いただく目安」という「通知」だった。
厚労省は専門家会議の議論を踏まえたとして、目安を「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方」とした。
「帰国者・接触者相談センター」とは「保健所」の言い換えだ。

この「通知」に疑問をもち、独自にPCR検査を行い感染抑制に成功したのが、和歌山県の仁坂由伸知事だった。
国内初の院内感染によるクラスターが発生し和歌山県では、感染のおそれのある病院関係者474人にPCR検査を行ったのである。

厚労省の福祉・保健分野は、行政のなかでも地味なわりに法律が複雑なので、知事は勉強不足になり疎いため、つい厚労省や部下まかせにしてしまう傾向がある。
これが、厚労省の「通知」行政がまかり通る原因なのだという。

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●元総務相の片山善博氏「コロナで金の使い方ずさん」 毎日世論フォーラムで講演
毎日新聞2021年1月27日
https://mainichi.jp/articles/20210127/k00/00m/040/217000c
 元総務相で早大大学院教授の片山善博氏が27日、毎日・世論フォーラム(毎日新聞社主催)で「コロナへの対応から見える国と自治体の課題」と題し、オンライン講演した。
 片山氏は新型コロナウイルス対策で国債発行が急増する中、菅義偉首相が今国会の施政方針演説で財政運営について明確な考えを示さなかったことを疑問視。「コロナでお金の使い方がずさんになっている。財政の全貌を認識して将来の見通しを持ってほしい」と注文を付けた。新型コロナ対応のため2020年6月に可決・成立した今年度第2次補正予算に、国会審議を経ず支出できる10兆円の予備費が計上されたことには「国会が審議権を放棄している。こういう時こそ、チェック機能を果たすべきだ」と求めた。
 また、1999年の地方自治法改正で国と地方の関係が対等になったにもかかわらず、コロナ対応では地方が法的拘束力のない国の通知に縛られていると指摘。「国と地方の関係がずいぶん昔に戻ったという感じだ。地方分権改革、地方自治を検証する必要がある」と述べた。【吉住遊】



「公文書管理を考える」(6) 片山善博・元総務相 2018.6.29