ブログネタ:この漫画を読んでくれ! 参加中


世の中には面白い漫画はたくさんあるし、好きな漫画もたくさんある。
その中でも、これは、テライミクの魂をもっていった漫画、といっても過言ではないかも。
山田圭子作、【VS】バーサス。
音楽を題材に扱う漫画、といったら今はとにもかくにも「のだめ」だろうけど、私はこれを一番に持ってきたい。
「のだめ」は楽しみながら読める面白い漫画だけど、これはものすごく読むのに気力が要る。全7巻を完読するのに、校庭3周を全力疾走し続けるに値するくらいの精神力が必要だと思う。

登場人物たちは、皆、突き抜けた才能を持っている。
だが、その多くは人として多大な欠落を抱えている。
それもたぶん、結果的には、音楽によって。音楽というものにかかわることでの欠落。
その欠落めがけて、様々な出来事が、滝のようにただ無情に襲い掛かってくる。
こんなに、ひどいことが…どうしてあるの?
そう何かに問い掛けたくなるようなことばかりが、次々と。
見てるこちらが泣きたくなるような過酷な運命に翻弄されながら、ついには、この世の果ての絶望にまで突き落とされて、それでもなお、バイオリンを握る。
そんな自分が愛しいと思った、と泣きながら笑った、主人公のその顔が、ただただ切なくて、涙が止まらなかったのを覚えている。
今、この漫画は私の手元にはない。
だけど、多くのシーンを非常に克明に覚えている。
それくらい私に強いインパクトを残した漫画だった。

この山田圭子という作家は、とにかく人の、世界の非情さを描くのが劇的に上手い。
世界が自分を見放す瞬間。
すべてから目を逸らされ、悪夢のような暗闇に引きずり込まれるまでのその経緯と、それでも懸命につなぎ止めていた最後の糸がぷつりと切れる、その瞬間。
少女漫画とは思えない、残酷なほどのリアリティーを、まったく逃げずにはっきりと描く。
そして、登場人物の誰もが、そのひどい運命に、体当たりでぶつかっていく。
ぼろぼろで、傷だらけになりながら、だけど誰もが痛いほどにまっすぐに、立ち向かう。
もっと上手いやり方も、楽な逃げ道も、たくさんあるのに。それが、彼らには思い浮かばない。
音楽しかない。
それしか知らない。
本当に、音楽しか、ないのだ。 

ひとつの世界に生きる、ということの純粋さと怖さを、これでもかというほどに全面に押し出して描かれている。
一生懸命なことは、なによりも尊い。
だが、純粋な思いは、時に凶悪ですらある。
命を奪う刄であることも…。

正直、途中、読むのが辛かった時もあった。
涙で文字が見えなくなったときも。
だけど、最後まで一気に読んだ。
全速で駆け抜けるように生きる、彼らに引きずられるように。
一言で言うと、最初から最後までずっと暴風雨の吹き荒ぶ、まるで嵐のような物語。
だけど、読み終わって、最後に心に残るのは、きっと、雲ひとつないきれいな青空のような、清々しい気持ちだと思う。

できれば、どうか、自分の目で、確かめてみてください。
人を選ぶとは思うけれど、私にとっては、胸を張って推せる大好きで大切な作品です。