世の中にはさまざまな思想書があると思うが、現代の思想家として、日本の思想家として、トップを行くかただと思う。特に、年齢を重ねてから、自分の年齢で思うことを率直に書いている姿勢は、本当に敬服するものがある。

前半に、題名となった「下山」の思想が書かれていて、後半には、著者自身の「下山」の仕方が、綴られている。ひとりの人が、人生を生きていくときに、若いころの上り坂の勢いと、ある程度の「頂上」を極めてからの「下山」の生き方とが、自然に丁寧に綴られている。

特に、後半の「ノスタルジー」のあたりは、論理的というより、エッセー調で、著者の、はっきりと言葉で言いきらないで、持論を丁寧に比喩する巧みさを感じた。

「下山の中に、登山の本質を見出そうということだ。」
「あらゆる意見は仮説である。はっきりした真実は、明日のことはわからない、この一点だけだ。」



東日本大震災、原発事故の対応に当てはまる個所が随所にあり、今後の日本のあり方を考えるうえで一助となる素晴らしい本である。