~ユノside~
「…おいっ!!!…なに怒ってんだよ?」
玄関のドアを入ったところで、やっとチャンミンの腕を掴んだ。
「…っ!!!───離せよっ!!!」
思いっきりふりほどかれて、──俺、何かした?
仕事中は普通だったのに、閉店後のポーター作業後、…いきなりこんな感じで。
ドンへと別れるまでは良かったんだ。
「じゃあな。…チャンミン、明日も頼むよ!!!」
片手をあげて帰って行くドンへが見えなくなった途端。
ふい、──っと。
俺のことをまるで無視して地下鉄の駅へ向かうチャンミン。
「チャンミン?…今日は車だろ?」
「……ユノの車には乗らない。地下鉄で帰る。」
「は?」
「ユノはひとりで帰れよ。」
いきなりの不機嫌さに訳わかんねぇよ。
「おい。こんな夜中にひとりで帰るつもり?自分ちに帰るなら、送ってくから。」
覗き込んだチャンミンは更に眉間にシワを寄せていて、ジロッと俺を睨んだ。
「何言ってんの?…ユノんち行くに決まってんじゃん!!!ユノと、車に乗りたくないだけっ!!───じゃあね。」
さっさと歩いていく後ろ姿を眺めながら。
えー、っと……何かわかんねぇけど、怒ってて…でも、俺んちに帰ってくるって事?
思わずにやける口元をそっと手で隠した。
ちょっとの事ですぐむくれるチャンミンが、…それでも普通に俺んちに帰るって言っちゃうところが本当にかわいい。
怒ってそっぽ向いてる横顔も愛おしくてたまらない。
────まぁ、好きにさせるか?
「分かった。…じゃあ、気をつけてな。」
あっさり引き下がった俺に一瞬びっくりして目を見開いたけど。
俺が含み笑いでチラッと目線を向けたら、……大げさなくらい顔を横に振って怒ってますアピールをしてくる。
くくっ、…
たまらず漏れた笑いに。
かぁ、…と、顔を真っ赤にして走って行ってしまった。
この時間帯なら車の方が早くマンションに着くから、一旦駐車場に車を置いた後、チャンミンが出てくるであろう地下鉄の改札まで向かった。
─────ほら、来た。
トントン、と静かな出口階段に響く音。
階段を上るチャンミンのつむじが可愛くて見惚れる。
「……チャンミン。」
声をかけたら、一瞬だけ嬉しそうに、…でもすぐ、ハッ、となって、慌てて怒った顔を作ってる。
「なんだよ、ユノ。…今はユノの顔見たくないって分かんないの?」
スーッと俺の前を素通り。
はぁぁ、────困ったもんだ。
って事で、マンションに着いてもとにかく怒って不機嫌なチャンミン。
最近真面目に大学院へ通うようになったチャンミンとは、平日はほとんどすれ違いで。
週末くらいしか一緒にいられないのに、喧嘩してる場合じゃねぇ、っつの。
「あのさ、…ちゃんと言ってくれないと分からないだろ?」
じとー、って俺を睨んでくる。
──やめろよ?…その顔もかわいいだけだからさ。
困った。困った。──早く仲直りしたくてたまらない。
どうすれば仲直りの一番の近道か。
下手なこと言って、チャンミンがへそを曲げたら結構長引くんだよなぁ。
普段あまり深く考えない俺が、とにかく頭をフルに使って悩んでいたら。
「─────ドンへさんに。」
「…へ?」
「ドンへさんに、……言ったんだろ?」