『7ストーリーズ』ご観劇くださいまして、本当に、ありがとうございました。
谷口浩久です。
たくさんの方にご覧いただけて、心から、感謝の気持ちでいっぱいで…
一体、何からお話しすれば良いのか、迷うばかり。
そのくらい、ひとつの作品を完成させるというのは、巨大な作業なんですね。
数年前、確か、ミュージカル『エリザベート』の地方公演の最中に書店に立ち寄った時にその書棚で出会ったのが、この作品との出会いでした。
本番を終えて、何か楽しそうな戯曲でも探してみようと思って、何気なく書店に立ち寄ったんだと記憶しています。
そこから、宿泊先のウィークリーマンションに帰って本を読んで。
その時から、いつかこの作品を上演できたら良いな、という思いがあり、ずっと温めていました。
マンションの壁面と7つの窓だけの舞台…
なんとも素敵じゃないですか。
そして、今年5月に本格的に稽古が始まってから丸2か月。
主人公の男と、窓から顔を出す住人たちの隠されたドラマの掘り起こしに、10人のキャスト全員が全精力をかけて取り組みました。
何しろ、台本には、キャラクターたちの葛藤がはっきり書かれていないんです。
登場人物たちが一体何に悩み苦しみ、なぜこんな行動を取っているのか?
なぜこんなセリフを言うのか??
必死に掘り起こさなければ、そのドラマは姿を現さない、そんな、ある意味イジワルな描き方の戯曲。。。
逆に言えば、それだけ役作りの醍醐味を味わうことのできる台本でした。
それぞれのキャラクターの葛藤、その葛藤(=トラウマ)を抱くようになった事件。
台本には書かれていないその葛藤を稽古でじっくり追求していくことで、その葛藤から派生する行動(セリフ)を正当化させていく。
…ちょっと専門的な話になってしまいましたが、そんな毎日が2か月間、ほぼ毎日繰り返されていきました。
そして、本番。。。
各々が発見した、セリフには書かれていないその役の葛藤、トラウマを胸に、舞台に立ちました。
幾つかの葛藤はセリフで書かれてはいるものの、皆、そのセリフを手掛かりに、もっともっと深遠なる心の闇を背負って。
そして、その一番大事な部分がセリフに書かれていないからこそ、想像力をかきたてる。
観客が自由に想像できる。
この作品をご覧になった皆様が、何を思い、どう感じてくださったか。
自由に想像してくださったその情景、感情こそが、この作品の終着地点。
観客の皆さんの心で自由に結ばれた像こそが、この作品の完成した形なのです。
だから、お客様の数だけ、この作品の完成した形は存在する。
それが演劇の素晴らしさなのだと、僕は信じています。
今回、僕は、演出をしながら、リリアンというおばあちゃんも演じました。
もちろん、このおばあちゃんにも、台本には書かれていない、ある「葛藤」を投げ入れました。
おばあちゃんの人生という湖に、小石を投げるように、葛藤を投げ込んで。
そして、そこから波紋のように波立つ心のざわめきを、舞台というライブの空間に乗せて演じました。
それぞれのキャラクターが投げ入れた葛藤という小石は、湖の底に沈んで姿を見せませんが。
波立つざわめきが、何か、皆さんの心に届いていたら幸いです。
また、何か、そうしたざわめきを読み解く鍵になればと思い、劇場でお配りしたパンフレットのご挨拶文を書かせていただきました。
お読みいただいていたら、嬉しいです。
たくさんの方にご覧いただき、たくさんの『7ストーリーズ』が完成したこと、本当に、感謝しております。
今後とも、イークエストカンパニーを、よろしくお願いいたします。
谷口浩久