毎日.jpから引用
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2010/06/23/20100623ddm002040030000c.html


<分析>

 ◇求められる綿密な捜査、立証


 覚せい剤密輸事件に対する22日の千葉地裁判決は、裁判員裁判で全国初の無罪を言い渡した。被告が覚せい剤と認識して持ち込んだことを直接的に示す証拠はなく、検察側は状況証拠で立証を図ったが、一般市民が加わった判断は「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の原則に忠実に従った。


人を裁く場に直面した市民らの慎重さが表れたと言えるが、捜査当局はより綿密な捜査、立証を迫られている。【北村和巳、駒木智一】


 「控室で『完全に有罪と言い切れないなら無罪』と知った。こうしたルールを守らないといけないんだなと認識させられた」。判決後に千葉市内であった記者会見で、裁判員の男性会社員は語った。


 審理した6人のうち男性2人、女性3人が会見し「黒に近い灰色というイメージだった」と述べた裁判員もいたが、判決は「犯罪の証明がない」と結論づけた。


 相模原市の会社役員、安西喜久夫被告(59)は覚せい剤計約1キロの入ったチョコレート缶三つを成田空港に持ち込んだとして起訴されたが、「中身は知らなかった」と否認。


検察側は


(1)依頼者側が30万円の報酬を約束し、航空運賃も負担した


(2)缶が不自然に重い(3)税関検査で発見されても平然としていた--などから覚せい剤と知って い た はずと主張した。



 しかし判決は


▽被告が「偽造旅券を運ぶ報酬」と話している


▽重量感から覚せい剤に気付くとは言えない


▽動揺が表情に表れる程度は人によって異なる--などと退けた。


 裁判員たちは会見で「確実な立証は一つもないと言える状況」「この人がやったと言いきれる客観的な証拠がなかった」と相次ぎ検察側立証を批判。


缶の重さについて裁判員の一人は「300グラムくらいの違いは分からない」と一般常識を強調し、証人の少なさを指摘したり税関検査の撮影を求める声もあった。


 男性裁判員の一人は「検察に『もっと頑張れ』という気持ち。サッカーで言えば(弁護側の)守りがよかったのではなく(検察側の)攻めが弱かった」と努力不足を指摘した。


 被告が覚せい剤密輸の認識を否認する事件では、これまでも持ち込んだ経緯や発見時の様子などで立証され裁判官による裁判で無罪になるケースはほとんどなかった。千葉地裁では総務課によると、全国最多71件(22日現在)の裁判員裁判判決のうち、32件が覚せい剤取締法違反事件で、いずれも実刑だった。


 ある刑事裁判官は「プロの裁判官と裁判員の判断に違いはないはず」と言うが、検察関係者は「一般的に証拠が薄いが、裁判官は密輸の実情を理解して有罪認定してくれていたところがある。


裁判員裁判ではいつか無罪は出ると思っていた。今回は証拠はある方だったが、厳しい判断だ」と話した。ある検察幹部は「影響は大きい」と裁判員裁判で初の控訴を検討する意向を示した。


 一方、判決後に釈放された安西被告も会見し「正しい判断をしていただき、ありがたい」と喜んだ。浦崎寛泰弁護士は「裁判員裁判への信頼の向上という点で歴史的意義がある」と評価した。


 今月9日には、強盗致傷、詐欺罪などに問われた被告の裁判員裁判で、東京地裁立川支部が一部無罪を言い渡している。共謀したとされる少年らの証言の信用性を否定し、裁判員からは「証拠がない」「警察、検察の捜査が甘かった」との指摘が相次いだ。


 裁判員制度開始から1年が経過し、今後は被告が本格的に無罪主張する事件の審理も相次ぐ見込み。裁判員裁判は、捜査当局に改めて緻密(ちみつ)で説得力のある証拠収集と立証を求めている。


これでこそ 裁判員制度の真価というものでしょう。