彼の声が耳の奥でリフレインしてる。

なのに、彼の顔を思い出すことが出来ない。

彼のことを考えるだけでドキドキするのに、

彼の顔を思い出せない。

だけど次の逢瀬が待ち遠しくてたまらない。

彼の声を聞きたくてたまらない。

わたしは彼に恋をしていた。

本当に心から彼を愛し始めていた。

そんなわたしの中に、

彼の言葉が蘇る。

きっと君は僕を嫌いになるよ。

そんなことはない。

否定するわたしを優しく見つめて、

でもそれでいいんだ。

彼は寂しく笑った。

そこだけは、今もまだ、はっきりと覚えている。

もうあれから5年も過ぎたというのに。

そしてわたしは、今も彼を愛している。

彼の予言は実現しないまま、日々は淡々と過ぎていく。

食事を終えたあと。

彼はわたしを部屋の前まで送ってくれた。


「じゃ、これで。」
部屋の前で彼が言う。彼の上着、裾の部分を持ったまま、言葉もなく立ちつくすわたし。。。
「帰れないだろ?」
わたしの手を見ながら、彼が続ける。
「・・・・帰したくない?」
ニヤリと勝者の表情で彼が尋ねる。
「そんなことないわ。」
こんな意味のない返事、何度目だろうと思いながら。。。
「じゃ、帰るよ。」
わたしに背を向ける彼。。。ひどい。。。。

「確信犯じゃない。・・・・わたしの気持ち、知ってるくせに。」
わたしの部屋の中、彼に抱きしめられてわたしは言う。
「言葉にしなくちゃ、伝わらないでしょ?」
そうして彼はわたしの瞳を見つめる。
「・・・・好きだよ・・・・・りりか。。。」
彼の瞳が降りてくる。わたしの視界から消えて。。。わたしの唇は彼の唇でぴったりと塞がれた。

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少し長めの髪。緩くウェーブして。
目は優しく、口元には微妙な笑みをたたえて。

待ち合わせの場所には、そのヒトがいた。
わたしを見つけると。。。ゆっくりと歩み寄り、おもむろに抱きしめた。
「やっと逢えた。」
わたしの鼓動が早くなる。
「どうして?」
何も言わないうちから、わたしのこと、分かったんだろう。
「でも、君も分かったでしょ?」
彼が尋ねる。そう。。。わたしもすぐに分かった。一目見たときから。
「俺たちは、似たもの同士だから、引き合うんだよ。」
そんな気障なセリフも今は心地よい。

二人で向かい合わせに座り、食事をとる。テーブルの幅だけの距離なのに、寂しい。。
「こっちに来るかい?」
不意に彼が言う。
「え?」
「そこで一人じゃ寂しいでしょ?」
「そんなことないわ。」
「俺は。。。寂しいよ。」
そしてまたわたしは言葉を失う。
くすっ。彼が笑う。
「早く食べて、ココを出よう。」

二人はわたしが泊まる予定のホテルのバーにいた。
カウンターに座り、目の前にはカクテルと、窓の外には夜景が広がっていた。
「ねえ。。。どうして俺を見ないの?」
「夜景が綺麗ね。」
何となく会話がかみ合わない。その理由は分かっていた。

わたしは彼にこのまま惹かれてしまうのが恐かったのだ。
「俺を見て。」
彼が言う。りまは恐る恐る彼の方を向く。
「ねぇ、笑って。。。俺の好きな笑顔を見せて。」
「・・・・・」
ぎこちない笑顔。
「しょうがないな。飲もうぜ。」
少し呆れたような彼の笑顔。だって、恐いんだもん。
アルコールがゆっくりと身体の奥に溶けていく。

少しずつ緊張もほぐれていくのか、彼との会話にちゃんと対応できるようになっていった。
「よかった。ようやく笑ってくれた。」
彼がそう言って微笑む。
ドキッ・・・・・
一瞬、止まるかと思うくらい、大きな鼓動。彼の顔が近づいてきて、そっとわたしの唇に触れた。
「あ。。。。」
「ごちそうさま。」
彼が笑う。イタズラが成功した子どものように。。。
カクテルは甘く、彼の声も言葉も甘く、わたしは酔っていく。。。。

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何気ない会話

いつものように、軽い会話

何気ないレンアイごっこ

恋に落ちるまでの過程を楽しむだけの

バーチャルなお遊び



俺の声が聞きたかったの?

まさか! あなたこそ、わたしの声が聞きたかったんでしょ?

そうだよ。俺は君の声が聞きたかった。



その瞬間

ストンと落ちた

恋に



あなたの声が聞きたかった

声だけじゃない

あなた自身をもっと知りたい

そう思った瞬間



わたしは彼を忘れられなくなった

「今、帰りなんだよねぇ。」
彼からの電話。
何となく待っていた自分自身に気づいて、すこし意外な気分になる。
「歩いてるの?」
少し弾むような息で話し始める彼に、尋ねる。
「そう。。。帰りだけ、歩くようにしてるんだ。」
「健康のため?」
「イヤ。。そういう訳じゃないけど。」
他愛もない会話。それなのに、心が浮き立つ。
きっとあとで思い出しても何を話したかなんて
思い出すはずもないようなそんな会話。
「お腹空かない?」
彼が言う。
「ん。。。空いてる、かな。」
わたしが答える。
「一緒に食べようか。。。ここにおいで。」
「これから?」
「そ。走っておいで。」
「じゃ、そこの角のコンビニで待ってて。ふふふ。」
そんな会話。繰り返しては笑っていた。

「何が好き?」
「ん? 俺? んとねぇ~、えっち。せっくす。。。そして・・・君、りりか。。。」
呼び捨てにされてドキッとする。
「あ、今、ドキッとしたでしょ?」
彼が笑う。
「そんなわけ、ないじゃん。」
わたしは答える。でも胸のドキドキは収まらない。
「いや、そうだね。。。だって、俺のこと、好きでしょ。。。もう、好きになったでしょ?」
「そんなこと、ないです。」
顔はにこにこ、胸はドキドキ。彼の言葉はわたしを恋する乙女に変化させる。
「絶対、そうだよ。俺の声、聞きたくて堪らなかったくせに。」
「そんなことない。」
否定するけど、彼は聞き入れない。
笑いながら、「俺のこと、好きになってるよ。」って言う。
何となくそんな気分になってくるから、不思議。

「りりか。。。。」
不意に彼が声を潜める。
「なぁに?」
「好きだよ。」
「え?」
「好き。」
目の前に彼が微笑む映像が浮かび上がる。
ドキッ・・・・・
「ふふっ。ドキッてしたでしょ?」
今度はいたずらっ子のように笑う彼の顔。
どうしてわたしのこと、分かっちゃうんだろう。
「俺ね、君のこと、分かっちゃうんだな。これが。。。君も、分かるでしょ?
 俺たち、とっても気が合うんだよ。」
「そんなことないと思うけど。」
「うそうそ。ほんとはもう、俺にメロメロなくせに。」
「すごい自信ね。」
「うん。だって、俺、最高にいい男だから。」
そういって、また笑う彼。
「すっごい自意識過剰ね。」
他の人がそう言ったなら、絶対不快な気分になるはずなのに、
彼がそう言ってもちっともイヤじゃなかった。
やっぱり、わたしは彼に恋してるらしかった。

繰り返される他愛もない会話。
俺のこと絶対好きになるよっていう彼の言葉。

「俺のこと、好き?」
そう尋ねる彼に、聞き取れるかどうかの声で
「うん。。。好き。。。」
そう答えた。
朝、気付いた。
携帯に着歴が2件。
どちらも彼から。
一件は午後10時。
もう一件は午前3時。。。。
夜、仕事が終わるのを待って、電話してみた。

「俺の声が、聞きたかったの?」
彼が言った。
「まさか。。。電話くれたみたいだったから。」
わたしが答えた。
「ん。。。2回もかけちゃったよ。。。声が聞きたくなって。。。」
彼の声はわたしの耳に心地よく響いた
「そうなんだ。。。声が聞きたかったんだ。」
「でも。。。君も、でしょ?」
彼が言う。楽しそうに。
「君も、俺の声、聞きたかったでしょ。。。俺のこと、好きになってきたでしょ。」
「ちっとも。」
わたしは笑いながら答える。
「い~や、絶対そうだよ。俺のこと、好きでしょ。」
彼の言葉はどこまでも心地よく、わたしのことを溶かしていく。

彼の言葉は魔法の呪文。
わたしはいつのまにか。。。
恋の魔法にかかったのかもしれない。。。。


「ね、ね。俺のこと、好きでしょ?」

「はぁ?」

「ね、俺のこと、好きになってきたでしょ?」

彼の声は、電話の向こうから、わたしを笑わせた。


「冗談でしょ?」

「いやいや。本気だよ。」

冗談とも本気ともつかない口調で、笑う彼。


その時すでにわたしは、彼に恋していたのかもしれない。


「初めまして。」

初めて聞く彼の声はわたしの耳に心地よく響いてきた。

「かわいいね。」

何度彼はそう言って笑っただろう。

彼の言葉はわたしを心地よくさせ、わたしは何度も笑った。


「また、笑ってくれた。」

そう言う彼はほっとしたような、うれしそうな、そんな感じで。

その瞬間、わたしの目の前に

少し照れくさそうに笑う、

わたしよりもちょっと年上の男のヒトの表情が見えた気がした。

まだ、逢ってもいないのに。。。


1時間くらいの会話。

無邪気に笑う彼。

わたしの心は大きく傾いていった。

常識人ぶった人が聞けば、顔を顰めるような話で

わたしとあなたは、電脳世界で出逢った

もちろん初めから逢う気などなく、ただその場限り

バーチャルなレンアイを楽しめればそれで良かった

なのになぜ

電話で話そうと思ったのか

声を聞けば、それはすでにバーチャルではなく

よりリアルに近づくと、分かっていたのに


あなたの声はとても耳障りが良く

あなたの語り口はとても心地よかった


だから

その日から毎晩のように

あなたと会話を楽しんだ

すでにあなたはわたしのリアルな世界に踏み込んできていた


お互いがお互いに逢いたいと思うのに

さほど時間は必要なく


ついにその日がやってきた