天童さんの本は何冊が読んでいます。
憶えているのは「悼む人」と「永遠の仔」です。
他は読んだことがあるかもしれませんが、記憶にありません。

はじめて読んだ作品が「永遠の仔」でした。
当時、王様のブランチというTBSの朝の番組で、「感動!」「読み終わった後に涙が止まらない!!」「素晴らしい作品」と紹介されていました。
「そんなに素晴らしい本なのか」と、かなり感化されました。
当時の僕は今よりももっとお金がなかったのですが、ハードカバー2冊を購入し読みました。
自分によい影響を与えたかったのです。

地の足のついた導入からはじまったのはいいのですが、最後はふわっとしたあいまいでどうでもいい終わり方だったと感じました。
まるで「流星ワゴン」でした。

読了後の正直な感想は、「あおりばかり。本当に苦しんでいる人に寄り添っているフリなプロットで読んだ意味がない。時間の無駄。王様のブランチのブックコーナーってあおる商売の場なんだ。」と思い、がっかりしました。

やさしさを気取った雰囲気重視の小説家と、天童さんのことを見なして、彼の書いたものを敢えて読もうとはしませんでした。



しばらくして、直木賞作品を読みはじめました。
その中に、天童さんの「悼む人」がありました。
あの「永遠の仔」を書いた天童さんと気づかずに読みました。

この作品を読んで、作者の現実に対する誠実さに驚嘆しましたし、
この作品を読んで本当によかったと心を強く動かされました。

徹頭徹尾の誠実さというものを僕はこの作品に感じました。
(いろいろと恵まれて生きて来たことに、本人が気づいていない読者だと、この小説の価値はわからないと思っています。)


優れた作家だからといって、すべての作品が素晴らしいわけではないはずで、
普通の作家さんだからといって、すべての作品が普通の出来というわけではないと思います。


天童荒太さんの新作を書店で見つけて、ふと以上のことを思い出しました。