【8月27日(土)】
10.タカモリさん降臨
その日は、会津若松からバスで1時間ほどのところにある芦ノ牧温泉に泊まった。
お財布的には痛いが、やはりせっかくなのだから1泊くらいいいところに泊まろう、ということになったからだ。
もちろん、さすがに高級旅館ではないけれども、良心的なお値段でありながら「お風呂が大きく、露天風呂もきれい」「料理が美味しそう」という条件は満たしている。
そして実際、少なくとも私にとっては文句なしだった。
また来たいなぁと思う。
それはさておき、温泉と言えばボリュームたっぷりのお食事である。
すせりんはビール、私は梅酒で乾杯し、美味しくいただく。
当然、私は完食である。
そのことを、後悔するつもりはない。
ないのだけれど。
その後大浴場に行くために着替えた私の浴衣姿は、我ながら西郷隆盛のようだった。
なお、その旅館では、20:30から餅つきをするのが恒例となっている。
食事の時間が遅かったので、満腹状態では餅も食べられず、参加できなかったのが残念だ。
だが、考え方を変えれば――それ以上食べて腹が鏡餅にならなかったのは、幸いだったかもしれない。
11.旅の醍醐味
「旅の夜といったら地酒で飲み会だよね♪」ということで、温泉行きのバスに乗る前に、駅前で地酒のセットを購入した。
写真ではわかりづらいが、飲みきりサイズで5種類の地酒が入っている。
もちろん酒だけではつらいので、ビーフジャーキーとご当地喜多方ラーメン味のポテトあられなるものも購入、いっしょに美味しくいただく。
久しぶりに、すせりんとたくさん話した。
すせりんと出会って14年、すせりんが名古屋に行って10年。
その間に、お互いの環境や考え方が変わってしまったところもあるけど、それでも会えばいろいろ話したいこと、聞いてみたいことはある。
何だかんだで手抜きをせず、しょっちゅう無理しては体調を崩しているすせりんなだけに、心配は尽きない。
でも、目標に向かって一途なところは今も昔も刺激を受けるし、私もそうでありたいと思う。
時間が経つのも忘れて話していたら、いつしか時計は1時を回っていた。
5缶中4缶空けたことだし、飲み会はここで終了。
歯を磨いて布団に入ったのは、それから10分後くらいのことだった。
飲み食いした後に、すぐに寝る。
それが後日どのような形で表れたのか、知っているのは私と体重計のみである。
なお、一つだけ残った酒については、私が引き取った。
「Dr.野口(野口英世)」が描かれたそのお酒がその後どうなったのか、ということについては、内輪ウケのネタとさせていただきたい。
【8月28日(日)】
12.ほのぼの駅の癒し系駅長
楽しかった旅行も、あっという間に最終日だ。
この日は、芦ノ牧温泉駅から会津鉄道に乗り、塔のへつりという景勝地に向かった。
相変わらずチェックアウトでバタバタした挙げ句、「え、この時間の電車ですか? 間に合うかなぁ」と首を傾げられながら、旅館の人に駅まで送ってもらう。
本当は「徒歩15分」と聞いていたから駅まで歩こうとしていたのだが、車でさえけっこう時間がかかった。
ひょっとして、「車で15分」を勘違いしていたのだろうか。
それでも3分前くらいには駅に到着したので、旅館の人には本当に感謝のしようがない。
ところで、芦ノ牧温泉駅の名物といえば、帽子をかぶった駅長さんだ。
会えるのを楽しみにしていたのだが、残念なことに一目でそうとわかる駅長さんの姿はない。
切符は窓口で買うので、係の人に聞いてみることにした。
「すみません、今日は駅長さんは巡回中なんですか?」
「ええ、今日はまだミルクも飲んでないんですよねぇ。
夜行性ですから、昼はその辺で寝てることも多いんですけど」
「そうですか……」
少しがっかりしながらホームに出ると、その人も一緒に出てきてくれた。
電車が来るまでのわずかな時間、私はふと壁にはってあるポスターに気がつく。
「あそこのポスターに写っているヘルメットをかぶったのは、もしかして副駅長さん?」
「いいえ、あれは年下の彼なんですよ。
彼もまた別の駅の駅長さんなんですけど、たまに電車に乗って会いに来てくれるんですよ♪」
「えっ、駅長さんって女の子なんですか!?」
「女の子っていうか、おばあちゃんなんですけどね。
人間で言うと、もう80歳近いですよ」
それは知らなかった。
写真だけではわからないものだ。
芦ノ牧温泉駅の駅長は、少し長いきれいな毛並みの猫である。
駅長の帽子をかぶってその辺をふらふらしているそうなので、芦ノ牧温泉駅に行く機会があったら、ぜひ探していただきたい。
14.奇岩景勝地
塔のへつり駅は、無人駅だ。
入り口がなければ、森の中にあるただの小屋にしか見えないかもしれない。
そもそも、木の陰に埋もれて見落とされそうだ。
しかし、待合所にはちゃんとロッカーもあって、旅行者にはありがたい。
駅から徒歩10分のところにある塔のへつりは、奇岩の景勝地である。
豊かな緑の中に、奇妙な形に削り取られた岩肌が見える。
観光地としては意外とこぢんまりとしていたが、緑が濃くて、気持ちが良かった。
つり橋を渡って、対岸に行くこともできる。
観光客は少なかったが、このつり橋は、一度に30人以上渡ることはできないらしい。
「それって、一人何㎏の計算?」
「さあ?」
とは、私たちではなく別の人の会話だ。
同じようなことを考える人は多い。
つり橋の上からも、このような景色を眺めることができる。
対岸に渡ると、細い通路を通った先に、賽の河原のような洞窟があった。
ここの通路は本当に細く、しかも柵がなくて滑りやすい。
平たい石を5枚重ねたものがいくつもある洞窟も不気味だったが、正直なところ、本当に怖いのはこの通路かもしれない。
さらに、上へ行く急な階段を上ると、そこには虚空地蔵尊が祀られていた。
ところで、案内も説明もなかったが、この岩を見て「…ガメラ?」と思ったのは私だけだろうか。
もちろん、実際に名前があるとしたら、「亀岩」という名前なのだろうけれど。
(続く)