癌患者さんからの相談が一番多いので、必然的に主治医とのやり取りを知る事となります。そこで気になる点があるので語ってみようかと。

気になる点というのは、次のようなやり取りが多くなっていることです。

十分な説明をせずに「抗癌剤をした方が良いと思うのですが、どうするかは患者さんが決めて下さい」というやりとりです。

これ、おかしいです。
おかしい点は何かというと、これは医療行為の放棄だからです。

医療に強制力はありませんので、押さえつけてでも手術をすることはありません。医師は「患者さんの希望に添うように努力する義務を負う」と規定されています。単に守る人が減っているだけなのだろうと思います。逆に「じゃあいいよ、他の病院へ行けば?」という人は、先の「努力義務」を返上している方です。こんな人へ命を託す事に意義は感じないし、医療側の診療放棄なので医療費を全額返して貰って他の施設へ移って下さい(診療情報提供は受けましょう)。「医者の言うことが聞けないのか!」という人も返上組ですね。

医学知識をたくさん持っている医療の玄人が、知識を持たない素人へ情報を分かりやすく提供し、十分な理解を得る努力をすることがインフォームドコンセントです。説明責任と訳されますが、専門用語を羅列して記録した紙を渡すことがインフォームドコンセントではありません。素人の患者さんが理解を十分にし得たのかが重要です。

上記の「決めて下さい」を言われる方々は、殆ど抗癌剤を使った場合に何が起こり、使った時と使わなかった時の違いや、利点と欠点に関する説明を受けていません。単に「決めて下さい」という状況なのです。選ぶためには情報が必要です。その情報を提供せずに「決めて下さい」という点がおかしいのです。正確な情報を充分に提供された上での決定であればいいです。


ここで大切なことは、本当に必要な治療法であれば意地でも説得するはずだと言う事です。取り敢えずの選択肢は呈示したので、主治医としての説明責任は果たしたつもりなのでしょう。抗癌剤を使おうが、使うまいが、結果はたいして違いが無いということを知っている場合に口から出る発言です。「できれば断ってくれないかなあ」という心情もあるとは言えます。一見すると優しい感じですが見方の違いで、やはり責任転嫁の職場放棄です。


もう一度言います。

本当に抗癌剤を使って病状が改善に向かうのであれば、説得するのが医師の努めだと言う事です。情報を提供されなかった素人が判断できる話しではありません。この事を良く理解して下さい。しっかりと言葉の意味を見極めて下さい。


悩んだ時は簡単な質問を素人らしくしてみて下さい。
①その治療方法で私の病気は治りますか?
 ~ 「治ります」ならこれでおしまい
②治らない場合は何が目的になるのですか?
 ~ 多くの場合は「延命」を口にします
③延命が目的である場合、その治療方法で元の元気な生活に戻れますか?
 ~ 寝たきりでも心臓が動いている事が医療に於ける「延命」だからです

これをしないと終わってみたら思ったのとはぜんぜん違うというギャップに遭遇します。少しでもギャップを埋める努力を重ねて下さい。


医者の役割は自分の持ち札を切る事で結果までは考えません。癌をどうするかが興味の中心で、患者さんの人生に興味を持つことは余りありません。持ち札を全て出し切って結果が伴わなかった時に言う言葉は「全力を尽くしましたが及びませんでした」です。出てくる弊害については「仕方がありません」です。主治医の自己満足を満たすことが医療ではありません。駄目になる事が解っていて抗癌剤を勧める医者もいますので注意が必要でして、がん治療に於ける主治医の全力は危険を伴う事が少なくありません。しかし、それが努めだと医者は本当に信じて行動しています。かつての私もそうでしたから良く分かります。医療人と一般人の考えが相容れることは極めて困難ですので、双方が納得できる着地点を模索する努力をして下さい。自分の主治医がどのような人物なのかなどを踏まえて納得のいく人生を歩んで下さい。


抗癌剤の問題点は過去にも書きました。よろしければ参考にして下さい。
◆ 再発予防に抗癌剤を使いますか?
◆ 癌の評価方法
◆ 抗癌剤について考えてみましょう