ガン患者さんが手術を受ける時の心得


手術によって、一度臓器を取ってしまうと取り返しが付きません。覆水盆に返らずで当たり前です。ですから、手術が終わってみたら、人工肛門がお腹に付いていたり、足がパンパンに腫れたり、こんなはずではなかったと思わないようにしましょう。その時に主治医へ苦情を言っても「仕方有りません」と言われて終わります。

まず、手術を受けなかった場合と、受けた場合の利点欠点を考え得る限り紙に書きだし、それを双方天秤に掛けて手術に傾かない限り、手術を受けるべきではありません。手術と言う行為は、何を於いてもそれ以外には方法が無い場合に限られるのです。手術の問題は、安全か? 生活の質は落ちないか? 落ちたとしたらどの程度か? 命を賭ける価値がどこまであるのか、などなどです。

一般的な手術は根こそぎの摘出です。ただ、手術で苦痛の人生を与えられるとしたら不幸ですので、摘出と温存のせめぎ合いで手術方法の決着点を決めなければなりません。胃全摘、乳房全摘、卵巣子宮全摘、膵頭部広範囲摘出など、外科医は全摘をするのが当たり前であるとの認識はまだまだ根強いのです。普通の人は言われるがままを受け入れていますので、主治医へ意見する気合いも必要ですし、医学信者の家族とも戦う必要が有ります。

誰の人生の話かをよく考えて下さい。誰のために手術をするのですか? 自分のためでございましょ? 自分の事は自分で決めましょう。親や夫からも、とやかく言われる筋合いは無いのです。


新潟大学大学院の安保教授(専門は免疫学)は、リンパ節郭清のやり過ぎを懸念されています。リンパ節とは、新しいリンパ球や免疫抗体を産生し、細菌や異物、ガン細胞と戦うところです。その経路であるリンパ管は、最終的に静脈に注ぎます。要するにリンパ節とは集中的な防衛ラインであり、例えて言えば自衛隊の駐屯基地であり、リンパ管は道路です。手術でリンパ節を根こそぎ取り去ると言うことは、日本から自衛隊の基地も道路も根こそぎ無くす行為になるので、余計にガンの転移を促すのではないかという危惧が生じるといいます。長年、免疫学を極めて来た方の言葉が「リンパ節郭清はいけない」ですから、世の趨勢に反していようとも真理だと思います。

なぜ根こそぎに? 火事の延焼を避けるために燃えていない家を壊す江戸時代の火消しのようですが、基本的に外科医は取り残したくないからです(外科医は取りたいという人が多い)。また、責任追求型社会において下手にガンを残したら訴えられて負けるでしょうし。患者側が温存手術を希望しても、主治医側から「癌細胞が1個でも残れば再発しますよ?いいんですか?私は知りませんよ」と脅した上に投げ捨ててきます。客観性を失い、主観のみの医者が多いようです。「自分の決定が全て正しい」という医者ですね。注文を付けられると不機嫌になったりもします。こんな主治医に当たったら残念としか言いようがないですが、当たる確率は高く、しかも根の深い問題です。

腫瘍を外科的に取り除き、肉眼的に見えない癌細胞は自分の免疫細胞で駆逐するから大丈夫という自信も必要になってきますね。


では、手術を受けると決めた場合の一般的な注意点を述べて参ります。

1) 手術に完璧を求めてはいけません。元の健康体になると期待してはいけません。手術とは、病巣を減らしたり、機能の回復を試みる行為で不完全なものなのです。

2) 自分の身体に対して、必要最小限の負担で済むように主治医と良く話し合う事です。
① 温存手術は可能であるのか? その時の利点と欠点は?
② 内視鏡手術はできないのか? 同上(以下同様です)
③ 何処まで摘出するのか
④ 術後の身体の起こりうる不具合は何か?(例えば、歩き難くなる、浮腫みやすくなるなど)
⑤ 再建術はできないのか(例えば、胃全摘出後に胃の代わりになるような形に腸を使えないかなど)
⑥ 人工物を入れずに何とかならないのか
⑦ 手術方法が複数有る場合は、どれが安全確実なのか
⑧ カテーテル手術に伴う影響は何が考えられるのか などなど

3) QOL (Quality of Life)、すなわち生活・人生の質が維持できるようにする:手術は成功しても、元の生活が出来ないようでは困ります。ましてや、寝たきりになってしまえば、何のために手術を受けたかすら解らなくなります。生きると言う事は単に心臓が動いているだけではありませんでしょ。ですから、手術によってやむなくQOLが落ちると言われた場合は、本当にそうすべきかを充分に吟味しましょう。要するに、手術によって何を得て、何を失うのかを知り、吟味することです。納得が出来ない、疑問が有る、というならば、セカンドオピニオンへの紹介を申し出ましょう。しかし、同じ穴の狢(むじな)ですので、労力とお金を掛ける割には大きな違いは無い事が多いです。私の様な対局の医師や、患者さんに寄り添ってくれるような医師に巡り会うことは「強運」が必要です。

4) 手術の合併症や副作用についても、充分に確認する事:どんな簡単な手術でも死亡する危険性を秘めています。悪い所があるから取りましょうという安易な選択は止めて下さい。ちなみに、私の叔父の場合は、「癌の手術は確立されており、大丈夫です」と言われて術後1週間で急死しました。縫合不全です。できれば、長期的な展望でのお話しも聞き、受ける手術によって術後の生活にどのような影響が出て、どのような症状が残るのか、また、人工物を埋設したが故に一生飲まなければならない薬剤が必要になったりもします。

例えば、
① お腹を切る手術では、術後に腸閉塞を起こす危険性がつきまといます(癒着によって腸が円滑に動けなくなることがある)。
② 直腸ガンの場合は人工肛門が避けられないことが多い。
③ 人工肛門も一時的で、状態が安定したら戻すと言う事もあります。
④ 胃全摘をすれば、1回の食事量も減るし、下痢もしやすくなります。
⑤ 胆管ガンや膵頭部ガンでは、膵頭十二指腸切除と腸の再建術が行われますが、消化液が流れてくる臓器の切除ですから、切った部分から消化液が漏れて縫合部分が溶けてしまう「縫合不全」を起こす可能性は他の手術よりも高いと言うことを知って下さい。
⑥ 甲状腺を取れば、ホルモン補充療法を生涯に渡って要するかも知れません。
⑦ 心臓弁膜症で弁置換術を受ければ、血液が固まりにくくなる薬を生涯飲み続けるかもしれません。
⑧ 肺を切除すれば暫くは酸素が必要になるかも知れませんし、前のように運動が出来ないかも知れません。
⑨ 体内の人工物の耐用年数によっては、再手術が必要になると言われるかもしれません(人工関節や心臓ペースメーカーなど)。
⑩ 病気の再発率が何%かも確認しておくと良いです。
⑪ その他、もろもろございます。

 ともかく自分の中で、受ける治療に対して充分な納得をしたかを繰り返し確認し、自らが決断を下すことが大切です。他人に決めて貰い、自分の思い描く結果が得られなかった場合は、その他人を責めることになるだろうし、何であの時に、、、と後悔するでしょう。ですから、全て自分の責任で決めて下さい。


素人だし何を聞いていいか分からない と言う方は、何も聞かずにまな板の鯉になれば楽ですし、他人の意見で決めればいいでしょう。その代わり、何が起ころうとも文句を言う筋合いは無くなります。

そうではない方は、素人らしく何を聞いても恥ずかしいことはありません。存分に質問して回答を得るのです。それに答えるのが医師の努めのはずですから。答えてくれないのは医師では無く、単なる医者なので大切な命を差し出す価値はありません。

笑顔で大丈夫を繰り返す人当たりの良い主治医は一番やりにくいです。やんわりと誘導されて言いなりにされてしまいますから。まあ、それもまた人生かもしれません。


質問の基本は 利点欠点 です。これを聞けば天秤にかけられますからね。延々とそれを繰り返していきます。ともかく、疑問点は直ぐに質問します。あとでまとめての質問でも構いません。