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「何とかこの底なし沼から抜け出さなきゃ」

とうにコップから水が溢れているのを見て見ぬふりをするような日々が続いていた。私はこのままじゃダメだと最後の気力を振り絞って、専門学校に入った。25歳の冬の話である。平日は当然仕事が終わった後だと間に合わないから、毎週土曜の9時16時。だいたい1年半のカリキュラム。

もし試験に受かれば、どうにかなれそうな気がしたしどこにでもいけそうな気がした。男は黙って学費を分割(3年割賦)。


クラスはそれほど大人数ではなかったが、いろんな人がいた。暇そうな主婦や内向的な学生、老人、スーツの男。結局のところ誰一人とも一言たりとも話さず終いだったので各人の出自はわからなかった。

予想以上に精神的に堪えた。週休一日のようなものである。土曜の朝に平日よりほんの少しだけ遅く起きて渋谷へ。
講義が始まるや否やいつも強烈な眠気が襲い、テキストに塗られたマーカーは蛇のようにうねった。ふわふわとした知識に満たない情報や文字列の数々が意識の圏外を通過していく。10時くらいになると眠りに落ち、講師の休憩の合図とともに目が覚め、袖に染みた涎を見て自己嫌悪に襲われた。
大学の専攻とも違い基礎知識ゼロ。こんなんじゃダメだ。しかし帰りにディスクユニオンでディグっているときの方がよっぽど集中していた。
通勤や家でも講義を聞いたが1/fの揺らぎを孕んだ講師の声はほんの数分で私を安らかな眠りへと誘った。

土曜は専門学校、日曜はバンド練習。一瞬で休日は終わって、劣勢に立たされたぷよぷよのプレイヤーの如く疲労は溜まる一方だった。かろうじて起きているときも、決裁未了の案件のことが頭を過り、何にも集中が出来なかった(眠気をなんとかしようと腕をつねるせいで痣だらけになった)。

その日も開始間もなく講師の言葉は段々遠ざかっていき、限界を悟った私は机につっぷして意識をフェイド・アウトさせた。

「録画してる授業なんでこんなこと言いたくないんですけどね、そこの寝てるあなたは絶対に、受かりません」
講師の怒りを帯びた声で一気に現実に引き戻された。ハッと顔を上げたときに視界に飛び込んできた講師の眼鏡の奥の瞳は冷たく、口調とは裏腹に憐れみと侮蔑が宿っていた。

恥ずかしさのあまり急に体温が上がった気がした。昼の休憩で、針のムシロのような居たたまれない気持ちを抑えきれず、荷物をまとめて教室を出た。

渋谷の喧騒をかき分けて、ブックオフに辿り着いた。

ひとまず280円の棚を凝視していると、肩を叩かれた。

驚いて振り向くとそこには高校の同級生のナガオカがいた。
※高3の勉強合宿という地獄のようなイベントでレイジの話で意気投合した。今でも付き合いがある高校時代の唯一の友人。外タレの来日情報を適宜アナウンスしてくれる。

「おおお…」
偶然の邂逅に目を丸くしている私に長岡は言った。

「今何してるの?」



言葉に詰まった。(今何してるんだろう…)と思考を巡らせたが答えは出なかった。答えは単純に『学校サボってもやもやしながらブックオフにいた』ではあるが、もっと根源的に何をしているのかわからなかった。

大学を卒業して働きながらバンドをやって学校に通って、ボロボロになって…。

「…わ、わからない」

そうボソッと答えてその場から逃げるように去った。ナガオカの顔を見ることが出来なかった。


それ以降、一度も学校には行かなかった。行けなかった。あの時は、どこへでも行ける気がしていたのに。

何も学ばなかったし何も残らなかった。強いて言えばローンが残った。

そういえばトリプルファイヤーのドラムの大垣さんも買ってすぐに紛失したシンバルのローンを払い続けていたような気がしたけれどそんなトリプルファイヤーも出演するEmily likes tennisの久しぶりの自主企画に是非とも来ていただきたいです。
6/3(土)秋葉原クラブグッドマン
Emily likes tennisプレゼンツ“オートマチックアフィリエイトセミナーvol.2”
17時半スタート
adv:2000円+1d
出演
○Emily likes tennis
○股下89
○パイプカツトマミヰズ
○トリプルファイヤー
○O'CHAWANZ
※チケットぴあで前売りを購入すると出演バンドのカバーや未発表音源を収録したCDが付きます。
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口の中にのど飴を放り込み、舌で腫れた咽に押し当てた。誕生日前後に拗らせた風邪はなかなか治らなかった。そういえばカートコバーンとかジムモリソンとか、追い抜いちゃったな。ハロー、どれくらいひどい?とひとりごちて咳き込む。

3年ほど続けたバンドを辞めることになった。

自分から、とも言えるしバンマスの方から、とも言える。僕は昔から何かを辞めるのがとても苦手で(「続けることの美学」だなんてカッコいいものではなくてただ単純に優柔不断なのと人間関係が破綻するのが怖くてなかなか言い出せないだけ)結果的に傷を深めることばかりだった。今回は幸い喧嘩別れでないので今後も主にライブハウスで会ったりするのだろう。たまには飲みに行くかもしれない。

2012年の初頭だったか。出番が差し迫っていたため神楽坂の汚泥のようなライブハウスに仕事終わりに駆けつけると、後にカタカナを結成して曇ヶ原のアルバムのエンジニアをしてくれることになったミツビシがフロアに全裸で横たわっていた。(今日出演しなきゃ良かった…)と思いつつ自分たちの出番を終えて脱力したまま最後のバンドをぼんやり眺めていた。そのベースがショウタくんだった。
終演後ぽつぽつと言葉を交わした(トランスレコードとかの話をしたような気がする)。お互い下を向いたまま。

その年の冬に埼玉でライブをして終演後ショウタくんにヤミニさんが抜けてしまうので曇ヶ原でギターを弾いてくれないかと声をかけられた。

事前に動画を観ていてカッコいいなと思っていたので嬉しくて加入を決意したけど、まったく曲が覚えられなかった。エミリーは自分が作ってるし「AからZまで1回ずつ」みたいな曲構成だから実は覚えやすいんだけど人の作る曲でしかも構成が繰り返しや○回目は拍数が違うなどとても複雑だった。引継ぎみたいな感じでヤミニさんと半年くらいツインギターでやったので何とか覚えられた。

以後ヤミニさんが抜けたりあつみちゃんが一時抜けたりいろいろあったけど、バンド掛け持ちのまま気づいたら3年くらい経っていた。何とかアルバムを出せて、レコ発も出来た。

ヤミニさんが抜けた後くらいから、バンマスであるショウタくんが考えた1を2にも3にも膨らます、或いは0.5のアイデアをうまく1に持っていくのが自分の役割だと思っていたけど、皆の生活のリズムが合わず活動が思うように行かなくなるにつれ作曲に能動的になれなくなってしまったこと、ショウタくんの1を1と思えなくなってしまったことが原因と言えば原因だろうか。個人的には石島さんが抜けることが決まった時点で自分も続けるのは難しいなと思った。たまたま観た藝祭の動画の石島さんのドラムがとてもカッコよくて印象に残っているところにショウタくんに誘われて加入を決意したのがそもそもの経緯なので。

19のときからやってたエミリーとは違った楽しさもあったし、キツさもあった。空中分解寸前まで行って何とかリリースしたアルバムは思った以上に売れなかったけど、好意的でどこかポエティックなブログのレビューをたくさん見つけて、個人的にはとても嬉しかった。そういう人のためのアルバムだったんだと思う。新曲を入れられなかったのが心残りだ。

うまく説明できないけど曇ヶ原での活動はとても良い経験になった。エミリーの方ではほとんど弾かないコード弾きやアルペジオなど新鮮だった。何より恐ろしく手練なバンドメンバーと音楽の話をするのがとても楽しかった。メンバーとヤミニさんとミツビシに感謝している。今後の益々の…という宴席の〆のあいさつになってしまいそうだ。

最後にアルバムのギターの解説をしようと思う。加入する人の為に笑


1.うさぎの涙
通称「10拍子の曲」。作ってからは毎回ライブでやっていたと思う。ヤミニさんが居た頃は僕が単音リフ、ヤミニさんがパワーコードだったけど抜けた後はアレンジし直して今の形になった。ライブでのストロークはシンコペーションをうまく使い時もあれば全部ダウンピッキングで弾き倒すときもある(腕が死ぬ)。疾走感のあるマイナーコードと単音リフに移行後のキーボードとの和音が気持ちいい。
歌メロのクリーントーンのギターは透徹な気持ちで。
歌パートは長いお休みになって「やがて」のところからディレイを深めにかけて高音のリフ。GLAYのwinter, againのPVみたいな風景を想像している。
その後はギターのみで3拍子。なぜかずっと3拍4拍3拍3拍で弾いていてレコーディングのときに指摘されて「え?え?」と思いながら直した。
スネア一発のフィルインが入った後がカタルシスのあるパートに。ジミヘンが弾きそうな変型Emのフレットずらしていくのと、1弦と6弦のみ押さえるコード(?たぶんピッチシフター使った方がいい)を繰り返している。Emキーのソロみたいなのを織り交ぜてもいいと思う(そういう気が利いたソロがまったく弾けない)。
ギターのみのリフ以降はこのアルバムで一番好きかも知れない。ロバートフリップになったつもりで。

2.午前三時
イントロのキーボードがおどろおどろしいのでそんな気持ちで低くうねるように。
ギターのEmから叙情的なパートに入るのでここのアルペジオは指板の方を弾いてトーンを落としている(仕組みはわからないけどそうやったらそう聴こえる)。
ハネた7拍子のところは繰り返しになるとストロークが変わるので注意を。自分でも拍数がわからなくなる。
キメの後はディレイ+歪みで単音の短いソロ。チョーキングは顔で弾く。その後のハイポジションのコード弾きが好きだ。
歌が入ってからはカッティングをうまく使いながら。
終盤のメインリフのベースとのユニゾンはゲームのBGMのような気持ちで弾いている。

3.無風地帯
唯一のショウタくんとの共作。どこが僕でどこがショウタくんかはめちゃくちゃわかりやすいと思う。笑
イントロはマリリンマンソンのアンチクライスト~1曲目のテンションを意識。そのアルバムしか聴いたことないけど。
ギターのみの導入後はBPMをかなり落とすので意外と難しい。あとハンマリングオフで音量が出にくいのでかつリズムを揺らさずに弾くのが大変だった。
サビはクリーンのコード弾きなので特にないけどBm→A →DのDだけ気持ちタメてダウンストロークもゆっくりめに弾くようにした。
歌の後はジェームスチャンスっぽくなるのでいかに鋭利なカッティングをするかが大事。レコーディングの際は試行錯誤した結果弦のスクラッチ音がインダストリアルな響きになっている。再現方法は知らない。
イントロのオクターブ上パートはハンマリングプリングが握力を要する。多少はバタついても味が出ると思う。

4.鉛色
9拍子の曲(分解すると2拍×3+3拍)。ナウシカに出てくる蟲の羽音みたいなキーボードの音が好きだ。入った時点であった曲だけど当時は単音弾きでユニゾンだった。4人になってからはエッジィなコード弾きにアレンジし直した。ブレイクが完璧に決まると気持ちいい。
ピアノの間奏の後はリバーブをかけて白日夢の様な気持ちで。
ハイハット2発のあと大サビになるけどコード弾きに小指で高音を足すよくわからない7thっぽいコードなので耳を澄ませて聴いて欲しい。
アウトロはメロコアっぽい高音オクターブから展開させていくのが自分の中でかなり新しい試みだったので出来てよかった。

5.砂上の朝焼け
イントロはAmからオンコードでDmに繋げるのだけどしっかり押さえて気持ちよくジャガジャーンと鳴らしたいところ。イメージとしてはB'zのもう一度キスしたかった。
歌始まりはAm→Gだけどただストローク1発だと芸がないのでsus4をアルペジオで混ぜている。
ハードロック部分に移行する直前はよく使う6弦3弦のみのコード弾き(たぶん元ネタはドイツのオルタナバンドBlackmailのmoonpigsという曲)。
後はアレンジを変えつつも長いハードロック部分。ギターソロっぽいところは正直録音技術により弾けているけどライブだとほとんど弾けない…笑 あと同じフレーズをずっと繰り返しているとトランス状態になる。
歌に入るところは歌を邪魔しない単音ギター。歪みはかけるけどストロークを弱めにして遠くで鳴っているようにしたかった。途中からはアドリブ。

6.雪虫
歌ものなのでシンプルに。歌になるべく寄り添って「ギタリスト」的なエゴは出さないようにした。トーンを全体的に落としてもいいかも。というかいっそアコギでも。ハイポジションのコードが澄んだ感じがしてよい。
サビの単音リフがハンマリングオンオフで意外とモタらずに弾くのが難しい。
後は回数間違いだけ気をつけて。


12/17(土)の高円寺スタジオコヤーマが最後のライブになるので是非。
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僕だけに聞こえるくらいの小さなうめき声をYはあげていた。


いじめっ子から逃げ出したい一心で進学校に入ったはいいが、周りは全員男。1クラス40×8=320の男。まぁ男子校のメリットデメリットは置いておくとして、自身の(特に女性に対して)卑屈なメンタリティの組成に大きく寄与したことは確かだろう。

逃げおおせたという安堵感で堕落したわけではないが、学業の方で最初に派手に躓いた。理数系、特に数学は320人中313位という有り様で、答案を受け取った瞬間は西野カナも逃げ出すレベルで震えていた。

そして僕の後ろの席のYも、震えていた。僕が9点で、Yは7点だったのだ(100点満点)。

出来ないもの同士の連帯というやつなのか、僕はYと少し話すようになった。メタルフレームのメガネで一見秀才オーラを放っていたが実は水泳に長けており本人いわく「スポーツ推薦みたいなもんで入ったから勉強についていけるわけがない」とのことだった。

Yはマッチョなメンヘラというかなりレアな気質を確固たるものにしていた。「マッチョなメンヘラ」で思い浮かぶのは三島由紀夫とスランプに陥った福盛くらいのものである。


Yは中間テスト以降パラノイア的な言動(授業で指名されると「聞く相手を間違っている…」とぶつぶつ言いながら黒板に震えながら謝罪文を書く等)が目立ち始め、夏ごろには学校にも部活にも顔を出さなくなっていった。
個人的には筋肉担任のデリカシーを著しく欠いた発言(「Yの為に修学旅行のお土産をみんなで買おう!」やホームルームでの「Yの家に行きましたが『会いたくない』とのことです」という謎報告など)もどうかと思うが。


そして音楽の授業で事件は起きた。ピアノ伴奏に併せてアルトリコーダーのキーを外さないでオリジナルのフレーズで演奏をしようという節だった。初回の導入とペア決め、二回目のペアでの練習、三回目の発表という流れだったのだがYは初回と二回目を休んだ。宙ぶらりんの僕。音楽教師に相談すると「来週もしYが来なかったら適当に上手い奴と組んで。Yが来たら…逆に大変だな…」という非情な判断が下された。

そして発表の日、Yは何も知らずに珍しく登校してしまった。

概要を知り小刻みに震えだすY。「迷惑かけちゃうよ。そもそも僕は芸術的才能が欠落してるんだ…。こんなのおかしいよ…」音楽教師の「この発表は連帯責任ですんで片方がダメだともう一人がどんなに良くても評価は悪くなります」という死刑宣告もYの震えを加速させる原因だった。

「山田くん、どうしよう」次第に順番が近づき半泣きになるY。「仕方ないからずっとドとミとソ吹いてよ。多分そんなに違和感ないから」と僕はYを励ましたが「うぅ…」と呻いただけだった。

そしてとうとう僕とYの発表の番になった。

音楽教師の退屈そうなピアノの旋律が流れ始める。

僕はカーペンターズに酷似したメロディーラインを譜割りをちょっと変えて流麗そうな顔で吹いた。その横でYは泣きながら「プヒッ…ビョッ…フ…ピョッ」とおよそアルトリコーダーの音色とは思えない音塊をリズムも無視して出し続けた。「吹けないから吹かない」という選択肢もあるのにYは吹き続けた。しかも水泳で鍛えた肺活量を遺憾なく発揮した爆音で。
ざわつく教室。その不穏な空気がYを更に追い詰め、後半は先程の音塊に加えて呻き声も加わった。アバンギャルドにも程がある。

ようやく地獄のような時間(2分もないくらいだったが永遠のようだった)が終わった。

音楽教師が「あーこれ山田くん可哀想なやつだ」とボソッと言ってしまった。

「本当にごめん…!!!」Yは身体を痙攣させながら、僕に土下座した。音楽室の教壇で。涙と嗚咽とごちゃ混ぜにしながら何度も何度も。

(すげー音だったなぁ…)と思いながら全く怒りはなかったが、その惨状を収拾させる手段も思いつかず、僕はしばらく立ち尽くしていた。


Yは学校に来なくなった。留年して、退学した。


時は流れ僕は大学に入っていた。音楽狂のKが「山ちゃんこれはバンドやる上でマストだでな~」とNo New YorkとThis heatを教えてくれた。

ディスクユニオンで買って1曲目から吹っ飛ばされた。「うおおDish it outめちゃくちゃカッコいい…!!」

しかし何度か聴いているうちに妙な既聴感(という言葉があるかわからないけどデジャ・ビュの聴覚版)に襲われた。

ジェームスチャンスのサックスはあの日のYのリコーダーみたいだった。ただあの場のおぞましい空気はCDでは再現しようがない。

計算されたアバンギャルドは天然には勝ち得ないのかもしれない。本当のノイズはライブハウスでなく雑踏と喧騒の中にあるように。

そしてあの期のYの音楽の単位がどうだったのか、誰も知らない。今となっては誰も知り得ない。


お知らせ
Emily likes tennis次回ギグ
11/19(土・深夜)下北沢Basement bar
「E・M・O」ROUND,19
○URBANフェチ
○MANAVANA
○ダンカンバカヤロー!
○Emily likes tennis
○DJぽこにゃん(ゲスバンド)
○FOODキッチン小判鮫
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