グリーンランド旅行(3) | いまのしゅんかん

グリーンランド旅行(3)

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日曜日の定番になりつつあるDRドラマBorgenを観たが(前回は、しっかりグリーンランドでみさせてもらった。)、今回はなんと、グリーンランドのアメリカ基地におけるテロ容疑者の不法引き渡しのスキャンダル暴露がテーマで、首相がグリーンランドに訪れることになり、つい数日前まで見たところばかり出て感動した。というか、ヌークは本当に小さな町なので、1週間だけでも、かえって行ったことがない場所がなくなるくらいなのだが。でも、特に友人宅の近所が出てきたときには身を乗り出してしまった。

友人宅は、中心地からちょっと離れたところにあり、近くの海岸から美しい山が見える絶景のところで(冒頭の写真がその景色である。)、暇さえあれば散歩していたが、まさにその海岸にある古い墓地のところで、デンマーク首相とグリーンランド首相が語り合う場面が出てきて、「おお~」と思ってしまった。すでにJeg savner Groenlandである。

 

今回のドラマにあった根底のテーマである、独自の文化を守り自立していきたいのと、それでもそれにはまだ非力すぎてデンマークに依存せざるをえないグリーンランドの葛藤が、まさに市役所で大きな責任を担っている友達のご主人との会話の大きなテーマでもあった。

 

前回の記事で触れたが、グリーンランドの主産業はパブリックの仕事、というほど、労働者の中の公務員の割合が大きく、産業に乏しい。

デンマークも公務員比率が30%と、日本よりもずっと大きいが、公のサービス比率が大きい分税金も高いし、産業もものすごく乏しいわけでもない。なんといっても、自給率は120%である。

グリーンランドは、産業が乏しいことが大きな問題のひとつでもあるが、それだけでなく、所得税が一律42%であることも含め、国民の働く意欲をそぐいくつかのシステム上の要因もあるという。

 

例えば、デンマークでは、夫が月給50000kr稼ぎ妻が専業主婦であるのと、夫と妻いずれもがそれぞれ月給25000kr稼ぎ合計で50000kr収入がある場合とで比較すると、共働きで50000kr稼ぐ方が払う税金は低い。一人50000krだとtopskatを余分に払う必要があるからである。デンマークでは、共働き家庭が前提であるシステムになっている。

それに対してグリーンランドでは、一律42%だからその差が生じない上に、もし夫婦に子供がいる場合には、なまじ妻が働いてない方が、住宅費や光熱費、保育料などが免除されたりしてかえって利益が大きくなるシステムになっている。

デンマークでは、両親の収入に関係なく一定額の育児手当がつくが、グリーンランドでは育児手当がなく、収入の少ない親だけメリットが享受できるようになっている。

したがって、極端なケースでは、1314歳くらいの女の子が子供を生み、その若い母親の両親が孫の養育にかこつけて仕事をせず、生活保護を受けながらなおかつ住宅費免除などの特典を得るということもあるらしい。

それが意図的なのかどうか、特に小さな町ではそういう家族が多いそうである。

 

わたしは金属材料学の研究者なので、グリーンランドから金やタングステンなどの稀少金属が出ることが将来の新しい産業のポテンシャルになることを期待しているし、研究者としてそういうことに携わってみたいという夢もなきにしもあらずだが、友達のご主人も、化石燃料や鉱物が将来グリーンランドの経済を救うことになることをほぼ確信しながら、一方でグリーンランドの根の深い問題についても認識しているようであった。

 

それは、国民が教育を受け働き国に税金を納め政府が国を運営するという、わたしたちにとっての常識がグリーンランドに浸透していくほど、ただそれぞれが日々必要なだけ狩や漁をしていたプリミティブな時代があけてから十分な年数を経ていない、ということである。

 

教育に対する意識が低いのも大きな問題のひとつで、高い教育を受けるグリーンランド人が少なく、新しい産業を生む人材に事欠くどころか、今必要な医師や高校の教師でさえ足りず、デンマークやほかの外国から調達するしかない状況である。

高校もグリーンランド語だけにしたいそうだが、あいにく、グリーンランド人教師だけではまかないきれず、結局デンマーク人教師によるデンマーク語での授業を排除することはできないそうだ。

それどころか、保育園でも免許をもつ保育士が極端に少なく、たぶん園に二人くらいしかいなく、スタッフのほとんどが保育の教育を受けていないヘルパーだそうである。

 

大きな変化についていけないことも大きな問題を生んでいる。

つい40年前までお金がなくても完全自給自足でまかなえていたのが、いきなり貨幣システムがまかりとおるようになって、物質だけはいろいろ入ってきて、消費する文化におかされたり。

新しい物質にスポイルされているのは、グリーンランドだけでなく、あらゆるところで起こっていることであるが。

 

やっぱり、変化していくのには大きなエネルギーがいると思う。その弊害も絶対あるし。

しかし、だからこそ、その大きなチャレンジに立ち向かっていきたい、あと10年はグリーンランドにいつづけたいという友人のご主人のきもちもわかるのである。