音響心理学11

聴覚系の構造と機能4 - まとめと音源定位


蝸牛の中には、アブミ骨側から蝸牛孔側まで基底膜という膜があります。


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この図は、とぐろを巻いている蝸牛をまっすぐに伸ばした状態をあらわしています。

そしてこの蝸牛の断面図は、以下のようになります。


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このように蝸牛は前庭階と中央階と鼓室階に分けられます。

そして、中央階は内リンパ(高濃度カリウム)で、

前庭階と鼓室階は外リンパ(高ナトリウム)で満たされています。

この中央階と鼓室階を隔てている膜が基底膜で、

その上にはコルチ器があります。

コルチ器の中に、有毛細胞があり、有毛細胞から脳へ神経が伸びています。

基底膜が振動することで、コルチ器全体が揺れて、

そのことによって有毛細胞の先端の不動毛のチャネルが開いたり閉じたりし、

中央階の内リンパにあるカリウムイオンが細胞内に流入します。

カリウムイオンが流入することで有毛細胞内で脱分極=電位がプラスになり、

発火が生じるというわけです。


では、どういうときに脱分極が起こるのかということです。

もう一度不動毛の動きについて復習したいと思います。


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これは、有毛細胞の先端にある不動毛の動きを示したものです。


左の図では、蝸牛軸から遠のく方向へ毛が曲っています。

このとき、基底膜は上がっています。

このときには、チャネルは完全閉鎖されていて、

よってカリウムイオンは細胞内に入りません。

したがって、脱分極は起こらず発火は起こらないわけです。


真ん中の図は、基底膜が元の位置にあるときです。

このときいわゆる静止状態ですが、カリウムは多少流入しています。


右の図では、蝸牛軸の方向へ毛が曲っています。

このとき、基底膜は下がっています。

このときには、チャネルが開いて、カリウムイオンを大量に流入させます。

したがって、脱分極が起こり、発火が起こります。

(いくつかの図を見ていただければぴんとくると思います。)


このことから、神経符号化について述べます。

音の物理的性質のときに見た波形の図を今もう一度見てみます。


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これは、物理的な音がもつ基本的な波形(図は正弦波のつもり)です。

音響信号(空気の振動としての音)は、縦波であり、疎密波です。

それは、空気の圧力が疎の状態と密の状態が交互にくる波です。

この図のような波があるとき、

密の状態は空気圧はプラスです。

疎のときはマイナスになります。

では、同じように基底膜を見るとどうなるでしょうか。


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基底膜は上下に揺れるわけですが、

音響信号の波形をひっくりかえした形になっていると思ってください。

ですから、基底膜が下に揺れているときがプラスであるということです。

基底膜が下に揺れているときは、そこにある有毛細胞の不動毛は、

蝸牛軸側に曲っていて、カリウムイオンが流入して発火が起こるわけです。


ではここで、

音の強度と周波数をどのように神経に符号化しているのかまとめます。


強度は神経発火の頻度で、

周波数は神経発火の頻度分布(ピリオド・ヒストグラム)であらわされます。


神経発火、つまり活動電位というのは、

全か無かの世界です。0か1かです。

だから、神経の発火の大きさ、なんてものはありません。

すべて同じ大きさで発火します。

ですから、活動電位に存在するのは、リズムだけです。


強度は、例えば1秒の間に何回スパイクが来るかということで表現されます。

弱い音だとあまり発火しないし、強い音だとたくさん発火します。

そういう発火頻度で強度を表現しています。


これだけだと神経発火には、無秩序なリズムがあるのだと思いがちです。

しかし、ここには聴神経特有の驚くべき規則性があります。

そのことを、位相固定と言います。

発火は無秩序に起こるのではなく、ある偏りを持って起こります。

パターンがあると言ってもいいです。

つまり、1つの波の中で、特定の位相でしか発火しません。

以下の図を見てください。


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これはある1つの音響信号の波形です。

こういう波があるときに、神経発火は、波がプラス側にあるとき、

つまり密の状態にあるときにだけ起こります。

言い換えれば、マイナスのときには発火しない、

厳密に言えば発火しにくいです。

こういう発火のパターン=位相固定性があります。


このように神経発火は、

1秒間にどれだけ発火するかということだけでなく、

その発火がある特定の位相でしか起こらないという特徴を持ちます。

なぜそのような位相固定が起こるのかというメカニズムは、

さっき説明した不動毛の動きによります。


基底膜が下がったときに不動毛のチャネルが開くので、

有毛細胞が脱分極し、発火が生じます。

逆に基底膜が上がるとチャネルが閉じるので、発火しません。

それはこのように神経発火の位相固定性として説明できます。



このように、聴神経では発火頻度と頻度分布によって

強度と周波数を表現しています。

そして、忘れてはいけないのは、

有毛細胞は基底膜の上に列をなして並んでいるということです。

例えば、1つの振動が蝸牛に入ってきたとき、複数の有毛細胞が反応します。

そのときの発火の頻度分布は同じですが、

それぞれの場所の発火頻度は異なります。

つまり、振幅はある場所を頂点としてその周辺では徐々に小さくなるからです。

それぞれの場所にある有毛細胞から聴神経が伸びていて、

脳は全部を総合した形で情報を受け取ります。


次回、まとめと中枢聴覚機構、音源定位について述べます。

予定ではピッチ・ラウドネス・音色となっていますが少しタイトルとずれますね。

話は連続していく感じなので、ぐだぐだですが少しずつまとめていこうと思います。