ひっそり籠もりたい箱根の高級宿~神奈川県・芦之湯温泉「鶴鳴館 松坂屋本店」(25000円・後編)
今年1年の温泉〆ということで、温泉仲間と
ちょいとリッチに、箱根の芦之湯温泉、
「鶴鳴館(かくめいかん)松坂屋本店」へ…。
芦之湯温泉は、国道1号線の最高点の
すぐ近くということで、標高800m以上。
年末寒波で、敷地内の池は、
すっかり凍てついていました。
「霜柱」も、芦之湯では健在。
昔は、静岡でも、普通に見られたんですけどね。
これだけ寒かったら、やっぱり大浴場で温まりたいですね。
硫黄系のお湯のため、シャワーの設置は一部。
硫黄があると、金属の腐食が早いですから、
これは仕方ないことです。
「シャワーが少ないじゃないか!」と文句を言う前に、
高校の化学をもう一度、勉強し直しましょう。
浴場は、夕食時間帯で入れ替わります。
こちらが元々は、男性用の浴場だった様子。
注がれているお湯は、もう一つの浴場と同じ、
芦之湯9号泉(芦刈の湯)。
59.1℃、ph8.1、毎分139リットル、動力揚湯されている
含硫黄ーカルシウム・ナトリウム・マグネシウムー
硫酸塩・炭酸水素塩泉(硫化水素型)です。
硫黄、硫酸塩、炭酸水素塩という、
肌に優しい成分がいっぱいの泉質。
簡単に言いますと、女の人が入れば翌朝には、
“美しい人はより美しく、そうでない人はそれなりに”
キレイに見えるお湯。…というのは、
言い過ぎかもしれませんが、
あながち嘘ではない泉質ですよ。
さあ、温まったら、いよいよ朝食。
ダイニングには、バイキング的に自由に取れる
新鮮な生野菜と…。
相模湾産の鯵、カマスなどの干物が…。
干物はここでチョイスしたものが、
のちに焼かれて食卓に届く仕組みです。
魚が選べるのがいいですね。
朝食は、結構ボリュームがありますねぇ。
茶碗蒸しというと、宿の夕食の定番ですが、
コレを朝に持ってくるというのは、新鮮かも。
白いご飯&しじみ汁が体に沁み入ります。
「アジの干物」が運ばれてきましたよ!
脂がのって、完食でございました。
ちょいと洋食的な内容は多めかな?!
さて、箱根といえば「箱根七湯」。
湯本、塔ノ沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀、芦之湯。
今は、あれやこれや加わって、「十七湯」と呼ばれますが、
この七つが、江戸時代からの由緒ある温泉地です。
もちろん、芦之湯温泉もその一つですね。
芦之湯の中でも、特にお湯へのこだわりを見せる
「鶴鳴館 松坂屋本店」。
今回は、温泉にうるさい人ばかりということで、
特別に敷地内にある源泉を見学させてもらいました。
おっ、櫓が見えてきました。
昔は敷地内にある源泉から自然湧出していたそうですが、
今は、コンプレッサーでエアを送って、
動力揚湯で浴槽にお湯を届けています。
若旦那による解説を受けます。
酸性、アルカリ性の度合いを示すphも
93年の段階では、「7.3」でしたが、
今は「8.1」に変化。
普通、硫化水素は水に溶けると、酸性の水溶液となります。
その意味でも、アルカリ性の硫黄系のお湯は珍しいですね。
湧きだしたお湯から、湯の花を沈殿させる装置。
エアを送って湧き出させるということは、
お湯に空気が触れて硫黄が酸化、
塩(えん)が出来て沈殿が出来る…。
この沈殿が湯の花というわけですね。
その過程で、エメラルドグリーンになったり、透明になったり、
濁って見えたり…、これは気温などによっても左右されます。
交換されたばかりの配管を見せてもらいました。
出来るだけ湯の花を沈殿させても、
配管の裏側には、湯の花がビッチリでした!
湯温は、バルブによる調節で行っています。
59℃で湧きだした温泉は、
夏場は浴槽までノンストップだと、
ほとんど湯温が下がらず、57℃ほどで届いてしまうため、
湯量を調節して、湯温を下げる必要があります。
でも、このような寒さの中では、かなり下がってしまうため、
湯量を多くするなどして、カバーしていくわけですね。
ただ、この湧きだす湯量というのも、
その日、その日によって変わってきますから、
若旦那曰く、ストップウオッチで時間を計りながら、
毎分の湯量を確かめることもあるんだとか。
毎日毎日、その日のお湯の状態に合わせて、
「ちょうどいい湯加減」を創っていくわけですね。
健気にも見える、このような取り組みを行っていても、
心ない問い合わせもあるそうです。
客:「松坂屋さんは、硫黄泉ですか?」
宿:「硫黄の成分は含まれていますけど…」
客:「濁り湯ですか?」
宿:「濁る時もありますし、そうでない時もあります」
客:「じゃあ、濁り湯じゃないんですね?」
宿:「これは、その時によって変わりますので…」
客:ガチャン!
そんなこともあって、硫黄泉というと
白い濁り湯を勝手に思い浮かべる人が多いので、
泉質の問い合わせや紹介に対しては、誤解なきよう、
出来るだけ、正式な泉質を言うようにしているそうです。
「松坂屋本店」の、正式な泉質とは…
「含硫黄ーカルシウム・ナトリウム・マグネシウムー
硫酸塩・炭酸水素塩泉(硫化水素型)」です。
こういう話は、紹介するメディア側の仕事をしている
人間にとっては、多少耳の痛い話でもあります。
「硫黄泉」とか「濁り湯」という言葉は、
響きがいいので、多用してしまいがち。
でも、化学的な言葉をズラズラと並べると、
見たり、聞いている人は、拒絶反応を示しがち。
短い言葉で、正しく、判りやすく伝えるという、
このジレンマには、悩みますね。
何かと、最近のテレビ番組などでは、
「難しいことを判り易く…」といった解説が重宝されますが、
見たり、聞いたりするほうも、
「簡単な言葉には、ウソがある」ということを
織り込んでおく必要があると思います。
「真実」は、自分の目で見たものだけ。
確かめたければ、ぜひ現地へ行ってみて下さい。
箱根七湯には、みんなお湯の神様として、
熊野神社が祭られているそうです。
松坂屋さんでも、源泉の掃除が終わると、
「ありがとうございます!」と手を合わせるそうですよ。
なかなか、普段は手が出る価格帯の宿ではありませんが、
一年の〆や大切な日、カップルで出かけたい日など、
愛情たっぷりの「温泉」を楽しんでみる価値は、
大いにアリだと思いますよ!