　トム・クルーズの「アウトロー」のはなし、つづきです。

　ジャック・リーチャーの推理どおり、一見、異常者の無差別殺人に見える犯行に、裏があるとしたら？　殺された五人は「たまたま河べりにいた」というだけで、つながりも共通点もないとしたら？

　実は、真犯人が本当に殺したかったのはこのなかの一人だけで、あとの四人は、異常者の犯行に見せかけるための目くらまし･･･？

　はい、たぶん、ソレです。そういう筋の古典推理小説を、すぐにいくつか思い出せますね。

　というわけで、リーチャーは、女性弁護士の尻をたたいて、被害者の家族を一軒づつ回らせます（･･･自分では、やらないんですね）。このなかの誰かが「真犯人から狙われた理由」があるはずだからです。容疑者の弁護人が被害者の家族を回る、これって、嫌な仕事ですよ（私はちょっとだけ分かる、だからリーチャーが自分ではやんない理由もわかる）。
　罵声を浴びたり水をかけられたりしても文句言えんような、このイヤーな仕事を、タカビーだったエリート女性弁護士が、誠実に一軒づつ話を聴いていく、このへんがドラマです。イヤーな仕事だからといってボーッと流していると、この映画の面白さを逃します。このなかに「真犯人の目的」に繋がる手がかりがあるはずだから。
　で、これもお約束で、事件を調べるリーチャーに陰から危害を加える者が現われ、同時に検事（アメリカの検事ってのは、選挙で選ばれる、政治家みたいなもんですよね、たしか）が、女性弁護士に「手を引け」と忠告します。このふたりは、親子なんです。父は、娘が「人権派弁護士」であることが不満のようで、プレッシャーをかけまくるのですが。ヒロインは、もしや父親が真犯人？と疑わなければならない立場になります。

　私が「最近のアメリカ映画には必須」と考える、親の抑圧、娘の葛藤、というテーマは、この検事と弁護士の父娘が担当してるわけです。なるほどね。
　この女性弁護士、Ｂ級アクション映画のヒロインにしてはとびきり美人でもセクシーでもなく、なおかつ芝居が上手いです。ということは、この映画はＢ級ではない、といふうに諒解すべきです。「ミッション・インポッシブル」シリーズとは、ちょっと違った見方をしなければいけない、つうことです。

　主人公の「陰」、ヒロインの「葛藤」、それを取り巻く「社会矛盾」、そういうもの抜きでは見られない、わけです。ブン殴ってすべて解決、とはいかんのですな。あああ、これは数字取るのはキツいな。でも仕方ないです。そういう種類の映画なんだから。
　いわば「推理ファン向け」です。ジャンルとしてはハードボイルドですから、新本格ほどではないにしろ、どんでん返し的なものが終盤にありあます。但し、シリーズ化するつもりなので、「トムクルーズが実は犯人」というのだけは、残念ながら、ありません。あたりまえか。

　いまさらですが、今回の熱海写真と映画の内容は、あんまり（全然）関係ありません。

「アウトロー」は、ヒロインがマジメで頭よすぎ、だからこれはＢ級アクションではありません。じゃあ？