いやあ、華があるっていうのは、こういう女優なんだろなあ。
と思ってたら、原節子さん死去、というニュースが。びっくりだ。しかも今年の9月って。これだけのひとが、五十年も誰にも顔を見せずに生きてたんだよ、ついさっきまで。
以前、山田洋次監督の「東京家族 」を見て、なるほどそういう話か、って、知ったような気になってたんだけど。
なりほど、今回、小津安二郎の「元の」映画を見てると、そうだよこういう話だよ、って思いだしたけど。年とった父母が上京してる話ね。だけど子供たちはちょっと厄介者が来たって感じて困ってるんだ。
そういう大筋は同じなんだけど、決定的に違うのは、「ツマブキくんが、生きている」ってことだ。
原節子にあたる役が蒼井優で、血のつながってない彼女がいちばん親切、ってのは同じだけど。
でも、この映画の原節子は、未亡人なんだ。夫(笠智衆の下の息子)は、もう死んでる。戦争で。
そう、「戦争で死んでる」んです。この映画は、そういう時代のものなんです。日本映画で「名画」は「戦争」を必ずどっかに抱えている んだ。
この設定だけは、時代を現代に移すと、再現不可能なんだ。だから、ツマブキくんは生きている。
でも、原節子の夫は、もういない。
すでに死んだ夫の両親、もう「関係ない人」と言っていい老人たちに、心から優しく世話する原節子。
なんでか、って、分かる気がするよね、ものすごく分かる。戦争で死んだ夫を、忘れたくないんだ。たぶん、「忘れられない」というよりは、「忘れてしまうような自分になりたくない、なるのがいやだ」という。
「いいえ、私、ずるいんです。私ずるいんです」
原節子にそういわれると、なんか、心を鷲掴みにされるような気がする。ほんとに。名画ってこれだわ。