熊谷駅前に馬に乗った銅像が建ってる、熊谷次郎直実を、松本幸四郎が演じてます。つまり源平合戦の話ね。義経も、善いもん役で出てきます。
平敦盛を討ち取った武将ですが、おかげでいろんな所に、いい役で名前が出る人物です。能の「敦盛」でも副主役だし。物凄い得してますね、直実さん。
とは言っても。この芝居の直実は、物凄く可哀想な役回りです。歌舞伎でいっつもある話ですが、主君のために自分の子供を身替わりに殺す、という話です。
菅原伝授の寺子屋も、先代萩の毒饅頭も、歌舞伎のお決まりの話なんですが、私、何度みても、自分の息子を犠牲にして、それで忠義、って話には納得いかないんですよね。
こういうことを平気で命令できる義経が善いもんのポジションだってのも、大いに疑問だわな。
江戸時代の庶民は、こういう話が好きだったんかなあ。忠義のかにために自分のいちばん大切なものを犠牲にする、だから偉い。理屈は分かるけど、それでいいのかって叫んじゃうよね。早く家帰って子供の顔見て安心したい気分になりますよ。
哀しみのかたまりみたいな幸四郎が、目の前の花道をぐわーっと歩いてくる、あれが見られたのは、ほんとに良かったな、と。
でもさ、歴史上実在の直実は、別に息子を殺してないんだよね。やっぱり得してるわ、このひと。